ダマスクローズ

damask rose

ダマスクローズとは、2万種類以上存在するバラの中でも特に香り高いといわれている品種のバラです。
濃厚な甘い香りが特徴的であるため、ローズオイルやローズウォーターの原料として用いられています。
サプリメントなどにも広く利用され、体臭を抑える効果やリラックス効果などが期待されています。

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ダマスクローズとは

●基本情報
ダマスクローズとは、バラの中でも特に香り高いといわれている品種です。
世界で2万種類以上存在するバラですが、主に香料としてローズオイルの抽出に用いられるバラは、ガリガ、ダマスクローズ、アルバ、センティフォリアの4種類です。
ダマスクローズはガリガの子ども、アルバはその孫、そしてセンティフォリアはダマスクローズの孫にあたるといわれています。
ダマスクローズは濃厚で甘い香りが特徴的な品種であり、古来よりローズオイルやローズウォーター[※1]などの原料として使用されてきました。
バラの香りは、アロマテラピーでも人気が高く、特に優雅な香りを持つダマスクローズのローズオイルは、高級ブランドの香水などにも用いられており、体内のめぐりを良くし、美容にも良いとされています。

●バラの歴史
バラ(薔薇)はバラ科バラ属の種の総称です。バラ属の植物は灌木(かんぼく)[※2]、低木、または木本性のツル植物で、葉や茎にトゲを持つものが多いことが特徴です。
バラは古来より薬効があるといわれ、摘みたてのバラの花びらは、お茶やお酒、ジャムなどに用いられてきました。北半球の温帯域に広く自生しており、チベット周辺や中国の雲南省(うんなんしょう)からミャンマーにかけてが生産地であるとされています。
香りの世界では「女王様」と称されているバラは、5000万年以上前に地球上の各地に現れたと考えられています。

●ダマスクローズの歴史
ダマスクローズの栽培は、紀元前5~6世紀には始まっていたと考えられており、ダマスクローズ(damask rose)という名前は、シリアの古い都であるダマスカス(Damascus)からブルガリアへ運ばれたことに由来しています。
また、紀元前6世紀頃、女流詩人サッフォーはバラを「花の女王」と詠っており、中でも特に香り高いバラであるダマスクローズは「バラの女王」と呼ばれていました。
古代ギリシャ・ローマ時代にはすでに観賞用として親しまれていたダマスクローズは、世界三大美女の一人であるクレオパトラやナポレオン・ボナパルトの最初の妻であるジョセフィーヌ皇妃[※3]にも愛されていたといわれています。

●ダマスクローズの生産地
ダマスクローズは、主にブルガリアで栽培されています。
日本ではヨーグルトのイメージが強いブルガリアですが、欧米では“バラの国”として知られており、ダマスクローズの一大産地でもあります。
ブルガリアでダマスクローズの栽培が盛んに行われているのは、ブルガリアの首都ソフィアから東へ約140km行った場所にある、「バラの谷」と呼ばれる地・カザンラクです。
カザンラクという地名は、「銅の釜」という意味を持ちます。「銅の釜」は、ローズオイルやローズウォーターを精製するために使用する道具であるため、道具名がそのまま地名になるほど、ブルガリアのカザンラクには辺り一面にダマスクローズが咲き誇っています。

カザンラクは、バルカン山脈とスレドナ・ゴラ山脈に挟まれており、広大な山脈が北風や南風を止めるため、植物が生育しやすい地形に位置しています。
また、カザンラクは、酸性度が低くて水はけの良い土壌、豊富な雨量、昼は暖かく夜は涼しい気候など、ダマスクローズの栽培に適した条件が整っています。
ダマスクローズの収穫期間は、1年のうち5月下旬~6月上旬にかけての20日間程度しかないため、ダマスクローズは、サマーダマスク(夏のバラ)と称される場合もあります。
この時期のカザンラクは、午後にスコールが降り、翌朝晴れるという独特な気候であり、このスコールが香り高いダマスクローズを育てる最も大切な条件となっているのです。
ダマスクローズは、夜のスコールによって土壌に蓄えられたたっぷりの雨水と一緒に、豊富な栄養を根から吸い上げます。
そして翌朝、太陽の光を浴びた時に開花し、甘くて優雅な香りを放つのです。
しかし、日中になって気温が上がり、花が開くと香りのもととなる香気成分が外に逃げてしまうため、早朝5時から太陽が昇りきるまでの数時間のうちに、ダマスクローズはひとつひとつ丁寧に手摘みで収穫されます。

●ダマスクローズに含まれる成分と性質
ダマスクローズに含まれている香りの成分には、ゲラニオール、ネロル、フェニル、エチルアルコールなどがあります。
また、香気成分の一種であるゲラニオールは、ダマスクローズのローズオイルだけではなく、甘く穏やかな香りを持つその他の精油にもわずかに含まれており、抗菌作用や皮膚の弾力を回復させる作用があるといわれています。
なお、ゲラニオールは体内に吸収されると汗腺から汗とともに放出されるため、毎日摂り続けることで、体の内側からダマスクローズの香りがほのかに香り、エチケットを気にする方から注目を集めています。

<豆知識>香りが与える美と健康のパワー
香りは、脳の本能的な部分に直接働きかけることができるといわれており、その理由は、人間が香りを感じる工程にあります。
まず、香りの分子が人間の鼻の奥に存在する嗅上皮(きゅうじょうひ)という粘膜に溶け込み、嗅細胞の先端である嗅毛という極細の毛にキャッチされます。
すると、嗅毛に存在するセンサー(嗅覚受容体)と結合し、嗅細胞が興奮を起こします。その興奮が電気信号となって、嗅神経を通って嗅球(嗅覚中枢)へと伝えられ、ここで初めて「香り」として認識されます。
香りは、一瞬で大脳辺緑系に伝わるため、脳の「考える」部分を通さず、人間は「感じる」部分で香りの快・不快を判断します。脳には、生まれつき育った環境や身についた生活習慣など、後天的な情報が詰まっており、このフィルターを通して最終的な香りの快・不快や好き嫌いが判断されているのです。
また、そこから視床下部という体の生理機能をコントロールする部分へ伝わり、自律神経系や免疫系、ホルモン系のバランスを取ることで心身へ影響を与えると考えられています。

[※1:ローズウォーターとは、ローズオイルを抽出する際にできる副産物のことで、ローズオイルが溶け込んでいます。ブルガリアでは、ローズオイルに代わって化粧水や飲用水として使用されています。]
[※2:灌木とは、植物学の用語で、成長しても樹高が約3mまでの木のことです。]
[※3:ジョセフィーヌ皇妃とは、ナポレオン・ボナパルトの最初の妻であった女性です。大変バラ好きであったことで知られており、「ジョセフィーヌ・ド・ボアルネ」という品種のバラが今も存在しています。]

ダマスクローズの効果

●体臭を抑える効果
ダマスクローズから抽出したローズオイルには、体臭を抑える効果があるといわれています。
ダマスクローズのローズオイルをサプリメントなどで体内に取り入れることで、ローズオイルの主成分であるゲラニオールが吸収され、汗腺から汗とともに放出されます。
体内にローズオイルを取り入れた場合、皮膚から放出されるローズの香気成分量は30~60分で最大になり、180分までその拡散が継続するという研究結果が出ています。【1】【12】

●リラックス効果
ダマスクローズの香りにはリラックス効果があるとされ、アロマテラピーなどで利用されています。
アロマテラピーは、美と健康を手に入れるための自然療法のひとつとして、古くから親しまれてきました。アロマテラピーで使用されるダマスクローズは、精油(ローズオイル)をブレンド・希釈して使用します。
ダマスクローズの精油が持つ豊満な香りによって、ストレスや緊張を緩和する効果があります。
香りは脳の本能をつかさどる部分(大脳辺縁系)に直接働きかけるので、心のリラックス効果をもたらすのです。
中でも、ローズのエッセンシャルオイル[※4]は非常に高価で、1mℓで数万円もする高級品ですが、ローズのエキスと香りを凝縮しているのでアロマテラピーでとても人気の高い香りです。【2】【5】【9】

●女性らしさを維持する効果
ダマスクローズのローズオイルは女性のホルモンバランスを整え、心身ともに健やかにする働きがあることも知られています。女性ホルモンの乱れが引き起こす症状として、生理不順、生理痛、月経前症候群(PMS)[※5]、更年期障害などが知られています。
ダマスクローズのローズオイルが持つ香気成分ゲラニオールは、大脳辺縁系を通してホルモン分泌をコントロールする視床下部に伝わり、その下にある脳下垂体を刺激して性腺刺激ホルモンの分泌を促します。この性腺刺激ホルモンが血流を通って卵巣に到達することで、卵巣からエストロゲン[※6]という女性ホルモンが分泌されます。このような働きにより、女性特有の症状を緩和するともいわれています。
また、ローズオイルの香気成分ネロール[※7]も女性ホルモンの分泌に関与しているといわれており、皮膚の弾力を回復させる効果があるとされています。【3】【6】

[※4:エッセンシャルオイルとは、植物に含まれ、揮発性の芳香物質を含む有機化合物を指し、精油とも呼ばれます。]
[※5:月経前症候群(PMS)とは、月経の約1~2週間前から発生し、月経開始とともに消失する身体的、または精神的症状の総称です。]
[※6:エストロゲンとは、女性ホルモンの一種で、卵胞や黄体から分泌される女性らしい体つきを促進するホルモンのことです。]
[※7:ネロールとは、バラのような甘い香りがする無色の液体のことです。香料として用いられています。]

こんな方におすすめ

○ローズの香りを楽しみたい方
○ストレスをやわらげたい方
○女性特有の病気(更年期、生理不順など)が気になる方
○心を落ち着かせたい方

ダマスクローズの研究情報

【1】ダマスクローズオイルを30mg摂取させたところ、摂取後30~60分後で汗腺からの放出量は最大となり、180分後までにはゆるやかに減少していくことがわかりました。

【2】ダマスクローズオイルは緊張により生じる、呼吸数や血圧の上昇を防ぎ、感情の面では、心の安定とリラックス効果を持つことがわかりました。ヒトのうつ病やストレスの緩和に役立つアロマテラピーでの根拠になります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19370942

【3】ダマスクローズの花の抽出物には紫外線保護作用があり、5% と8% ダマスクローズ花配合のローズクリームはSPF効果が確認されました。ダマスクローズの花はUVを吸収して、紫外線保護作用があります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18494908

【4】高脂血症ウサギにダマスクローズオイルを摂取させたところ、総コレステロールやLDL、TGの上昇が抑制され、心臓、大動脈の動脈硬化が抑制されたことから、ダマスクローズオイルが高脂血症予防効果ならびに動脈硬化予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22456895

【5】ダマスクローズオイルを摂取することで、うつ病による脳内のビタミンA, E, C ならびにβ-カロテンの低下が抑制されたことから、ダマスクローズオイルが抗うつ効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22484603

【6】ダマスクローズオイルは皮膚ストレスによる副腎皮質ホルモンや糖質コルチコイドの上昇を抑制し、皮膚バリア保護作用があります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22167272

【7】ダマスクローズオイルが人体に有毒な大腸菌発育を阻害するはたらきを持つことから、ダマスクローズオイルが抗菌作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20082377

【8】ダマスクローズオイル中の精油成分として78.38%がcitrenellolおよびゲラニオールが知られています。ビタミンも豊富に含まれており、β-カロテン(422.3ppm)、αトコフェノール(2397.1ppm) およびガンマトコフェロール(343.1ppm) を含んでいます。他にダマスクローズオイルにはフェノール成分が含まれ、大腸菌、緑膿菌、枯草菌、黄色ブドウ球菌、クロモバクテリウム‐ビオラセムおよびエルウィニア‐カロトボーラ(ATCC 39048)菌株に対する強い抗菌力を示すことがわかりました
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19688375

【9】ダマスクローズオイルはリラックス効果が高く、不安を鎮めるはたらきを持っています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17689573

【10】記憶力の向上にバラの香りが効果的であることがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17347444

【11】ヨーロッパで古くから医薬品として使われていたダマスクローズオイルは、香り食品として応用され、現在の科学で香気成分としてネロール、シトロネロール、ゲラニオールが報告されています。その安全性も確認されており、注目される素材の一つとなっています。

【12】ダマスクローズオイル配合サプリメントを6日間摂取させたところ、香気成分の経皮放散をヒト嗅覚により感知することが確認できました。

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参考文献

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・Tabrizi H, Mortazavi SA, Kamalinejad M. (2012) “An in vitro evaluation of various Rosa damascena flower extracts as a natural antisolar agent.” Int J Cosmet Sci.Dec;25(6):259-265

・Gholamhoseinian A, Shahouzehi B, Joukar S, Iranpoor M. SourceDepartment of Biochemistry, Medical School and Kerman Physiology Research Center, Kerman University of Medical Sciences, Kerman, Iran. (2012) “Effect of Quercus infectoria and Rosa damascena on lipid profile and atherosclerotic plaque formation in rabbit model of hyperlipidemia.” Pak J Biol Sci. 2012 Jan 1;15(1):27-33.

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