カシューナッツとは
●基本情報
カシューナッツは、ウルシ科の常緑高木である、カシューにできる種子です。
学名のAnacardium(アナカルディウム)は、ラテン語のana(上向き)と-cardium(心臓)の意味からなる造語で、その果実の着果形態が「上向きの心臓」型に見えることから命名されました。
カシューの木は寒さに弱く多雨過湿を嫌うため、南米大陸北部または北東部地域、西インド諸島各域を主な原産とし、海岸地方に生育しています。
カシューの木は10~15mにまで成長し、11月から3月頃に約20~25cmの花枝の先端に5~15mmほどの花が咲きます。花の色は、赤味あるいは黄白色を帯びた淡緑色で、大半は花弁ごとにピンク色の縞模様がついています。
開花後、およそ2ヵ月から3ヵ月で結実・完熟します。果実は、花托が肥大して約5~12cm程度の洋ナシ形の赤色~黄色をしたりんごの香りを持つカシューアップルを実らせ、その先端に灰褐色の殻に覆われた勾玉型の種子を付けます。この外に付いた種子がカシューナッツです。
カシューナッツ・カシューアップルともに食用とされますが、カシューアップルは繊細なフルーツなため輸出は一切されておらず、原産地のみで食されています。
カシューナッツは堅い殻を取り除き、塩で味付けしてローストしたり、油で揚げて料理に使用されています。
カシューナッツは2層の殻に覆われており、殻の間には強い毒性をもつ青酸配糖体の液体が含まれています。この液体に直接触れると、肌が荒れたり湿疹が出てしまいます。
このため、日本には殻付きのカシューナッツは販売しておらず、市場に出回っているものは焙煎してあります。
●カシューナッツの生産地
カシューナッツの生産国は、インド、ブラジル、タンザニア、モザンビークなどです。ほとんどは脱穀、脱皮を行う設備の郡合から穀付きのまま加工国インドへ輸出しています。インドは独自の脱殻方法を用いて、世界最大の生産・輸出国となっています。
●カシューナッツの歴史
1850年代以降、原産地の一部である南米大陸北東部地域(現・ブラジル連邦共和国の北西部から北東部)にポルトガル人が進出した際、現地の先住民族たちが話すトゥピ語系言語のカシューの呼称「acajú(ゥカジュー)」を、ポルトガル人たちが誤って聞き取ってポルトガル語に外来語「Caju(カジュー)」として導入したのが語源とされており、英語で「Cashew(カシュー)」と呼ばれるようになりました。
ポルトガル人らが、原生していたカシューの木を各地に伝播したのが世界的に普及するきっかけとなりました。当時から、幹の下部からたくさんの枝を出すカシューの特徴を利用して、沿岸部における防風林として植樹され、果実や種子が食用として重用されました。1560年代にはインドのゴアに大規模なカシューナッツの加工工場が建設され、カシューナッツの製品がさまざまな国に輸出されたことから世界的にカシューナッツという食品が有名となりました。
また、カシューナッツの殻の間に含まれる青酸配糖体をインドでは毒蛇にかまれた際の薬として使用したり、ナイジェリアでは肌トラブルを改善するために使用されていたといわれています。
●カシューナッツに含まれる成分
カシューナッツは豊富に一価不飽和脂肪酸のオレイン酸を含みます。また、銅、マグネシウム、鉄、亜鉛などのミネラルも豊富に含んでいます。その中でも特に銅とマグネシウムが多いことが特徴です。
カシューナッツの効果
カシューナッツにはビタミンB₁、銅、鉄、亜鉛などが含まれるため、以下のような効果が期待できます。
●生活習慣病の予防・改善効果
カシューナッツに豊富に含まれる不飽和脂肪酸であるオレイン酸は、悪玉(LDL)コレステロールを減らして善玉(HDL)コレステロールを増やし、動脈硬化や心臓病、高血圧を予防します。
オレイン酸は不飽和脂肪酸の中で最も安定しており、過酸化脂質をつくりにくい、という性質を持っています。そのため、生活習慣病の予防に効果的です。【1】
●骨や歯を丈夫にする効果
カシューナッツには、骨を丈夫にするビタミンK、銅、マグネシウム、鉄などが多く含まれています。
骨はカルシウムだけでなく、コラーゲンやたんぱく質がなければつくられません。ビタミンKは骨を形成するたんぱく質を合成するビタミンです。
骨は25歳くらいをピークに年齢を重ねるごとに弱くなっていきます。
骨粗しょう症を予防するためにも、10代、20代の頃からナッツ類などでビタミンKをしっかりと摂っておくことが重要です。
●便秘を解消する効果
カシューナッツには腸の働きを助け便通を促す働きのある食物繊維が豊富に含まれています。また、オレイン酸は便秘を解消する働きがあるといわれているため、食物繊維とオレイン酸を豊富に含んでいるカシューナッツは便秘の改善に有効であるといわれています。
●貧血を予防する効果
鉄は、吸収率が非常に低く、特に女性に不足しやすいミネラルです。50%の女性が鉄欠乏症の予備軍といわれています。
また、銅は鉄からヘモグロビンという色素がつくられる際に必要なミネラルです。
カシューナッツは鉄と銅を豊富に含んでいるため、貧血を改善する効果が期待できます。
●疲労回復効果
ビタミンB₁には疲労回復の働きがあるといわれています。
ビタミンB₁は食事から摂った糖質をエネルギーに変えるために必要とされる栄養素です。糖質をエネルギーに変える力が低下してしまうと、疲労物質である乳酸が溜まりやすくなり、疲労を感じるようになります。
カシューナッツにはビタミンB₁が豊富に含まれているため疲労を回復する働きがあるといわれています。
●味覚を正常に保つ効果
人間は舌の表面にある味蕾 (みらい)という部分で、食べ物の味を感じています。味蕾の細胞はとても短い期間で常に新しい細胞と入れ替わっています。古くなった味蕾で食事をすると、味がよくわからずおいしく感じない、といった味覚障害が起こります。
カシューナッツに豊富に含まれる亜鉛は、細胞の正常な生まれ変わりを助ける働きによって味蕾の形成にも深く関わっており、亜鉛が不足すると味蕾を新しくつくり出すことができなくなります。
食事やサプリメントから摂取できます
こんな方におすすめ
○生活習慣病を予防したい方
○骨や歯を強くしたい方
○成長期の方
○便秘でお悩みの方
○貧血でお悩みの方
○疲れやすい方
○味覚を正常にしたい方
カシューナッツの研究情報
【1】高コレステロール食摂取ウサギを対象に、カシューナッツ殻抽出物を摂取させたところ、血中コレステロールやLDLコレステロールの上昇が抑制され、動脈硬化が抑制されたことから、カシューナッツは生活習慣病予防効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7590951
【2】カシューナッツには、フラボノイドやビラフォノールなどのポリフェノールの他、ミネラルやビタミンやアミノ酸を豊富に含んでおり、動脈硬化予防効果や抗炎症作用、抗酸化作用、抗菌作用を持つほか、中枢神経刺激作用、血糖値降下作用、抗がん作用、発毛促進作用が知られています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22228947
【3】C2C12筋芽細胞(マウスの筋肉細胞)ならびラット肝臓ミトコンドリアに対して、カシューナッツ果実物および有効成分アナカルジン酸を投与すると、C2C12筋芽細胞へのグルコース取り込みと、ミトコンドリアでの糖分解反応(解糖系)が促進したことから、カシューナッツおよび有効成分アナカルジン酸が抗糖尿病効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20603833
【4】筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者由来iPS細胞、病態ALS運動ニューロンを用いて、カシューナッツの有効成分アナカルジン酸を投与すると、ALSの病態が抑制されることが確認されました。アナカルジン酸は遺伝子活性化酵素ヒストンアセチルトランスフェラーゼ抑制作用を持つことから、カシューナッツ並びにアナカルジン酸がALS病態の予防効果をもつことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22855461
参考文献
・Sharma A, Mathur R, Dixit VP. 1995 “Hypocholesterolemic activity of nut shell extract of Semecarpus anacardium (Bhilawa) in cholesterol fed rabbits.” Indian J Exp Biol. 1995 Jun;33(6):444-8.
・Semalty M, Semalty A, Badola A, Joshi GP, Rawat MS. 2010 “Semecarpus anacardium Linn.: A review.” Pharmacogn Rev. 2010 Jan;4(7):88-94.
・Tedong L, Madiraju P, Martineau LC, Vallerand D, Arnason JT, Desire DD, Lavoie L, Kamtchouing P, Haddad PS. 2010 “Hydro-ethanolic extract of cashew tree (Anacardium occidentale) nut and its principal compound, anacardic acid, stimulate glucose uptake in C2C12 muscle cells.” Mol Nutr Food Res. 2010 Dec;54(12):1753-62. doi: 10.1002/mnfr.201000045.