チェストツリー

chaste tree
イタリアニンジンボク 西洋ニンジンボク アグヌスカスタス
Vitex agnus-castus

チェストツリーは、地中海やアジアに自生する植物です。薄紫色の花と、ほのかな辛味を持つ種子が特徴であり、ホルモンバランスの乱れを整える働きがあることから「女性のためのハーブ」として広く知られています。

チェストツリーとは?

●基本情報
チェストツリーは、クマツヅラ科の植物で、夏頃に薄紫色の花をつけます。原産地は南ヨーロッパから中央アジアです。
チェストツリーの果実が「チェストベリー」として知られており、ハーブとして用いられるほか、見た目が似ていることからコショウの代わりとしても使用されていました。

●チェストツリーの歴史
古くから、チェストツリーの実であるチェストベリーが生理痛などの婦人病に用いられていたという歴史があり、女性のためのハーブとして知られています。
近年、ドイツなどで科学的な研究が進められ、チェストツリーはホルモンと似た作用を持つことが明らかになりました。ドイツではチェストツリーが月経前症候群(PMS)[※1]の症状の治療薬として認可されています。
19世紀には、アメリカの医師が通経薬(月経を促進させるための薬)や、催乳薬(母乳の分泌を促すための薬)にチェストツリーを用いたとされています。

●チェストツリーの生産地
チェストツリーは、地中海沿岸や中央アジアなどの地域に自生しています。

●チェストツリーに含まれる成分と性質
チェストツリーの果実であるチェストベリーに含まれるエキスには、ホルモンの中枢である脳下垂体[※2]に直接働きかけることによって、女性ホルモンの一種である「プロゲステロン」という黄体ホルモン[※3]の分泌を促す働きがあります。
また、チェストツリーには精油[※4]、脂肪酸、イリドイド配糖体、フラボノイド、アルカロイド[※5]などを含み、これらの有効成分が働いてプロゲステロンを増やし、エストロゲン[※6]との分泌バランスを整えます。
このチェストツリーの働きにより、ホルモンバランスの乱れが原因となって引き起こされる症状を緩和することができます。

●チェストツリーを摂取する際の注意点
チェストツリーの1日あたりの目安摂取量は、30~40mgとされています。
また、妊娠中・授乳中や婦人科系疾患のある人、子どものチェストツリーの使用や、経口避妊薬[※7]との併用は避けるべきだといわれているため、注意が必要です。

[※1:月経前症候群(PMS)とは、月経の約1、2週間前から発生し、月経開始とともに消失する一連の身体的、または精神的症状の総称です。]
[※2:脳下垂体とは、視床下部近くに存在し、多数のホルモンを分泌する器官のことです。]
[※3:黄体ホルモンとは、卵巣で排卵を起こした卵胞の壁の細胞が変化してつくられる黄体から分泌されるホルモンです。]
[※4:精油とは、植物の花、葉、果皮、樹皮、根、種子、樹脂などから抽出した有効成分を高濃度に含有した100%天然の揮発性の芳香物質です。各植物によって特有の香りと機能をもち、アロマテラピーに利用されています。]
[※5:アルカロイドとは、窒素原子を含み、塩基性を示す天然由来の有機化合物の総称です。]
[※6:エストロゲンとは、女性ホルモンの一種で、卵胞や黄体から分泌される女性らしい体つきを促進するホルモンのことです。]
[※7:経口避妊薬とは、婦人用の避妊薬のことです。主に排卵を抑制し、避妊の目的で使用されます。]

チェストツリーの効果

●月経前症候群 (PMS)の症状を緩和する効果​
月経前症候群 (PMS)は、女性ホルモンの乱れによって引き起こされます。
月経前症候群 (PMS)の主な症状として、体がむくむ・にきびや口内炎ができるといった身体的な症状のほか、イライラするといった精神的な症状も見られます。
チェストツリーは、ホルモンのバランスを整えるよう働きかけることによって、これらの症状を緩和します。
また、月経前症候群 (PMS)の症状のほかに、月経不順や月経痛を改善・緩和するためにもチェストツリーが用いられます。【4】

●更年期障害の症状を改善する効果
更年期障害とは、40歳代から60歳代の女性に起こりやすい症状です。
更年期障害の主な症状には、顔のほてりやのぼせといった身体的な症状から、イライラ、不安、憂鬱など、精神的な症状も見られます。
また、年齢だけではなく、無理なダイエットやストレスなどの生活習慣が原因で更年期障害に似た症状が現れることがあります。
チェストツリーは、このような更年期障害の症状を緩和するためにも活用されています。【1】【2】【3】

チェストツリーは食事やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

○月経によるお悩みがある方
○更年期障害でお悩みの方

チェストツリーの研究情報

【1】チェストツリーはアングロアメリカやヨーロッパにおいて婦人病の治療に用いられてきた歴史があります。臨床データをもとにチェストツリーの有用性について述べている総論があります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23136064

【2】臨床データをもとにチェストツリーによる更年期障害の軽減作用について証明した報告があります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19678775

【3】チェストツリーを含む数種類のハーブについての更年期障害への影響を調査したところ、閉経後の睡眠障害や顔面紅潮に対しての効果があることがわかった。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17454163

【4】月経前症候群に対してのチェストツリーの効果を、19の無作為試験において実証したメタアナリシスがあります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17111709

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参考文献

・日経ヘルス 編 サプリメント大事典 日経BP社

・リエコ 大島 バークレー、 白浜美千代  英国流メディカルハーブ  説話社

・ハーブ・バイブル 双葉社

・佐々木薫 ハーブティー事典 池田書店

・林信一郎 編 メディカルハーブの事典―主要100種の基本データ 東京堂出版

・van Die MD, Burger HG, Teede HJ, Bone KM. (2013) “Vitex agnus-castus extracts for female reproductive disorders: a systematic review of clinical trials.” Planta Med. 2013 May;79(7):562-75.

・van Die MD, Burger HG, Teede HJ, Bone KM. (2009) “Vitex agnus-castus (Chaste-Tree/Berry) in the treatment of menopause-related complaints.” J Altern Complement Med. 2009 Aug;15(8):853-62.

・Rotem C, Kaplan B. (2007) “Phyto-Female Complex for the relief of hot flushes, night sweats and quality of sleep: randomized, controlled, double-blind pilot study.” Gynecol Endocrinol. 2007 Feb;23(2):117-22.

・Ben-Arye E, Oren A, Ben-Arie A. (2006) “Herbal medicine in womens’ life cycle.” Harefuah. 2006 Oct;145(10):738-42, 782.

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