西洋タンポポとは
●基本情報
西洋タンポポは、キク科に属するたんぽぽの一種で、別名ダンデライオンと呼ばれます。この呼び名は、フランス語のダンドゥリオンに由来し、葉の形がライオンの歯に似ていることからこの名前がついたといわれています。高さは20~40cmになり、葉や茎を切ると白い乳液が出てきます。春に鮮やかな黄色い花を咲かせた後、白い綿毛のついた種子をつけます。日本には約20種類のたんぽぽが自生しており、花が外側に反り返るものが西洋種です。西洋では、たんぽぽは第一級の薬草とされています。
西洋タンポポは、ビタミンや鉄を多く含み、薬効が高いことが知られており、昔から広く利用されてきました。花にはカロテノイドの一種であるルテインが含まれ、紫外線や人工の青白い光から目を守る効果が期待できます。葉には、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンDが豊富に含まれています。また、カリウムを豊富に含んでいるため、高い利尿作用が期待できます。排尿によって失われがちなカリウムを摂ることができる点は、一般の利尿剤にはない長所といえます。春の若葉は、水にさらしてアクを抜き、サラダ、スパゲッティ、佃煮、漬物、油炒めなどにするとおいしく食べられます。根は、葉と同様に高い利尿作用が期待できます。また、消化不良や便秘を解消するのにも役立ちます。薬効が集中している根の部分は、ハーブティーやコーヒーとしてよく飲まれます。ヨーロッパでは、根を干したたんぽぽのハーブティーが尿路結石や母乳の分泌促進によいとされています。煎った乾燥根を挽いて入れるたんぽぽコーヒーは、ノンカフェインであるため、不眠症に効果があります。春を思わせる、軽い甘みのある味と香りが特徴です。ノンカフェインでヘルシーなたんぽぽコーヒーは、自然食レストランの定番メニューになっています。苦みが苦手な方は、はちみつや黒砂糖を入れて飲むのもおすすめです。
●西洋タンポポの歴史
西洋タンポポは、繁殖力が高いため、世界各地で自生または栽培されており、歴史的にも各地の伝統医学で自然薬として活用されています。インドのアーユルヴェーダ[※1]やアラビアのユニナ医学[※2]では、肝臓や胆のうの不調、リウマチなどの体質改善に用いられており、北米の先住民イロコイ族は腎臓病や水腫、皮膚病に用いてきました。日本でも、西洋タンポポの根は生薬として、食欲増進、胆汁分泌の促進、便秘の解消や、母乳分泌の促進などで用いられてきました。
●西洋タンポポの育て方
ヨーロッパが原産地の西洋タンポポは、日当たりのよい場所で育ちます。乾燥しない程度で、水やりをすることが大切です。種まきは春から初夏にかけてと、秋に可能です。葉を利用する際には随時株を切り取り、株を大きくしないことで、大きくてやわらかい葉を収穫することができます。乾燥用の葉は、春から夏の開花期に採取し、日干しにしておきます。根を利用する際には、2~3年かけて十分太くした根を秋に掘り上げ、水洗いして荒く刻み日干しにします。
●西洋タンポポに含まれる成分と性質
カリウムが豊富な葉は、むくみや泌尿器の感染症に用いられます。また、西洋タンポポの尿酸排泄作用は、ほかのハーブと合わせて様々な症状に効果を発揮します。通風にはネトルとあわせて、また他のハーブとブレンドして、関節炎やリウマチ、高血圧に使われます。根は強壮剤として毒素排泄や体質改善に活躍します。特に、苦味質フィトステロールは強肝作用に優れ、肝臓や胆のうの疾患に効果が期待できます。また、豊富に含まれるオリゴ糖の一種イヌリンは、便秘や皮膚疾患、消化不良、さらには疲労回復などに利用されます。
●癒しをもたらす西洋タンポポ
体内の浄化と解毒作用に優れた西洋タンポポは、体の毒素だけでなく、心に溜まっている毒素を浄化してくれる働きも期待できます。舌を刺激する葉を使用することで、鼻腔の奥まで一気にパワーが通るといわれています。根は大地のようにどっしりとした安定感を生み出してくれます。怒りや疲労を溜めこんでしまう人に安らぎをもたらします。
[※1:アーユルヴェーダとは、インドで古くから語り継がれている東洋医学のひとつです。「予防医学」の考え方を重視し、世界保健機構(WHO)が正式に奨励している医学です。]
[※2:ユニナ医学とは、アラビア、イスラム地方で古くから取り入れられている伝統医学です。]
西洋タンポポの効果
●むくみを予防・改善する効果
西洋タンポポは、利尿作用が高いカリウムを豊富に含んでいます。カリウムの働きによって、不要な水分や老廃物を尿として体外に排泄することで、むくみの改善が期待できます。また、カリウムは筋肉のエネルギー代謝や収縮を間接的に補助するため、むくみがちな足の筋肉を働きかけ、ポンプの働きをサポートし、より強力にむくみを改善してくれます。【1】【2】
●食欲増進効果
葉と根に含まれる苦味質は、消化管全体および肝臓を活性化させ、消化液の分泌を増やします。食欲の増進や消化を助けます。
●便秘を解消する効果
西洋タンポポには穏やかな解毒作用があるので、毒素、老廃物、汚染物質を肝臓や腎臓が排除するのを助けます。便秘を起こしやすい食べ物を食べることや冬の運動不足などで起こる廃物の解消に効果が期待できます。【3】
●母乳の分泌を促進する効果
乾燥させた西洋タンポポをハーブティーなどとして煎じて飲むことで期待できる効果のひとつに、母乳の分泌を良くする働きがあります。ノンカフェイン飲料であるため、授乳期の女性も安心して飲むことができます。
●リラックス効果
ハーブティーやコーヒーとして利用される西洋タンポポの根には、穏やかな弛緩作用が期待できます。カフェインも入っていないため、リラックスを望む際の飲用で効果を発揮します。
西洋タンポポはこんな方におすすめ
○手足のむくみでお悩みの方
○排尿でお悩みの方
○便秘でお悩みの方
○胃の健康を保ちたい方
○母乳の分泌でお悩みの方
○心を落ち着かせたい方
西洋タンポポの研究情報
【1】カナダの西海岸ブリティッシュコロンビア州での薬草学研究の中では、民間薬として西洋タンポポは乳房浮腫の予防として使用されており、むくみ改善や駆水作用が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17324258
【2】健常人17名を対象に、西洋タンポポを8mL 投与したところ、投与5時間後には利尿作用が確認されたことから、タンポポには利尿作用によるむくみ改善効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19678785
【3】慢性大腸炎患者24名を対象に、タンポポを含む数種のハーブで治療を行ったところ、15日後には95.83% の患者で痛みが改善され、便秘も改善したことから西洋タンポポに便秘改善効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7336706
参考文献
・育てる 味わう 楽しむ ハーブ・スパイス館 小学館
・佐々木薫 ハーブティー事典 池田書店
・林真一郎 メディカルハーブの事典 東京堂出版
・リエコ・大島バークレー 英国流メディカルハーブ 説話社
・本多京子 食の医学館 株式会社小学館
・マッキンタイア 女性のためのハーブ自然療法 産調出版
・Lans C, Turner N, Khan T, Brauer G, Boepple W. 2007 “Ethnoveterinary medicines used for ruminants in British Columbia, Canada.” J Ethnobiol Ethnomed. 2007 Feb 26;3:11.
・Clare BA, Conroy RS, Spelman K. 2009 “The diuretic effect in human subjects of an extract of Taraxacum officinale folium over a single day.” J Altern Complement Med. 2009 Aug;15(8):929-34.
・Chakŭrski I, Matev M, Koĭchev A, Angelova I, Stefanov G. 1981 “Treatment of chronic colitis with an herbal combination of Taraxacum officinale, Hipericum perforatum, Melissa officinaliss, Calendula officinalis and Foeniculum vulgare.” Vutr Boles. 1981;20(6):51-4.