ユズとは?
●基本情報
ゆずはミカン科ミカン属に属する柑橘類のひとつです。
ゆずの果実は比較的大きく、果皮の表面がでこぼこしています。木にあるたくさんの鋭いトゲは、天敵から果実を守るためのものだと考えられています。ゆずの木は、寿命が長く病気に強いことが特徴です。
ゆずは成長が遅いことでも有名です。「ゆずの大馬鹿18年」などといわれるように、種から育て実を実らせるまでに10数年もかかることもあるようです。
未熟な青ゆずは7~10月頃、完熟した黄ゆずは10~12月頃に市場に出回ります。
●ゆずの名前の由来
ゆずは漢字で「柚子」と表記されますが、その語源には2つの説があります。
中国でゆずの木は「柚(ユウ)」、果実は「柚(ユ)の実(ズ)」と呼ばれ、それが「柚子」に変化したと考えられています。
また、ゆずは古来より食酢として利用されていました。そのため、本来の「柚」から「柚酢」となり、更に「柚子」と変化したとの説もあります。
●ゆずの原産地・生産地
ゆずの原産地は、中国の揚子江上流とされています。日本には奈良時代もしくは飛鳥時代に伝えられ、その当時は薬用などの用途で生産されていたと考えられています。その後、柑橘類としては珍しく寒さに強い性質を持つため、東北地方を含む日本全域で生産されるようになりました。現在では、全国の生産量の約70%は高知県と徳島県で生産されています。
●ゆずの利用
ゆずは、主に料理の引き立て役としてその香りや酸味、果皮の鮮やかな黄色を活かした使い方をされています。
また、果皮を刻み料理の風味付けにしたり、果汁をポン酢やドレッシング、ジュース、果実酒などに用いています。
<豆知識①>ゆず胡椒
ここ数年で飛躍的に知名度を上げ、今や全国レベルで愛されるようになったゆず胡椒は、九州の有名な調味料です。ゆずの皮と唐辛子をすり下ろし、 塩を加えて混ぜ合わせてつくられます。緑のゆずに青唐辛子を加えた緑色のタイプと、 熟した黄色いゆずに赤唐辛子を加えたオレンジ色のタイプがあります。
九州では青唐辛子のことを「胡椒」と呼んでいたため、ゆず胡椒と呼ばれるようになりました。
主に鍋料理や味噌汁、刺身などの薬味として用いられますが、知名度の上昇とともにゆず胡椒味のお菓子が販売されるなど、より多様な使い方をされています。
<豆知識②>冬至にゆず湯
日本では、銭湯ができた江戸時代より冬至にゆずを浮かべた湯舟に入浴する習慣があります。
これは、冬至を湯治(とうじ)、ゆずを融通にかけて「お湯に入って融通を利かせましょう」という意味があるといわれています。ゆず湯に入れば風邪をひかないといわれています。また、ゆずの香りには精神をリラックスさせる効果があり、ゆずの皮には血行促進や疲労回復、肩こり改善、美肌、保湿など多くの効果があることから、ゆず湯の習慣が日本に根付いたといわれています。
●ゆずに含まれる成分と性質
ゆずにはビタミンCをはじめ、クエン酸や酒石酸、リンゴ酸などの有機酸、カリウムやカルシウムなどのミネラル類などが豊富に含まれています。果皮にもビタミンCや香り成分であるリモネン、β-カロテン、ヘスペリジン、食物繊維であるペクチンなどが豊富に含まれています。
β-カロテンは、体内で必要な量だけビタミンAに変換され、ビタミンAとして働きます。ビタミンAは脂溶性のビタミンであるため、その性質上、過剰摂取に対し注意が必要な成分ですが、β-カロテンは体内で必要な量しかビタミンAに変換されないため、過剰摂取の心配がありません。
ヘスペリジンとはビタミンPとも呼ばれるポリフェノールの一種で、強い抗酸化作用や末梢血管を強化する働きを持つ成分です。
ゆずに含まれるビタミンCやβ-カロテン、ヘスペリジンは、強い抗酸化作用を持つことで有名です。
抗酸化作用とは、紫外線や喫煙、ストレスなど生活の様々な場面で発生する活性酸素[※1]を除去し、体が酸化することを防ぐ働きのことです。
人間の体内に活性酸素が過剰に発生し酸化が起こると、病気や老化、肌トラブルが引き起こされます。ゆずに含まれる抗酸化物質が体内で強い抗酸化力を発揮して酸化から体を守ることで、病気や老化、肌トラブルを予防することができます。
[※1:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応が増すことで強い酸化力を持った酸素のことです。体内で過剰に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるといわれています。]
ユズの効果
ゆずには、ビタミンCをはじめ、ミネラル類や有機酸、リモネン、β-カロテン、ヘスペリジン、ペクチンなど様々な有効成分が豊富に含まれており、これらの成分は以下のような健康に対する効果が期待されています。
●感染症を予防する効果
ゆずにはビタミンCやβ-カロテン、ヘスペリジンが豊富に含まれています。
ビタミンCは、血液中の白血球、特に細菌やウイルスと闘う好中球に多量に含まれており、体外から侵入してきた細菌やウイルスなどを撃退する役割を担っています。ビタミンCは白血球の働きを高め、ビタミンC自体も細菌やウイルスに対抗する働きがあります。さらに、果皮に含まれるヘスペリジンにはビタミンCの吸収を促進する働きがあり、β-カロテンには粘膜を丈夫にし、免疫力をアップさせる働きがあります。そのため、ゆずには免疫力を高め、風邪などの感染症を予防し、病気の回復を早める効果があるといわれています。
●動脈硬化を予防する効果
血液中の悪玉(LDL)コレステロールが増加すると、血管の内壁が脂質で分厚くなり、こぶのようにせり出して血管を狭めるため、高血圧や動脈硬化などが引き起こされます。ビタミンCをはじめ、ヘスペリジンやβ-カロテン、ペクチンなどゆずに含まれる様々な成分には、血中の悪玉(LDL)コレステロールを減少させる働きがあります。そのため、ゆずは動脈硬化などの生活習慣病の予防に効果的であると考えられています。
●高血圧を予防・改善する効果
ゆずにはカリウムも含まれています。
味の濃い食事などによって過剰に塩分を摂り続けると血液中のナトリウムが増え、高血圧を引き起こす原因となります。カリウムは体内でナトリウムとバランスを取り合って存在しており、ナトリウムを体外に排泄する働きがあるため、ゆずは高血圧を予防する効果が期待されています。
●リラックス効果
ゆずに豊富に含まれるビタミンCには、ストレスをやわらげる副腎皮質[※3]ホルモンと、心地良さなどの感情をつくり出すドーパミンや気持ちを落ち着かせるGABAなどの神経伝達物質[※4]の合成をサポートする働きがあります。さらに、ゆずに含まれるリモネンなどの香り成分が大脳に直接働きかけることで、脳をすっきりさせ、ストレスをやわらげるなどのリラックス効果をもたらします。
●美肌効果
シミやそばかすの原因となるメラニン色素は、アミノ酸の一種であるチロシンから生成されます。ゆずに豊富に含まれているビタミンCには、チロシンを生成する酵素であるチロシナーゼの働きを抑制し、メラニン色素の沈着を防ぐ働きがあります。そのため、シミやそばかすの予防につながるとされています。
また、ゆずに含まれるヘスペリジンには肌の構成成分であるコラーゲンの合成促進効果があることも報告されています。さらに、肌などの健康を保つβ-カロテンも豊富に含むゆずには、美肌効果が期待されています。
●血流を改善する効果
ゆずの皮に豊富に含まれるヘスペリジンやリモネンには、血流を改善する効果があります。
血液は全身に酸素や栄養はもちろん、温度を運ぶ役割も担っています。そのため、毛細血管などが縮むことで血流が悪くなり、末梢まで血液が運ばれなくなると体の冷えが生じます。
ヘスペリジンには、毛細血管を広げ血液が流れやすいように働きかけ、温度を末梢血管まで運ぶため、体を温める効果が期待できます。
日本で古くから冬至の習慣として親しまれているゆず湯は、ゆずの皮に含まれているヘスペリジンやリモネンの血流を改善し、体を温める効果の有効的な活用例であるといえます。【7】
●疲労回復効果
ゆずには、クエン酸やリンゴ酸などの有機酸が豊富に含まれます。
激しい運動やストレス、不規則な生活によって細胞が酸欠状態になると、体内に疲労物質である乳酸が溜まります。クエン酸やリンゴ酸には乳酸を分解しエネルギーに変える働きがあるため、疲労の蓄積を抑え、疲労を回復させる効果があります。
●むくみを予防・改善する効果
毛細血管には体の組織に栄養や酸素を運ぶ役割があり、毛細血管の透過性は、悪すぎても良すぎても体にとっては悪く、適度に保たれている必要があります。透過性が良くなりすぎるとむくみなどの症状を引き起こします。ゆずの皮に多く含まれるヘスペリジンには、この透過性の亢進を抑え、毛細血管を強くする働きがあります。さらに、みかんに含まれるカリウムには、体内の余分な水分を排出する働きがあります。そのため、ゆずには、むくみの予防・改善に効果があるといわれています。
●便秘を解消する効果
ゆずには食物繊維であるペクチンが豊富に含まれています。ペクチンは腸内で善玉菌[※5]のエサとなり、腸内環境を整える働きがあります。そのため、便秘の解消に効果があります。
[※3:副腎皮質とは、腎臓の上に位置する臓器である副腎の周辺部分のことです。副腎皮質からはアドレナリンなどの様々なホルモンが分泌され、生命を維持するために欠かせない臓器です。]
[※4:神経伝達物質とは、神経細胞の興奮や抑制を他の神経細胞に伝達する物質のことです。]
[※5:善玉菌とは、ヒトの腸内にすむ細菌の一種です。健康に役立つ働きを行っており、もともと大腸にすんでいる腸内ビフィズス菌や乳酸菌、腸球菌などが善玉菌といわれます。]
ユズは食事やサプリメントで摂取できます
こんな方におすすめ
○風邪をひきやすい方
○動脈硬化を予防したい方
○高血圧を予防したい方
○ストレスをやわらげたい方
○血流を改善したい方
○疲労を回復させたい方
○手足のむくみが気になる方
○便秘でお悩みの方
ユズの研究情報
【1】PC12(神経芽細胞)を用いてアミロイドβ誘発神経毒に対するゆず抽出ナリンゲニンの作用について調べました。ナリンゲニンはアミロイドβ誘発神経毒を濃度依存的に抑制しました。またIn vivoではスコポラミン誘発健忘症マウスの健忘症を4.5mg/kgのナリンゲニン投与によって有意に回復しました。ナリンゲニンによって酸化ストレスを受けた細胞が減少することで、ゆずがアルツハイマーのような神経変性疾患に対する予防剤となる可能性があることを示しました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15030205
【2】in vitroでヒトの好酸球性白血病(HL-60)についての柚子の皮に含まれるリモネンの消炎作用を調査しました。活性酸素種、MCP-1、NFκBおよびp38マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)領域を測定しました。リモネン(7.34 mmol/L)は、エオタキシン誘発HL-60クローン15細胞に対する活性酸素種の産生を阻害したことがわかりました。またリモネンの14.68 mmol/LはNFκBを活性化しMCP-1を抑制しました。また、MAPKを阻害し、HL-60の遊走を抑制しました。これらの結果から、リモネンは気管支喘息による炎症を抑える働きがあると考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20492298
【3】ゆずのフラバノイドについて4つの成分を単離、同定しました。さらにこの中のヘスペレチン7-O-(2′,6′-ジ-O-α-ラムノピラノシル)-β-グルコピラノシドは、インフルエンザAウイルスを抑制することがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11509977
【4】ヘスペリジンをマウスへ腹腔内投与し、3時間後、チフス菌を感染させ敗血症を引き起こさせましたが、ヘスぺリジンの用量依存的にマウスは回復しました。加えて肝臓・脾臓の細菌が減少しただけでなく、血漿中のTNFαなどの炎症因子が減少しました。これらのことからヘスペリジンンの投与は、急性敗血症によるショック状態からもいち早く回復させる可能性が考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15133244
【5】卵巣除去マウス(OVX)誘発骨密度低下に対するヘスペリジンの作用について検討しました。OVX-通常食事(コントロール群)、OVX-ヘスペリジン0.5g/100g(HesA群)またはOVX-αグルコヘスペリジン0.7g/100g(HesB群)を4週間与えたところ、コントロール群に比べHesA群もHesB群も骨に含まれるミネラル濃度は有意に高くなりました。また、HesB群では卵巣除去によって減少した骨密度を改善しました。このことからヘスぺリジンのようなシトラスフラボノイドには骨の代謝を改善する働きがあることがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12771335
【6】ヘスペリジンのラットへの投与(50mg/kgまたは100mg/kg皮下投与)はカラギナン誘発の浮腫をそれぞれ47%、63%抑制しました。また100mg/kgのヘスペリジン投与ではデキストラン誘発浮腫を約33%まで抑制することがわかりました。これらの結果から、シトラスから抽出したヘスペリジンはゆるやかな抗炎症作用を有することがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8021799
【7】ヘスペリジンは柑橘類に多く含まれ、末梢血管強化作用が知られています。ヘスペリジンによる、冷え症女性に対する影響について検討しました。冷えを訴える女性11名を対象に酵素処理ヘスペリジン(250 mg/日)またはプラセボを摂取させ単回摂取40分後と7日間継続摂取後、手掌部に冷却負荷を与え、その後の皮膚表面温、皮膚血流量、血管幅の変化を評価しました。酵素処理ヘスペリジン単回摂取時は、プラセボに比べて冷却負荷後の温度変化量、血流変化率が有意に高く、酵素処理ヘスペリジン継続摂取時においても、冷却負荷後の温度変化量、血流変化率が有意に高値を示しました。酵素処理ヘスペリジンを摂取することで、末梢の血流量が増加し、皮膚表面温度を回復させることが考えられました。継続的に摂取することでその効果が維持され、冷えを緩和する可能性があることが示唆された。
http://ci.nii.ac.jp/naid/10024794479
参考文献
・五訂増補 日本食品成分表
・本多京子 食の医学館 小学館
・Heo HJ, Kim DO, Shin SC, Kim MJ, Kim BG, Shin DH. (2004) “Effect of antioxidant flavanone, naringenin, from Citrus junoson neuroprotection.” J Agric Food Chem. 2004 Mar 24;52(6):1520-5.
・Hirota R, Roger NN, Nakamura H, Song HS, Sawamura M, Suganuma N. (2010) “Anti-inflammatory effects of limonene from yuzu (Citrus junos Tanaka) essential oil on eosinophils.” J Food Sci. 2010 Apr;75(3):H87-92.
・Kim HK, Jeon WK, Ko BS. (2001) “Flavanone glycosides from Citrus junos and their anti-influenza virus activity.” Planta Med. 2001 Aug;67(6):548-9.
・Kawaguchi K, Kikuchi S, Hasunuma R, Maruyama H, Yoshikawa T, Kumazawa Y. (2004) “A citrus flavonoid hesperidin suppresses infection-induced endotoxin shock in mice.” Biol Pharm Bull. 2004 May;27(5):679-83.
・Chiba H, Uehara M, Wu J, Wang X, Masuyama R, Suzuki K, Kanazawa K, Ishimi Y. (2003) “Hesperidin, a citrus flavonoid, inhibits bone loss and decreases serum and hepatic lipids in ovariectomized mice.” J Nutr. 2003 Jun;133(6):1892-7.
・Emim JA, Oliveira AB, Lapa AJ. (1994) “Pharmacological evaluation of the anti-inflammatory activity of a citrus bioflavonoid, hesperidin, and the isoflavonoids, duartin and claussequinone, in rats and mice.” J Pharm Pharmacol. 1994 Feb;46(2):118-22.
・YOSHITANI Kayo、MINAMI Toshiko、TAKUMI Hiroko、KAGAMI Yoshiaki、SHIRAISHI Koso (2008) “Effect of α-Glucosylhesperidin on Poor Circulation in Women” Journal of Japanese Society of Nutrition and Food Science 61(5), 233-239, 2008-10-10