シナモン

英:cinnamon  仏:cannella
cinnamomum zeylanicum

シナモンは古くから香辛料や漢方薬として用いられています。シナモンの香りは桂皮アルデヒドによるもので、消化を促進させる働きがあるといわれています。清涼感のある甘辛いキリリとした香りを持つため、お菓子や紅茶、ピラフなどにも利用されており、スパイスの王様とも呼ばれています。

シナモンとは?

●基本情報
シナモンはクスノキ科に属している常緑樹[※1]で、幹や枝の樹皮をナイフで細長い形状にはぎ取り、コルク層を除去して乾燥させたものがシナモンとして用いられています。シナモンには多くの種がありますが、一般的にシナモンというとセイロンシナモンを指します。シナモンは用途によって種類が変わり、カシアやニッキと呼ばれる種類も利用されます。シナモンは清涼感を伴うキリリとした芳香が特徴的で、甘みの中にわずかな辛みがある独特の風味を持ちます。
香り高いシナモンはスパイスの王様として有名です。スパイスとして利用されるシナモンには樹皮をそのまま長く巻いたシナモンスティックと、粉末状に加工したシナモンパウダーがありますが、市販されているシナモンは複数の種からつくられているものが一般的です。
日本では古くから縁日のお菓子などに利用されており「ニッキ」の名前で親しまれてきました。消化促進作用のほか、健胃、整腸、解毒、鎮痛などの作用を持つことから漢方にも利用されています。
シナモンの原産地はインド、マレーシア、スリランカです。現在では主にスリランカ、インド、インドネシア、ビルマ、ベトナム、ボルネオ、ブラジル、ジャマイカなどの熱帯各地で幅広く栽培されています。

●シナモンの歴史
シナモンは人間との関わりが深く、世界最古のスパイスのひとつといわれています。
紀元前4000年頃からエジプトでミイラを保存するための防腐剤[※3]として使われていました。また、儀礼にもシナモンが頻繁に使用されていたといわれています。
日本には8世紀前半に乾燥させたシナモンが伝えられました。シナモンは「桂心」という名で薬物として伝来し、現在でも正倉院の御物の中に保存されています。また、防腐剤としてだけではなく香料としても用いられ、大航海時代の冒険者たちが命をかけて求めたスパイスでもあったといわれています。
江戸時代の亨保年間(1716~1735年)頃には樹木として日本に伝えられました。このとき伝えられたシナモンはシーボルディー種であったと考えられています。

<豆知識①>愛情を示す最高の贈り物、シナモン
古代ギリシャではシナモンの甘美な香りから「愛をかきたてる」と、深い愛情を示す最高の贈り物として王侯貴族に重宝されていました。
ローマの暴君ネロは最愛の妻の死後、妻の死出の旅への贈り物・愛の証として、ローマで使用される1年分のシナモンをかき集めて、全て焚いたといわれています。

●シナモンの利用方法
シナモンは甘いものや甘い香りが特徴的な料理に用いることで、より一層甘みが強まるという相乗効果があります。したがって砂糖を多く使ったケーキやパイ類、ドーナッツなどに用いると良いといわれています。
また、紅茶やコーヒーを混ぜる際にシナモンスティックを利用し、香りを楽しみながら風味をつける方法もあります。
シナモンは砂糖と一緒に使用することでより甘みを感じるため、シナモンシュガーとして紅茶やコーヒーに利用されることもあります。
フルーツの甘い香りとも相性が良く、リンゴピーチ、洋ナシなどのコンポートにも合います。特にリンゴの風味に合うため、アメリカではリンゴジャムにも用いられています。
メキシコではホットチョコレートにシナモンが欠かせません。中国ではシナモンがミックススパイスである五香粉のひとつとして用いられています。
カシアはカレーやピラフ、炒めものなどの塩味系の料理に用いられています。

<豆知識②>お屠蘇とシナモン
シナモンはお屠蘇(とそ)[※4]にも含まれています。お屠蘇に含まれているシナモンは、カシアと呼ばれる種類が使用されています。4世紀に書かれた中国の文献である「肘後法(ちょうごほう)」には、お屠蘇は三国時代の名医である華陀がつくったもので、元旦にこれを飲めば病気や全ての不正の気を避けることができると記載されています。お屠蘇が日本に伝わったのは奈良時代~平安時代にかけてといわれています。当時は宮中の儀式として飲まれていました。江戸時代になると広く庶民の間に浸透していきました。

<豆知識③>八つ橋とシナモン
シナモンは京都を代表する和菓子である八つ橋の原料です。八つ橋に含まれているシナモンは一般的なセイロンシナモンではなく、ニッキと呼ばれる種類が使用されています。八つ橋は米粉、砂糖、ニッキを混ぜて蒸し、その生地を薄く伸ばして焼き上げた堅焼き煎餅の一種です。生地を焼き上げずに一定のサイズに切りだしたものは生八つ橋と呼ばれています。八つ橋は江戸時代中期にはすでにつくられており、古くから親しまれています。

通常の食事でスパイスやお菓子として摂る分には問題ありませんが、シナモンには子宮刺激作用があるため、妊娠中の過度の摂取は避けた方が望ましいといわれています。

●シナモンに含まれる成分とその性質
シナモンの主成分は桂皮アルデヒドで、シンナミックアルデヒドとも呼ばれています。40℃前後でもっとも香りを発散します。

<豆知識④>シナモンオイル
シナモンはスパイスとしてのみならず、アロマオイルとしても有効な働きがあると考えられています。シナモンオイルはシナモンそのものに比べ、より濃厚で甘くスパイシーな香りを持ちます。シナモンオイルには気分を高揚させる作用があるといわれており、元気がない時や気分が沈んでいる時などに良いとされています。さらに、シナモンオイルには体調を整える効果や、体の痛みをとる効果があるともいわれています。気力を回復させて何か物事に取り組む前や、何か新しい物事を始める際などに良いと考えられています。
また、アロマオイルとして室内を香らせることで、カビ臭を抑える抗菌作用を発揮するとされています。レモンやオレンジなどの柑橘系のエッセンシャルオイルと相性が良く、合わせて使うことで、より心地よい香りを楽しむことができます。このように、シナモンはスパイスとしてだけではなく、とても優れた効能を持つアロマオイルとしても使用されています。

[※1:常緑樹とは、葉の寿命が1年以上あり年中葉をつけている樹木のことです。]
[※2:五香粉とは、中国の代表的な混合香辛料のことです。シナモン、クローブ、カホクザンショウ、フェンネル、八角、陳皮などの粉末を混ぜてつくられ、材料の臭み消しや香りつけに用いられます。]
[※3:防腐剤とは、微生物の侵入・発育・増殖を防止し、腐敗・発酵が起こらないようにする「静菌作用」を目的として使われる薬剤のことです。]
[※4:お屠蘇とは、1年間の邪気を払い長寿を願って正月に呑まれている薬酒のことです。]

シナモンの効果

西洋で古くから薬用として用いられており、現在でも万能薬として広く利用されているシナモンには、以下のような効果が期待されています。

●胃や腸を健康にする効果
シナモンは腹痛や下痢、腹部膨満感などの解消に有効だといわれています。インドでは「tejpat」として腹痛や下痢の治療薬に使用されています。

●血流を改善する効果
シナモンには血行を盛んにし諸臓器の機能を亢進する作用があるといわれています。血行とは血液の流れのことをいいます。血行が悪くなると、全身の細胞の新陳代謝が滞り、老化が促進されます。また疲れやすい、免疫力が低下するといった体の不調をもたらします。

●むくみを予防する効果
漢方で使用されるシナモンには、水分代謝を調節する作用があるといわれています。水分代謝とは汗や尿とともに体の不要物を体外に排出することをいいます。水分代謝が悪くなると体内に余分な水が溜まり、むくみの原因となります。シナモンには発汗を促してむくみを予防する働きがあります。

●消化を促進する効果
シナモンの甘い爽やかな香りは「桂皮アルデヒド」と呼ばれる成分で、消化促進作用を持っています。
桂皮アルデヒドは嗅覚を刺激し、胃の働きを高めることで胃液の分泌を促し消化を促進します。

●糖尿病の予防・改善効果
Ⅱ型糖尿病[※6]の患者を対象にした複数のランダム化比較試験によって、シナモン投与による血糖コントロール改善作用、糖代謝改善作用が報告されています。
そのため、シナモンは糖尿病対策の機能性成分として注目されています。【1】【2】

[※5:不随意運動とは、意志に基づかない不合理な運動のことをいいます。]
[※6:Ⅱ型糖尿病とは、食事や運動などの生活習慣が誘因となりインスリン作用が低下する糖尿病のことをいいます。日本人の糖尿病患者の9割以上はⅡ型糖尿病です。]

こんな方におすすめ

○風邪をひきやすい方
○胃腸の健康を保ちたい方
○血流を改善したい方
○手足のむくみでお悩みの方
○消化を促進したい方
○糖尿病を予防・改善したい方

シナモンの研究情報

【1】Ⅱ型糖尿病マウスに、シナモンの抽出物を6週間投与したところ、血糖値、トリグリセリド、総コレステロールの上昇および腸のα-グルコシダーゼ活性が抑制されました。一方血清インスリン値およびHDLコレステロールが改善したことから、シナモンに糖尿病予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16213119

【2】血糖降下薬の治療を受け、HbA1c値(糖尿病の指標)が7%を超えている男女58名のⅡ型糖尿病患者を対象に、シナモンを1日当たり2g の量で12週間摂取させたところ、糖尿病の指標糖化ヘモグロビン(HbA1c)拡張期血圧と収縮期血圧が低下したことから、シナモンに糖尿病予防効果と高血圧予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20854384

【3】シナモンの精油成分は抗菌作用を持つことが知られています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20828600

【4】雄のラット6匹に、シナモン油を1日あたり100mg/kg の量で10週間摂取させたところ、酸化指標であるマロンジアルデヒド濃度が減少し、抗酸化酵素グルタチオン、グルタチオンペルオキシダーゼおよびカタラーゼが活性化されました。また精巣および副睾丸の重量、精細管の精巣上体精子濃度、精子の運動性および直径の大幅な増加を示したことから、シナモンに抗酸化酵素向上と生殖機能改善効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22862806

【5】ラットにシナモン抽出物を摂取させたところ、放射線照射による肝臓中抗酸化酵素SOD、カタラーゼおよびグルタチオンペルオキシダーゼの低下が抑制され、肝臓中の過酸化脂質の増加が抑制されました。この他、キサンチンオキシドレダクターゼ、肝臓中の一酸化窒素、TNF-α(清腫瘍壊死因子)およびC反応性タンパク質においても改善が見られました。シナモンが放射線からの細胞保護作用ならびに抗炎症作用を持つことが示唆されました
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21782243

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参考文献

・則岡孝子 栄養成分の事典 新星出版

・本多京子 食の医学館 小学館

・蒲原聖可 サプリメント事典 平凡社

・武政 三男 80のスパイス辞典 フレグランスジャーナル社

・ハーブ スパイス館 小学館

・則岡孝子 栄養成分の事典 新星出版

・本多京子 食の医学館 小学館

・蒲原聖可 サプリメント事典 平凡社

・Kim SH, Hyun SH, Choung SY. 2006 “Anti-diabetic effect of cinnamon extract on blood glucose in db/db mice.” J Ethnopharmacol. 2006 Mar 8;104(1-2): 119-23.

・Akilen R, Tsiami A, Devendra D, Robinson N. 2010 “Glycated haemoglobin and blood pressure-lowering effect of cinnamon in multi-ethnic Type 2 diabetic patients in the UK: a randomized, placebo-controlled, double-blind clinical trial.” Diabet Med. 2010 Oct;27(10): 1159-67.

・Unlu M, Ergene E, Unlu GV, Zeytinoglu HS, Vural N. 2010 “Composition, antimicrobial activity and in vitro cytotoxicity of essential oil from Cinnamomum zeylanicum Blume (Lauraceae).” Food Chem Toxicol. 2010 Nov;48(11): 3274-80.

・Yüce A, Türk G, Ceribaşi S, Sönmez M, Ciftçi M, Güvenç M. 2012 “Effects of cinnamon (Cinnamomum zeylanicum) bark oil on testicular antioxidant values, apoptotic germ cell and sperm quality.” Andrologia. 2012 Aug 3.

・Azab KSh, Mostafa AH, Ali EM, Abdel-Aziz MA. 2011 “Cinnamon extract ameliorates ionizing radiation-induced cellular injury in rats.” Ecotoxicol Environ Saf. 2011 Nov;74(8): 2324-9.

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