イカとは?
●基本情報
イカは、軟体動物の一種で夜行性の貝類です。
「イカの甲」や「骨」とよばれる薄い軟骨状のものは、正確には軟甲という名で貝殻なのです。
軟体動物のうち、イカはタコとともに頭から直接足(腕)が生えているという独特の設計図から、「頭足類」という綱に入ります。
頭足綱には化石として知られるアンモナイトや、オウムガイなども入りますが、現在生きているイカとタコはそれらとは頭足類の中でも別の二鰓類もしくは鞘形類と呼ばれる仲間です。
「イカ」というのはさらにその中で石灰質の「イカの甲」を持つコウイカ類とヤリイカやスルメイカのように細長いツツイカ類を全て含めた総称です。
この10本の腕は筋肉質でしなやかに伸縮し、腕の内側にはキチン質の吸盤が並んでいます。獲物を逃さないために吸盤にスパイクのような鋭いトゲが並ぶ種類もいます。
イカの皮膚には色素細胞がたくさん並んでおり、精神状態や周囲の環境によって体色を自在に変化させます。調理の際に、両目の間にある神経系の基部を刺してしめると、体色が白濁します。
イカの血は人間とは異なり、銅たんぱく質であるヘモシアニンを含むために青い色をしています。
イカは浮くために、比重の重い液体を体液に含んでいます。特にダイオウイカなど一部の深海イカは、浮力を得るために塩化アンモニウムを体内に保有しています。特定のイカにあるえぐみはこのためであるといわれています。
イカは体の大きさに対しての眼球の割合が大きいことから、視覚による情報に頼って生活していると考えられています。イカやタコの眼球は外見上脊椎動物の眼球とよく似ていますが、まったく異なる発生過程を経て生まれた器官であり、内部構造に明確な違いがあります。イカの眼球の特徴として視神経が網膜の背面側を通っており、視認の邪魔にならないため、視力が優れており盲点が存在しないといわれています。
<豆知識>タコの墨とイカの墨の違い
タコやイカは体内の墨袋(墨汁嚢)から墨を吐き出して敵の目をくらませることは有名です。
タコの墨は外敵の視界をさえぎることを目的とし、一気に広がるのに対し、イカの墨はいったん紡錘形にまとまってから大きく広がります。紡錘形にまとまるのは自分の体と似た形のものを出し、敵がそちらに気を取られているうちに逃げるためと考えられています。
●イカの種類
イカ類は石灰質の硬い甲羅をもつコウイカと、透明な柔らかい甲羅を持つツツイカの仲間に大別されます。世界の海に約500種、日本近海に130種類ほどが知られていますが、食用とされているものは20種類ほどといわれています。
主な食用イカはツツイカ類で、日本近海産アカイカ科のスルメイカが50%ほどを占めています。
さらに生食用として味の良い近海産ヤリイカ科のヤリイカやケンサキイカが重用されますが、漁獲量は少ないといわれています。
・ヤリイカ
胴長35cmほどで、本州中部以南に分布します。長崎県が主産地として有名で、春に旬を迎えます。
槍を思わせる形からこの名がついたといわれています。
・ケンサキイカ
本州中部以南に分布しており、主産地は長崎県、旬は春から夏です。
ケンサキイカから作られたスルメは最上級品で、一番スルメとよばれます。
・スルメイカ
日本で最も多くとれるイカで、旬は夏から秋です。その名の通りスルメに加工されることが多く、ケンサキイカから作られたスルメに次いで味が良いことから二番スルメとよばれます。
・ホタルイカ
胴長6cmの小型種で、発光することで有名です。
富山湾では春先に産卵のために深い海から浮上し岸近くまで寄ってきたものを漁獲します。
・ジンドウイカ
北海道南部から南、日本全国で水揚げがあります。関東ではヒイカとよばれていますが、各地では単に小イカなどとして売られています。10cm程度の大きさで、小さくずんぐりしていることから「ぼうずイカ」などとも呼ばれています。
福島や沼津、九州など全国各地で漁獲され、春から夏にかけて産卵し旬を迎えます。
●イカの選び方
つや、透明感があり胴の長いものが新鮮なイカです。ハリがないものは古く、鮮度が落ちているので避けるようにします。
保存方法は、まず胴から内臓ごと足を抜き、洗って水気を拭きます。胴は皮をむいてラップで包み、足はポリ袋に入れてそれぞれ冷凍保存します。
●イカの利用法
食用になる種類が多く、軟骨とクチバシ以外ほぼ全身が使われます。刺身・焼き・揚げ・煮物・塩辛・干物など実に多彩で酒の肴としても好まれます。イカソーメンやイカめしなどが収穫量の多い地域の特産品となっています。
信州では、古くから保存食として用いられていた塩イカ又は塩丸イカという茹でたイカの腹に、ゲソと共に粗塩を詰めたものが、現在でも食べられています。
欧米諸国ではタコと同様不吉な生き物とされ、イカを食べないことは多いですが、ギリシアなど正教徒が多い東地中海地方ではイカ料理がよく食べられています。
日本は世界第一のイカ消費国であり、その消費量は世界の年間漁獲量のほぼ2分の1といわれています。また、イカの一種であるスルメイカは、日本で最も多く消費される魚介類です。
●イカに含まれる成分と性質
低カロリーで良質のたんぱく質やビタミンE、タウリン、DHA・EPAが豊富に含まれています。
タウリンが、血中のコレステロールや中性脂肪、血圧に働きかけるといわれており、糖尿病などの病気にならないための健康維持に役立ちます。
スルメの表面に吹き出している白い粉は、タウリンやベタインの結晶です。
イカ墨に含まれるたんぱく質の一種に、リゾチームという防腐力の強い物質が含まれていますが、これはガンにならないための健康維持に役立つといわれています。
以下は漢方にも利用されており、煎じて十二指腸潰瘍、胃潰瘍などの飲み薬として利用されています。
イカは消化しにくいと思われがちですが、消化率は他の魚類と大差はないといわれています。
イカの効果
イカは、タウリンを豊富に含むため以下のような働きが期待されます。
●肝機能を高める効果
肝臓の主な働きは、代謝、解毒、胆汁の生成の3つとなっており、心臓と同じくらい重要な臓器であることが知られています。
イカに含まれるタウリンは、体内に入るアルコールや薬、食品添加物などの化学物質や、体内でつくられたアンモニアなどを分解して無毒化し、尿や便として体外に排出する解毒作用を持ちます。
タウリンは、摂取することで肝臓の機能を強化させ、代謝や解毒、胆汁の生成を助ける働きをします。
また、タウリンにはアルコールの代謝を促進する働きがあります。
アルコールは体内に入ると、肝臓内で二日酔いの原因物質であるアセトアルデヒドに分解されます。アセトアルデヒドは、さらに酵素の働きによって再び分解され、体にとって無害な酢酸へと変化します。これらの分解過程は、肝臓に大きな負担をかけてしまいます。
タウリンは、アセトアルデヒドを分解する酵素の働きを助ける効果があり、肝臓への負担を軽くします。
さらに、イカのうまみ成分としてベタインという成分が含まれています。ベタインには、タウリンと同じく胆汁の産生を促進し、肝臓の働きをサポートするといわれています。
●生活習慣病の予防・改善効果
イカに含まれるタウリンには胆汁の分泌を促進し、コレステロール値を下げる効果があります。
また、タウリンにはコレステロールの上昇を抑制する効果があるため、動脈硬化を予防することができると考えられます。
動脈硬化とは、血中のコレステロールや中性脂肪が増え、血管壁にこびりつくことで血管が詰まったり、硬くなったりして、弾力や柔軟性を失った状態をいいます。動脈硬化になると、心筋梗塞や脳梗塞などの危険性が高まります。
さらにタウリンには、動脈硬化を予防する効果だけでなく、交感神経を抑制する作用があるため、高血圧の予防に効果的だと考えられています。
イカにはDHA・EPA、ビタミンEも豊富に含まれています。DHA・EPAは血流の改善、悪玉(LDL)コレステロールや中性脂肪を減らし、善玉(HDL)コレステロールを増やす働きがあります。
ビタミンEは、抗酸化作用によって生活習慣病の予防や改善に役立ちます。
これらの働きにより、タウリンやビタミンEが豊富に含まれるイカを日常から食べることにより、生活習慣病を改善する効果があると考えられます。【2】【3】【4】【5】【6】
●視機能を改善する効果
イカに豊富に含まれるタウリンは、目の網膜に多く存在しています。網膜には多数の光受容体があり、外部からの光刺激を感知することで、その刺激を脳中枢へと伝達しています。この光受容体にタウリンは存在しており、網膜の神経を抑制することで網膜を守る働きがあるといわれています。
また、タウリンには目の新陳代謝を促進し、角膜の修復を助ける働きもあるといわれています。
さらに、ホタルイカやジンドウイカのような小型の種類は丸ごと食べることができるため、ビタミンAが豊富に摂ることができ、眼精疲労の改善に役立つといわれています。【7】
イカは食事やサプリメントで摂取できます
こんな方におすすめ
○肝臓を健康に保ちたい方
○生活習慣病を改善したい方
○目が疲れやすい方
○目を健康に保ちたい方
イカの研究情報
【1】イカの視物質ロドプシンである構造解析に成功しました。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110004571619
【2】48名のHIV感染者において、12週間DHA460mg 及びEPA380mg を摂取させると、血中トリグリセリド量が減少したことから、DHAと EPAを摂取することで、トリグリセリド血症を予防する効果があることが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22212377
【3】冠動脈心臓病を患っていない患者で、海藻由来のDHAを1日1.68g 摂取すると、血中トリグリセリドが減少し、一方善玉(HDL)コレステロールと悪玉(LDL)コレステロールがともに上昇したということが報告されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22113870
【4】平均年齢10歳の肥満小児120名にDHA 300mg、EPA 42mg を3週間摂取させたところ、血中総コレステロール量が減少し、合わせて体重が減少したことから、DHAが肥満小児に対する予防効果が確認されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22101886
【5】ウズラに対する60日間のタウリン(飲料水の1%)投与は、非HDL‐コレステロールを4,549mg/dlから2,350mg/dlまで減少させ、血清中のトリグリセリドを703 mg/dlから392mg/dlまで減らしました。さらにタウリン摂取群は、オイルレッド‐O染色陽性範囲を74%減少させました。このことから、タウリンによるアテローム性動脈硬化の予防は、主として血清コレステロールおよび中性脂肪値の改善であることが考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19229588
【6】健常者80名に対し、7週間、n-3脂肪酸豊富な魚(1.1gEPA+DHA:36g/日)【n3群】およびn-3脂肪酸豊富な魚+タウリン(425mg/日)【n3+タウリン群】を摂取させました。N3群と比較してn-3+タウリン群は、有意にLDLコレステロールが減少し、またHDL-コレステロールは上昇していました。また、トリアシルグリセロール、トロンボキサンB、TNFαは両群でコントロール群よりも有意に抑制していました。このことから、n-3脂肪酸、特にn-3脂肪酸+タウリンの摂取は、コレステロール、炎症を抑制する働きがあることがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18242615
【7】タウリンは、視覚機能にける重要な神経物質です。近年の研究より、タウリンは、網膜の治癒、網膜の視機能メカニズムにとって非常に重要であることが分かりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12000086
参考文献
・村上 緑、神山 勉 (2005) “イカロドプシンの結晶化(光生物 A) 視覚・光受容))” 生物物理 45(SUPPLEMENT_1), S191, 2005-10-19
・Peters BS, Wierzbicki AS, Moyle G, Nair D, Brockmeyer N. (2012) “The effect of a 12-week course of omega-3 polyunsaturated fatty acids on lipid parameters in hypertriglyceridemic adult HIV-infected patients undergoing HAART: a randomized, placebo-controlled pilot trial.” Clin Ther. 2012 Jan;34(1):67-76. doi: 10.1016/j.clinthera.2011.12.001. Epub 2011 Dec 31.
・Bernstein AM, Ding EL, Willett WC, Rimm EB. (2012) “A meta-analysis shows that docosahexaenoic acid from algal oil reduces serum triglycerides and increases HDL-cholesterol and LDL-cholesterol in persons without coronary heart disease.” J Nutr. 2012 Jan;142(1):99-104. doi: 10.3945/jn.111.148973. Epub 2011 Nov 23.
・Elvevoll EO, Eilertsen KE, Brox J, Dragnes BT, Falkenberg P, Olsen JO, Kirkhus B, Lamglait A, Østerud B. (2008) “Seafood diets: hypolipidemic and antiatherogenic effects of taurine and n-3 fatty acids.” Atherosclerosis. 2008 Oct;200(2):396-402. doi: 10.1016/j.atherosclerosis.2007.12.021. Epub 2008 Feb 1.
・Militante JD, Lombardini JB. (2002) “Taurine: evidence of physiological function in the retina.” Nutr Neurosci. 2002 Apr;5(2):75-90.