クロム

Chromium

クロムとは、血糖値、血圧、コレステロール値を下げる働きに関わり、人間の体に必要な必須ミネラルです。幅広い食品に含まれ、体内で起こるあらゆる代謝 (化学反応)に関わっています。特に血糖値を調節しているインスリンというホルモンの働きを助けます。

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クロムとは?

●基本情報
クロムは人が活動するために必要な、代謝[※1]に関わる必須ミネラルのうちのひとつです。空気、、土壌など自然界に存在し、人の体内では約2mgありますが、現在必須と考えられているミネラルの中では最も微量です。特に多く存在しているのはリンパ節、歯、肺で、次いで肝臓、卵巣が高く、筋肉、血液中にも微量に存在しています。

●クロムの歴史
クロムは、1797年にフランスのルイ=ニコラ・ヴォーグランによってシベリア産の紅鉛鉱(こうえんこう)[※2]から発見された、原子番号24の元素です。クロム (chromium)の名前は、ギリシャ語で色という意味のクロマ (chroma)からルネ=ジュスト・アユイにより名づけられました。
クロムは赤・紫・黄緑など様々な色を呈する元素で、ルビーが赤いのはクロムによるものです。ルビーとサファイアはほとんど同じ石 (宝石)ですが、クロムを含むと赤いルビーに、鉄やチタンを含むと深い青色のサファイアになります。ルビーの赤色はクロムの量によって左右され、クロムを多く含む方が、赤色が強く価値があるとされています。また、エメラルドにもクロムが含まれています。
金属としては銀白色で光沢があり、硬くさびにくいため、クロムメッキとしてよく用いられます。合金としても、車や機械、流し台、包丁など幅広く使われています。

●クロムの種類
私たちの生活と関わりの深いクロムは、3価[※3]クロムと6価クロムです。
自然界に存在するクロムのほとんどは3価クロムで、栄養素として食事で取り入れる必要があるクロムも3価クロムです。
一方6価のクロムは人工的に生産されるもので、酸化力が強く有毒で非常に危険性のある物質です。これを食品で摂ることはまずありませんが、環境汚染物質として注意が必要です。発ガン性も指摘されています。

●クロムの吸収
クロムは小腸から吸収されますが、3価クロムの吸収率は2~3%と非常に吸収されにくいミネラルです。また食品のビール酵母に含まれるクロムは吸収率が10~25%といわれています。
吸収されたクロムの大部分は尿中に出ていってしまいます。
クロムはシュウ酸 [※4]やフィチン酸とともに摂ると吸収が阻害されてしまいます。シュウ酸はほうれんそうやさといもなどの野菜に含まれますが、調理時にアクを取るなどで取り除くことができます。
また、クロムはビタミンCと一緒にとると吸収率が上がります。
毒性のある6価クロムを摂取した場合には、3価のものより吸収率が高いことがわかっています。

●クロムの欠乏症
クロムは多くの食品に含まれていて、必要な量も微量であるため、通常の食事で欠乏症がみられるほど不足することはまずありません。基準としては性別や年齢によって個人差もありますが、表の通りとなっています (日本人の食事摂取基準 [※5] (2015年版)による)。
欠乏症としては糖の代謝異常、成長障害、脂質たんぱく質の代謝異常、角膜の病気、動脈硬化、脂質異常症などが知られています。
クロムの欠乏症は、1977年に静脈栄養 [※6]だけで栄養摂取している患者で見つかりました。この患者は糖の代謝異常を起こしていましたが、クロムの補充で回復しました。
クロムを全く添加していない静脈栄養を行うと、インスリンの働きが悪くなり、クロムを補給すると改善されることが報告されています。入院中に静脈栄養を長期間続けていた場合や、土壌にクロムの含有が少ない限られた地方の人は、欠乏の可能性があります。

●クロムの過剰症
通常の食事で取り入れる3価クロムは、吸収率が非常に低いこともあり過剰摂取によって健康に害が出ることはまずありません。 しかし、1日600~1000 µgまでのクロムのサプリメントを長期間継続的に摂取した場合には、健康上のメリットは全くなく、吐き気や下痢などを起こすことがあり、まれに頭痛や不眠などの睡眠障害が起こり得ることがわかっています。

厚生労働省が提示している「日本人の食事摂取基準」では、多くの栄養素の耐用上限量 [※7]が示されていますが、クロムには耐用上限量が示されていません。
食事摂取基準が決められる際には、多くの科学的論文によって検討されます。しかし、クロムの耐用上限量に関する報告は十分ではなかったため、クロムの耐用上限量の策定は見送られました。
通常の食事をしている限り、摂りすぎることはまずありませんが、サプリメントなどでクロムを大量に摂取するといったことは控えるべきといえます。

[※1:代謝とは、生体内で、物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです。また、それに伴ってエネルギーが出入りすることを指します。]
[※2:紅鉛鉱とは、クロム酸鉛、PbCrO4のことです。鉛を含む赤い鉱物で、油絵具の原料としても使われます。]
[※3:価とは、この場合、イオン価を指します。価は、原子が帯びている電荷の数によって違いがあります。]
[※4:シュウ酸とは、ほうれんそうなどの青菜に多く含まれるエグ味成分のことです。]
[※5:日本人の食事摂取基準とは、健康な個人または集団を対象として、国民の健康の維持・増進、生活習慣病の予防を目的に、エネルギーおよび各栄養素の摂取量の基準を示したものです。]
[※6:静脈栄養とは、静脈から直接注入して栄養素を補給する方法です。]
[※7:耐用上限量とは、日常的に摂取し続けた場合に健康障害のリスクがないと考えられる上限の量です。]

 

クロムの効果

●糖尿病を予防する効果
1975年、食品に含まれる3価クロムにインスリンの働きを助ける作用があることがわかりました。そしてクロムが持つ、血糖値を安定させダイエットや糖尿病を改善する効果に期待が高まり、大きな注目を浴びるようになりました。

クロムは体内に吸収されたあと、アルブシンやトランスフェリン [※8]という糖たんぱくと結合して血液を通じて全身に運ばれ、体の中であらゆる代謝に関わります。
クロムはインスリンの働きを助けます。インスリンは膵臓にあるランゲルハンス島のβ細胞から分泌されるホルモンで、糖質をエネルギーに変え血糖値 [※9]を下げる働きをします。
食事から摂った糖質は、ブドウ糖に分解されて血液に吸収され、インスリンの働きによって筋肉や肝臓など全身の細胞に取り込まれます。筋肉に取り込まれたブドウ糖は、運動時にエネルギーとして使われ、肝臓や筋肉ではグリコーゲン [※10]として貯えられ、過剰分は脂肪細胞に蓄積されます。
クロムはインスリンの作用を高める因子 [※11]の材料となってインスリンの働きを助け、血糖値を下げる効果があります。
そのため、必要なクロムが不足すると、エネルギー源であるブドウ糖を筋肉や肝臓に取り込むことができなくなります。インスリンがうまく働かず、糖の代謝が正常に行われないと、血液中の糖を取り込んで利用することができないので、血糖値が下がらなくなります。高血糖の状態が続くと疲れやすくなるなどの症状が現れ、そのまま糖尿病になる恐れも出てきます。【1】【4】【6】【9】

<豆知識①> 糖尿病予防のために生活のなかで気をつけるポイント
食事や運動などの生活習慣が糖尿病と関係している場合が多いため、バランスのよい食事と適度な運動が生活習慣病を予防する上で大切です。食事は決まった時間にゆっくり噛んで食べる、野菜を多く摂る、甘いものや脂っこいものは控える、薄味にする、などがポイントです。また、日常で歩く機会を増やしたり、少し早めに歩くなどして意識して体を動かすことも大切です。

<豆知識②> クロムと亜鉛は協力して働く
インスリンは体内の血糖値を下げることのできる、唯一のホルモンです。膵臓のβ細胞と呼ばれるところでインスリンをつくり、貯め、分泌しています。インスリンを「つくり、貯め、分泌する」という仕事をしている成分が亜鉛です。亜鉛は必要な時に、必要な量のインスリンを送り出すために不可欠なミネラルです。β細胞内で亜鉛が不足すると、亜鉛と一緒になれなかったインスリンがβ細胞から勝手に送り出され、インスリンの貯えが十分でなくなります。そして、血糖値を下げる必要がある時にインスリンが足りないという状況になってしまうのです。インスリンの働きを助けるクロムと同様に亜鉛もインスリンと重要な関係があるため、クロムと一緒に亜鉛を摂るとなお良いとされています。

●動脈硬化、高血圧を予防する効果
クロムは栄養素である脂質、たんぱく質などから、エネルギーをつくり出す流れを滞りなく行うために必要とされる成分です。
人間は食事から得た脂質、たんぱく質、炭水化物などの栄養素を体内でエネルギーに変え、過剰な栄養素は体の外に排出しながら生命を維持しています。これを代謝といいます。
クロムは体内で起こるあらゆる代謝に大きく関わっています。例えば、コレステロールの代謝、結合組織の代謝、たんぱく質代謝などです。
特に脂質代謝では、脂肪酸やコレステロールの合成を促進する働きによって脂質代謝を活発にします。その働きによって、血液中の中性脂肪やコレステロール値を正常範囲に下げ、動脈硬化や高血圧の予防に貢献します。【2】

[※8:トランスフェリンとは、血液、乳汁、唾液、涙の中にあり、鉄と結合する糖たんぱく質です。]
[※9:血糖値とは、血液中にブドウ糖がどれくらいあるのかを示すものです。ブドウ糖が血液中にあふれてしまうと血糖値が高くなります。]
[※10:グリコーゲンとは、糖がたくさんつながり、多糖類となった状態で肝臓や筋肉に貯蔵されている物質のことです。グリコーゲンはエネルギーが足りなくなった際にブドウ糖に変化するため、エネルギー源として大切な役割を持っています。]
[※11:インスリンの作用を高める因子とは、クロモデュリンと呼ばれるオリゴペプチドのことです。4つの3価クロムイオンが結合しています。]

クロムは食事やサプリメントで摂取できます

クロムを含む食品

○穀類:玄米や小麦胚芽などの精製していない穀類、そば
○肉類:牛肉、豚肉、鶏肉、レバー
○魚介類:あなご、ホタテ、カキ
○その他:ナッツ、豆、キノコ、海藻、ザーサイ、ココア、パルメザンチーズなど

こんな方におすすめ

○糖尿病を予防したい方
○コレステロール値が気になる方
○生活習慣病を予防したい方

クロムの研究情報

【1】Ⅱ型糖尿病患者を対象に、クロムシステイン化合物を摂取させると、インスリンや酸化ストレスを低減させ、インスリン抵抗性の改善が見られたことから、クロムにはⅡ型糖尿病予防効果があると期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22674882

【2】糖尿病の動物に、ピクリン酸クロム(体重当たり 1mg/kg)を摂取させると、動脈硬化に関連のある LDLコレステロール及びVLDLコレステロールの量に改善が見られ、総コレステロール/HDL 及び HDL/LDL のバランスが改善されました。また肝臓における糖代謝酵素の働きを正常化させました。これらの結果より、クロムが動脈硬化予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22650796

【3】糖尿病動物に、ピクリン酸クロム及びヒスチジン酸クロムを摂取させると、腎臓における炎症関連物質NF-κB の増加が抑制されました。クロムが腎臓保護作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22483164

【4】糖尿病動物に、ピクリン酸クロム(体重当たり 1mg/kg) を4週間摂取させると、肝臓の糖分解酵素のはたらきが活性化され、糖合成酵素の働きが抑制されたことから、クロムが糖尿病予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22287284

【5】12~24週齢の糖尿病マウスに、ピクリン酸クロムを摂取させると、血圧や腎機能に影響を及ぼすことなく、血圧や尿蛋白質の流出が抑制されました。クロムに腎臓病予防効果が期待されています
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21959055

【6】Ⅱ型糖尿病患者40名を対象に、クロムを3ヶ月間摂取させると、血糖値と糖化ヘモグロビンの上昇が抑制されました。クロムに糖尿病予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21570271

【7】高齢者26名を対象に、ピクリン酸クロムを12週間摂取させたところ、神経の変性、脳機能や認識機能低下が抑制されたことから、クロムには脳機能維持効果があることが期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20423560

【8】ラットにクロムを多く含む餌を摂取させたところ、血中抗酸化酵素のカタラーゼの活性が増加しました。亜鉛にはないクロム特有のものであり、クロムにリン酸酸化を介した、抗酸化酵素向上効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19459437

【9】寝たきりによる骨格筋委縮が原因で、糖尿病症状の糖不耐性が生じます。クロムを体重当たり45 μg/kg の量で5週間摂取させると、骨格筋の委縮が抑制され、糖不耐性が改善されたことから、クロムに骨格筋委縮とそれに伴う糖不耐予防効果、糖尿病合併症予防効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19071005

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参考文献

・Jain SK, Kahlon G, Moorehead L, Dhawan R, Lieblong B, Stapleton T, Caldito G, Hoeldtke R, Levine SN, Bass PF 3rd.2012 “Effect of chromium dinicocysteinate supplementation on circulating levels of insulin, TNF-α, oxidative stress, and insulin resistance in type 2 diabetic subjects: randomized, double-blind, placebo-controlled study.” Mol Nutr Food Res. 2012 Jun 6.

・Sundaram B, Singhal K, Sandhir R. 2012 “Anti-atherogenic effect of chromium picolinate in streptozotocin-induced experimental diabetes.” J Diabetes. 2012 May 31.

・Selcuk MY, Aygen B, Dogukan A, Tuzcu Z, Akdemir F, Komorowski JR, Atalay M, Sahin K. 2012 “Chromium picolinate and chromium histidinate protects against renal dysfunction by modulation of NF-κB pathway in high-fat diet fed and Streptozotocin-induced diabetic rats.” CNutr Metab (Lond). 2012 Apr 8;9:30.

・Sundaram B, Singhal K, Sandhir R. 2012 “Ameliorating effect of chromium administration on hepatic glucose metabolism in streptozotocin-induced experimental diabetes.” Biofactors. 2012 Jan;38(1):59-68.

・Mozaffari MS, Baban B, Abdelsayed R, Liu JY, Wimborne H, Rodriguez N, Abebe W. 2011 “Renal and glycemic effects of high-dose chromium picolinate in db/db mice: assessment of DNA damage.” J Nutr Biochem. 2011 Sep 27.

・Sharma S, Agrawal RP, Choudhary M, Jain S, Goyal S, Agarwal V. 2011 “Beneficial effect of chromium supplementation on glucose, HbA1C and lipid variables in individuals with newly onset type-2 diabetes.” J Trace Elem Med Biol. 2011 Jul;25(3):149-53.

・Krikorian R, Eliassen JC, Boespflug EL, Nash TA, Shidler MD. 2010 “Improved cognitive-cerebral function in older adults with chromium supplementation.” Nutr Neurosci. 2010 Jun;13(3):116-22.

・Esen Gursel F, Tekeli SK. 2009 “The effects of feeding with different levels of zinc and chromium on plasma thiobarbituric acid reactive substances and antioxidant enzymes in rats.” Pol J Vet Sci. 2009;12(1):35-9.

・Dong F, Hua Y, Zhao P, Ren J, Du M, Sreejayan N. 2009 “Chromium supplement inhibits skeletal muscle atrophy in hindlimb-suspended mice.” J Nutr Biochem. 2009 Dec;20(12):992-9.

・吉川敏一 炭田康史 最新版 医療従事者のためのサプリメント・機能性食品事典 講談社

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