クマリンとは?
●基本情報
クマリンとは、抗酸化物質のポリフェノール/フェノール酸系に分類される香り成分です。
ポリフェノールとは、植物の光合成によってできる色素や苦みの成分で、その種類は5000以上にものぼります。ポリフェノールの中でも、アントシアニンやカテキンが分類されるフラボノイド系やいちごに含まれるエラグ酸など、様々な分類があります。クマリンは、コーヒーに含まれるクロロゲン酸と同じフェノール酸系に分類されます。
クマリンは、特にセリ科やミカン科、マメ科、キク科に多く含まれ、パセリや明日葉、柑橘類はクマリンを含む身近な植物です。また、シナモンの香りを構成している成分のひとつでもあります。
クマリンは特徴的な香りを持ち、その香りに代表されるものが桜もちです。クマリンは、植物が生きている状態の時は、クマリン配糖体という形で存在しており、香りを特に感じることはありません。クマリン配糖体とは、クマリンと糖が結合した状態のことをいいます。
桜もちは桜の葉を塩漬けにしてつくられますが、この工程でクマリンがわずかに生成され、桜もちの独特の香りが生まれます。クマリンは干し草にも含まれており、桜もちと同様にクマリン配糖体の形で含まれ、干している間にクマリンが生成されるため、独特の香りが出てきます。
このようにクマリンは塩漬けにしたり、干したりすることでクマリン配糖体を含む細胞が死に、クマリン配糖体が分解されることではじめて独特の香りを放つことができます。
クマリンは、バニラと似た芳香を持ちます。また、苦く芳香性特有の刺激的な味を有しています。その特徴的な香りはリラックス効果を持ち、香料として利用されていますが、日本では肝臓の機能を弱める影響があるとして、香料としての使用は認められていません。
また、クマリンは抗菌効果や抗血液凝固作用、むくみを改善する効果などを持ち、血栓防止薬などにも利用されています。
●クマリンの歴史
クマリンは発見当初、トンカ豆[※1]植物の種子から分離されていました。
1876年にウィリアム・パーキンがクマリンの合成に成功し、香料などに利用されるようになりました。
日本では肝機能への安全性が定かではないため、香料としては認められておらず、食品への添加は禁止されています。
クマリンは1882年に人工合成のクマリンをもとに香水が調合され、「フジェール・ロワイヤル」と名付けられ販売されました。このことにより、人工合成材料による香水の製造がスタートしました。
日本においては、クマリンは軽油取引税の脱税防止のためにの軽油識別剤として利用されています。
<豆知識①>軽油識別剤に利用されるクマリン
クマリンは、紫外線に対する蛍光反応を利用した不正軽油の検出・摘発を容易にするための識別剤として利用されています。
原則として、軽油引取税は軽油にのみ賦課されますが、軽油と性状が似ているA重油[※2]や灯油に対しては通常賦課されません。また、ディーゼルエンジン[※3]の燃料としては必ずしも軽油の性状を満たす必要がなく、A重油や灯油でも稼働には問題がないとされています。このため、軽油引取税の古典的な脱税手法として、軽油とA重油・灯油を混ぜたもの、A重油と灯油を混ぜたものなどを軽油代替の燃料として用いることあります。このような燃料を混和軽油といい、A重油・灯油等を単体でディーゼル車に給油する場合等を含めて不正軽油と呼ばれます。
こういった不正軽油を検出・摘発するためにクマリンはA重油や灯油に添加され、識別剤としての役割を果たしています。
●クマリンの性質と働き
クマリンはアルコールやエーテル[※4]、クロロホルム[※5]、揮発性油[※6]によく溶け、水には微量に溶ける性質を持ちます。また、紫外線を照射することで黄緑色の蛍光を発します。
クマリンは抗血液凝固作用やむくみを改善する効果などを持ち、血栓防止薬にも利用されています。また、クマリンは光感作促進作用を持っています。光感作促進とは、紫外線に当たった際、何もつけない時に比較してより早く日焼けする作用があることをいいます。クマリンを体内に取り入れることで、日焼けしやすくなるため注意が必要です。
<豆知識②>メリロートに含まれるクマリン
メリロートとは、マメ科のハーブのことで、血行を良くする作用を持ちます。
ヨーロッパでは、主に消炎用医薬品として使用されており、日本では痔の薬として販売されています。このメリロートの血行を良くする作用は、主にクマリンの働きによるものだとされています。
メリロートは日本では、医薬品だけでなく、むくみやセルライトなどの解消効果があるとして、ダイエット用のサプリメントとしても販売されています。
●クマリン摂取における注意点
クマリンは肝毒性を持つため、長期過剰摂取した場合、肝機能を弱めることが懸念されています。
そのため、EUでは医薬品としてのクマリン摂取量を体重1kg当たり0.1mgと規定しています。これは体重50kgの場合1日5mgに相当する量です。
また、クマリンは抗血栓薬の作用を強めてしまう恐れがあるため、注意が必要です。
[※1:トンカ豆とは、ベネズエラのカウラ川周辺の熱帯雨林で天然の樹木と栽培木より収穫されるマメ科の植物です。]
[※2:A重油とは、重油の一種とされていますが、化学組成的、世界標準的には軽油の一種です。]
[※3:ディーゼルエンジンとは、主として軽油、または重油を燃料とする圧縮点火式・容積型の内燃機関のことです。]
[※4:エーテルとは、炭素、酸素、炭素結合を有する有機化合物の総称です。]
[※5:クロロホルムとは、有機化合物の溶剤で、無色揮発性で甘いような特有のにおいのある液体です。]
[※6:揮発性油とは、ガソリンと同義で,ガソリンエンジン用燃料と溶剤としての工業ガソリンの総称です。]
[※7:A重油とは、重油の一種とされていますが、化学組成的、世界標準的には軽油の一種です。]
[※8:ディーゼルエンジンとは、主として軽油、または重油を燃料とする圧縮点火式・容積型の内燃機関のことです。]
クマリンの効果
●血流を改善する効果
クマリンには、血液を固まりにくくする作用があります。そのため、脳梗塞や心筋梗塞の原因のひとつである血栓を防いでくれます。
クマリンは、血液の流れを良くすることで、リンパ液の循環や血流を改善する効果があるといえます。
●むくみを改善する効果
むくみの原因は、水分や塩分の過剰摂取によるものだといわれていますが、原因は様々あり、血液の流れが大きく関係しています。
血液の流れが悪いと、余分な水分とともに体内に老廃物が溜まり、むくみにつながります。
クマリンは血流を改善する効果があることから、むくみにも非常に効果的な成分です。
●抗菌効果
クマリンは体内での細菌の増殖や生育を防ぎ、細菌を死滅させる効果を持っています。
●老化や病気から体を守る効果
活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応性が増すことで強い酸化力を持った酸素のことです。体内で過剰に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるとされています。
クマリンは、抗酸化作用を持つため、活性酸素を除去する効果に優れており、体を老化や疾病から守る働きがあります。
クマリンは食事やサプリメントで摂取できます
クマリンを含む食品
○桜の葉
○パセリ
○にんじん
○もも
○はっさく
○みかん
○グレープフルーツ
○ゆずなどの皮
○明日葉
○メリロート
こんな方におすすめ
○血流を改善したい方
○冷えや肩こりでお悩みの方
○手足のむくみでお悩みの方
クマリンの研究情報
【1】ラットに、クマリンを10mg/kg を投与したところ、血中および網膜中の酸化ストレスの指標物質MPO濃度が減少したことから、クマリンが抗酸化力により血液ならびに網膜保護作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18957168
【2】クマリン化合物に鎮痙作用(痙攣を抑える働き)を有する働きがあることがわかりました。
https://ci.nii.ac.jp/naid/110002680740/
【3】肝細胞(HSC-T6細胞)に、オカゼリ果実に含まれるクマリンを投与したところ、肝臓の線維化が抑制されたことから、クマリンが肝臓保護効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21082271
【4】オカゼリ果実に含まれるクマリン誘導体は、抗アレルギー作用を示したことが確認されました。
https://ci.nii.ac.jp/naid/110003625573/
参考文献
・ロバート・ティスランド/トニー・バラシュ 精油の安全性ガイド 上巻 フレグランスジャーナル社
・Bucolo C, Maltese A, Maugeri F, Ward KW, Baiula M, Sparta A, Spampinato S (2008) “New coumarin-based anti-inflammatory drug:putative antagonist of the integrins alphaLbeta2 and alphaMbeta2.” J Pharm Pharmacol. 2008 Nov;60(11):1473-9.
・MASUDA Toshiya、MUROYA Yukari、NAKATANI Nobuji (1992) “Coumarin Constituents of the Juice Oil from Citrus hassaku and Their Spasmolytic Activity” Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry 56(8), 1257-1260, 1992-08-23
・Shin E, Lee C, Sung SH, Kim YC, Hwang BY, Lee MK. (2011) “Antifibrotic activity of coumarins from Cnidium monnieri fruits in HSC-T6 hepatic stellate cells.” J Nat Med. 2011 Apr;65(2):370-4. Epub 2010 Nov 17.
・Yamahara J, Kozuka M, Sawada T, Fujimura H, Nakano K, Tomimatsu T, Nohara T. (1985) “Biologically Active Principles of Crude Drugs. Anti-allergic Principles in “Cnidii monnieri”” Chemical & pharmaceutical bulletin 33(4), 1676-1680, 1985-04-25