クランベリーとは?
●基本情報
クランベリーは、ツツジ科ツルコケモモ属の小果樹で、北アメリカやヨーロッパ、日本などの寒冷な地に自生しています。
クランベリーの果実は1cm程度の大きさで、熟するとチェリーのように赤くなりますが、果実自体の酸味や渋みが大変強く、生食には適していません。
現在、アメリカにおいて品種改良が加えられ広く栽培されており、シロップ漬けにして食したり、他の果汁に混合してジュースにしたり、料理用のソースやお菓子として利用されています。
クランベリーの原産地である北米ではブルーベリー、コンコードグレープと並んで北米三大フルーツのひとつともいわれているほど有名な果実です。
クランベリーの品種は、主に4系統に分けられ、ツルコケモモ(蔓苔桃)、ヒメツルコケモモ(姫蔓苔桃)、オオミノツルコケモモ(大実蔓苔桃)、アクシバ(灰汁柴、青木柴)などが存在します。
●クランベリーの歴史
クランベリーの名称は、その花びらが鶴(クラン)の頭部に似ていることから名付けられました。
アメリカ先住民の部族によって異なりますが、当時クランベリーはイビミ、サッサマネシ、アトカなどの名前で呼ばれていたといわれています。
古くはアメリカ先住民が食料や染料などにもクランベリーを役立てており、特に医薬品として重宝されていました。
当時の医薬品としてのクランベリーの用途は、泌尿器疾患や傷の治療、血液の解毒、胃や肝臓の不調、熱、下痢など、多岐に渡っていましたが、特に100年に渡って航海中のビタミンC不足による壊血病予防に利用されてきました。
19世紀頃、クランベリーの本格的な栽培が始まり、様々な加工や製品の開発が知られるようになりました。
20世紀末になると、クランベリーの特性に対する研究が進められ、クランベリーの抗菌作用による尿路感染症、歯周病への効果が明らかになってきました。
●クランベリーに含まれる成分と性質
クランベリーには、ポリフェノールが豊富に含まれており、その中でも特に注目されている栄養素が、Aタイププロアントシアニジンです。
プロアントシアニジンはクランベリー以外の果物にも含まれていますが、クランベリーに含まれているプロアントシアニジンはその働きが特に強力で、英語のスペルを省略してPACSとも呼ばれています。
クランベリーは非常に高いプロアントシアニジン含有量を誇り、クランベリー100gに対して418.8mgものプロアントシアニジンが含まれています。
また、クランベリーにはポリフェノールの一種であるアントシアニンの他、キナ酸やビタミンC、フラボノイド類も含まれており、他の果実に比べて、多種の健康成分を含有しているといわれています。
クランベリーの効果
●むくみを解消する効果
クランベリーに含まれているプロアントシアニジンは、腎臓の機能を活発にし、むくみを解消する作用が期待されています。
腎臓は、体内の不要な水分などを尿として排泄させる臓器です。プロアントシアニジンは、抗炎症作用と抗酸化作用を持つため、細菌感染や酸化による腎臓のダメージを防ぐという報告があります。このため、プロアントシアニジンは腎臓の機能を維持し、利尿作用を高めて、むくみの原因となる体内の余分な水分や老廃物の蓄積を防ぎます。つまり、むくみの解消につながるのです。
また、プロアントシアニジンが持つ抗酸化作用によって、むくみの原因となる血液の滞りを改善する働きも知られています。
活性酸素[※1]は血中のコレステロールと結びつくことで悪玉(LDL)コレステロールを生成します。さらにそれが血管内壁に付着して、血流の妨げになります。
クランベリーが含んでいるプロアントシアニジンは、抗酸化作用によって悪玉(LDL)コレステロールの生成を抑制することができるため、血流を促進し、余分な水分や老廃物を体内から排出する効果が期待できます。
<豆知識>むくみが女性に起こりやすい理由
むくみは、男性にも起こり得る症状ですが、一般的には女性に起こりやすいことで知られています。
朝起きた時に何となく頬や顎がふっくらして見えたり、靴下の跡が取れにくかったり、夕方になると朝履けていたブーツに足が入らなかったりなど、特にむくみは足に出やすいといわれています。
むくみが女性に多い理由は、男性よりも筋肉量が少ないことに起因しています。
心臓から送り出された血液は、足に辿り着いた後は、ふくらはぎの筋肉によって心臓へと戻されます。
ふくらはぎの筋肉は、重力に逆らって足の血液を心臓に戻す、ポンプのような役割を担っているのです。
女性は男性よりも筋肉が少ないのでポンプの力が弱く、足の血液の流れも悪くなりやすいため、むくみやすいといわれています。
●尿路感染症を改善する効果
クランベリーは、尿路感染症の改善に有効であるといわれています。
尿路感染症とは、膀胱などの尿路で細菌が発生することにより炎症が起こる病気で、膀胱炎(ぼうこうえん)や腎盂炎(じんうえん)[※2]などが挙げられます。
細菌が取りついた患部は赤く炎症を起こし、悪化すると排尿時などに激しい痛みや残尿感を覚えたり、頻尿や血尿などの症状が現れます。
クランベリーに含まれるプロアントシアニジンが持つ抗酸化力によって、大腸菌などの感染菌が尿管の上皮に付着するのを防止する作用があります。
また、クランベリーに含まれるキナ酸は、肝臓で代謝されることにより馬尿酸[※3]へと変化します。馬尿酸によって感染菌が増殖する原因である尿のpHが、健康な尿と同じ弱酸性に保たれます。
クランベリーに含まれるプロアントシアニジンとキナ酸の相乗効果によって、尿路の健康維持に効果を発揮するのです。
尚、この効果に関しては、尿路感染症に感染した女性を被験者とした臨床試験も行われています。
クランベリージュースを飲用させたグループと、飲用させていないグループに分け、尿路感染菌の生菌数を比較したところ、クランベリージュースを飲用した被験者において尿中の尿路感染菌の減少が認められたとの結果が報告されています。
●歯周病を予防する効果
クランベリーを摂ることは、歯周病を予防する効果があるといわれています。
歯周病とは、歯周組織が歯垢に存在する歯周病菌に感染することで歯茎が腫れたり、出血する病気で、悪化すると歯が抜けてしまう場合もあります。
クランベリーに含まれているプロアントシアニジンの抗酸化力は、口内でも発揮されます。
口内で発生した歯周病菌や歯垢に対しても、プロアントシアニジンが作用すること増加を防ぐことができるため、クランベリーを摂ることで歯周病を予防することが可能であるといえます。【6】【7】【8】
●美肌効果
クランベリーを摂取することによって、美肌効果が期待されています。
クランベリーには、ポリフェノールやビタミンCをはじめとする抗酸化作用を持った物質が豊富に含まれています。
抗酸化作用を持つ物質は、健康に対する働きかけだけではなく、美容に対しても極めて重要な働きをもちます。
過剰に発生した活性酸素は、肌の細胞にも悪影響を及ぼすため、シミやたるみなどの大きな原因となります。
クランベリーに含まれる抗酸化作用を持つ栄養素が、活性酸素を除去することで肌の細胞を健康に保ち、美肌に対して効果があると考えられています。
●生活習慣病を予防する効果
クランベリーには、コレステロール値を改善することで、生活習慣病を予防する効果があります。
クランベリーに含まれるプロアントシアニジンやアントシアニンは、抗酸化作用が高く、血管内で動脈硬化などの原因となる、悪玉(LDL)コレステロールの酸化を防ぐ働きがあります。
心臓病の多いアメリカでは、民間療法としてクランベリーが一般的に用いられています。
[※1:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応性が増すことで強い酸化力を持った酸素です。体内で過剰に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化の原因になるとされます。]
[※2:腎盂炎(じんうえん)とは、腎臓と尿管の間にある腎盂という器官が細菌に感染し、炎症を起こす病気です。膀胱炎と同様の症状が発生するといわれています。]
[※3:馬尿酸とは、馬などの草食動物から発見された酸性の物質です。
食事やサプリメントで摂取できます
こんな方におすすめ
○むくみでお悩みの方
○尿路感染症の方
○泌尿器系の病気を予防したい方
○歯周病を予防したい方
○美肌を目指す方
クランベリーの研究情報
【1】高齢女性153名 (試験群72名、78.1±8.3歳、アメリカ) を対象とした二重盲検無作為化プラセボ比較試験において、クランベリー果汁300 mL/日を6ヶ月間摂取させたところ、尿路感染症の発症率が低下しました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8093138
【2】腎臓小児科を受診している女児84名を対象とした無作為化比較試験 において、クランベリー濃縮ジュース50 mLを毎日、または乳酸菌飲料100 mL (4×107 cfu含有) を月に5日、6ヶ月間摂取させたところ、クランベリー摂取群では尿路感染症の再発が減少したが、乳酸菌飲料摂取では影響がなかったことが示されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19921981
【3】感染症を誘発させて酸化的な腎臓傷害を起こさせた膀胱尿管逆流(VUR)のウサギにおいて、抗酸化作用が知られているクランベリー果実の予防効果を評価した研究があります。ウサギに人工的に膀胱尿管逆流を起こさせたうえで、大腸菌に感染させ腎臓の酸化ダメージをマロンジアルデヒド濃度を測定することで調べました。大腸菌に感染させることでウサギの腎臓のダメージは増大していましたが、クランベリーを摂取させることで酸化ダメージが抑えられました。この研究では、クランベリーによって酸化を防止することで腎臓の炎症を抑え、腎臓のダメージを防ぐ可能性が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17850389
【4】クランベリー果汁抽出物は濃度依存的に培養細胞へのレオウイルス感染を抑えました。また、レオウイルス感染阻害は、プロアントシアニジン濃度が高い画分に集中していました。この結果、レオウイルス感染阻害はクランベリーもしくはそこから精製されたプロアントシアニジンによるものであると考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17487927
【5】クランベリーは古代からの様々な泌尿器系の問題で使用されてきましたが、尿路感染症の予防に関して、臨床的にそして薬理学的な研究もされています。クランベリーの活性成分はプロトアントシアニジンですが、この成分は抗菌活性は持っておらず、尿路疾患性大腸菌の接着を抑えます。尿路感染症の予防に対するクランベリーの効能は無作為化臨床試験で実証されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22448492
【6】クランベリーから分離されるポリフェノールの抗酸化作用は、齲蝕および歯周病に対する効果が期待ができそうであった。クランベリーの持つ潜在的な虫歯予防は、齲蝕原性細菌による有機酸の生産および歯周病などの原因となるバイオフィルムの構成を抑制することによると示されています。さらにクランベリーポリフェノールは炎症反応を抑制する可能性もあり、クランベリーが口腔の病気を予防または治療する可能性を示す科学的根拠をまとめた論文が報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20943032
【7】口腔疾患(齲蝕および歯周炎等)を低減するクランベリー成分の利点について議論が行われています。クランベリー成分が虫歯を予防する可能性があるのは、虫歯菌であるStreptococcus mutansによる酸の生成、および歯周病の原因となるバイオフィルムの形成を阻害するからです。すなわち、口腔の疾病の予防または治療のためにクランベリーの成分が役立つ可能性が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18663617
【8】この研究では、プロアントシアニジン豊富なクランベリー画分が、歯周病病原菌の1種であるAggregatibacter actinomycetemcomitansのリポポリサッカライド(LPS)によって刺激される歯肉線維芽細胞による炎症性メディエーター産生に及ぼす影響が検討されました。クランベリー画分によって、歯肉線維芽細胞のLPS誘発インターロイキン-6、インターロイキン-8およびプロスタグランジンE産生が阻害されました。クランベリージュースが歯周炎の補助的な治療に活用できる可能性が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17305718
参考文献
・吉川敏一 炭田康史 最新版 医療従事者のためのサプリメント・機能性食品事典 講談社
・吉川敏一 辻智子 医療従事者のための機能性食品(サプリメント)ガイド―完全版 講談社
・日経ヘルス 編 サプリメント大事典 日経BP社
・NPO日本サプリメント協会 サプリメント健康バイブル 小学館
・清水俊雄 機能性食品素材便覧 特定保健用食品からサプリメント・健康食品まで 薬事日報社
・健康産業新聞 第1446号(2012年8月1日)
・Avorn J, Monane M, Gurwitz JH, Glynn RJ, Choodnovskiy I, Lipsitz LA. 1994 “Reduction of bacteriuria and pyuria after ingestion of cranberry juice.” JAMA. 1994 Mar 9;271(10):751-4.
・Ferrara P, Romaniello L, Vitelli O, Gatto A, Serva M, Cataldi L. 2009 “Cranberry juice for the prevention of recurrent urinary tract infections: a randomized controlled trial in children.” Scand J Urol Nephrol. 2009;43(5):369-72.
・Han CH, Kim SH, Kang SH, Shin OR, Lee HK, Kim HJ, Cho YH. 2007 “Protective effects of cranberries on infection-induced oxidative renal damage in a rabbit model of vesico-ureteric reflux.” BJU Int. 2007 Nov;100(5):1172-5.
・Lipson SM, Cohen P, Zhou J, Burdowski A, Stotzky G. 2007 “Cranberry cocktail juice, cranberry concentrates, and proanthocyanidins reduce reovirus infectivity titers in African green monkey kidney epithelial cell cultures.” Mol Nutr Food Res. 2007 Jun;51(6):752-8.
・Sychev DA. 2011 “Cranberry preparations in urological practice: view of a clinical pharmacologist” Urologiia. 2011 Nov-Dec;(6):97-8, 100-3.
・Bonifait L, Grenier D. 2010 “Cranberry polyphenols: potential benefits for dental caries and periodontal disease.” J Can Dent Assoc. 2010;76:a130.
・Bodet C, Grenier D, Chandad F, Ofek I, Steinberg D, Weiss EI. 2008 “Potential oral health benefits of cranberry.” Crit Rev Food Sci Nutr. 2008 Aug;48(7):672-80.
・Bodet C, Chandad F, Grenier D. 2007 “Cranberry components inhibit interleukin-6, interleukin-8, and prostaglandin E production by lipopolysaccharide-activated gingival fibroblasts.” Eur J Oral Sci. 2007 Feb;115(1):64-70.