糖鎖とは?
●基本情報
糖鎖とは、それぞれの単糖がつながりあった一群の化合物です。
単糖とは、自然界に約200種類存在する最小単位の糖のことであり、主にブドウ糖、果糖[※1]などが広く知られています。
糖鎖はあらゆる細胞に存在しており、細胞同士の情報の受け渡しや、侵入してきた細菌の感知など、アンテナのような役割を担っており、細胞の健康や免疫機能などに深く関与しています。
糖鎖は、赤血球ひとつひとつにも存在しており、それは人によって僅かに構造が異なっています。
赤血球をまとっている糖鎖の構造の違いによって、血液型が4種類に分類されているのです。
糖鎖の差異はほんの僅かであり、数万も連結している糖の1つ、2つが異なる程度の違いですが、血液型の異なる血液に存在する赤血球同士は、互いの糖鎖の構造の違いを認識し、お互いにくっつき合う作用を持ちます。
このような作用によって、血液型の異なる血液を輸血した場合などには、糖鎖の差異が原因で血液が凝固し、死にいたる恐れがあります。
●糖鎖の構造
生命機能に欠かせない栄養素は、8種類の単糖の複雑な組み合わせで成り立っており、糖鎖の材料となるこれらの単糖を、総称して糖鎖栄養素と呼びます。
糖鎖栄養素のうち、グルコース(ブドウ糖)とガラクトース(乳糖)の2種類は、食品からの摂取が可能ですが、それ以外の6種類の単糖(マンノース、フコース、キシロース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルノイラミン酸)は肝臓によって生成されています。
結合して糖鎖となっている糖鎖栄養素の数は2つから数万にも及び、糖鎖栄養素が10個程度まで結合しているものはオリゴ糖とも呼ばれています。
糖鎖は、生体内ではたんぱく質や脂質と結合した複合糖質として存在しています。
複合糖質には、糖とたんぱく質が結合した糖たんぱく、糖と脂質が結合した糖脂質、たんぱく質とグリコサミノグリカンという糖が結合したプロテオグリカンの3つの種類があります。
糖たんぱく質とは、たんぱく質に比較的短い糖鎖が結合したものであり、細胞外に分泌されるたんぱく質や、細胞膜上に存在しているたんぱく質は、そのほとんどが糖たんぱく質であるとされています。
糖たんぱく質は、唯一細胞とつながっている糖鎖であり、細胞の表面だけでも約500~10万存在しているとされ、糖鎖が持つアンテナのような重要な役割を担っています。
糖脂質とは、エネルギーの供給や細胞同士を認識する役割を担っている複合糖質です。
プロテオグリカンは、保水性や弾性が高いため、皮膚や軟骨などの構成物質として存在しています。
糖鎖は不安定な栄養素であるため、たんぱく質や脂質などと結びつくことで安定した構造を持ち、その作用を発揮することができます。
●糖鎖の働き
糖鎖は核酸、たんぱく質に次いで「第三の生体物質」ともいわれている物質であり、細胞の表面で触覚やアンテナの役割を果たしています。
生体物質とは、生物の体内に存在する化学物質の総称で、生体を構成する基本材料となるものです。
これは糖鎖が、生物の生命活動になくてはならない存在であることを表しています。
糖鎖は、細胞にアンテナとして存在しており、隣接する細胞における情報の受け渡しや、不調な細胞の連絡などを行っています。
また、糖鎖は近づいてきた異物を感知することができるため、白血球などの免疫細胞に侵入してきた細菌などの情報を与え、免疫機能を向上させる役割も担っています。
さらに、糖鎖はホルモンの受容体としての役割も担っているため、ホルモンの作用を促進する効果が期待されています。
●糖鎖の必要性
糖鎖の材料である糖鎖栄養素が不足すると、不完全な糖鎖が生成され、生体内の細胞同士が情報のやり取りを行うことができなくなり、体にあらゆる不調が生じます。
また、糖鎖自体の減少や劣化の主な原因は、体内における活性酸素[※2]の増加です。
ストレス、喫煙、紫外線などによって体内で活性酸素が過剰に発生すると、細胞についている糖鎖は臨時で活性酸素を抑制する抗酸化物質として作用します。
細胞についている糖鎖の多くが抗酸化物質として作用した場合、糖鎖に減少や劣化が生じ、細胞自体の劣化や免疫機能の低下などが起こるとされています。
●糖鎖の摂取方法
糖鎖栄養素は、母乳には多く含まれていますが、日頃の食事からは摂取することが大変難しい成分です。
ブドウ糖のような単糖においては、炭水化物に含まれているでんぷんなどから摂取することができますが、糖鎖は8種類もの糖鎖栄養素の複雑な組み合わせによって形成されているため、食事から特定の糖鎖栄養素を摂取しても、糖鎖の構造を形成することはできません。
よって、糖鎖はサプリメントなどで補うことが必要です。
<豆知識①>糖鎖栄養素を含む母乳の力
糖鎖を構成している糖鎖栄養素は、日頃の食事からは非常に摂取しづらい成分ですが、母乳には生命活動に欠かせない糖鎖のうち6種類もの糖鎖栄養素が含まれているといわれています。
まだ免疫力の低い乳児は、母乳から糖鎖栄養素を摂取することによって、免疫力を向上させ、細菌やウイルスなどから身を守っていると考えられています。
糖鎖の持つ健康効果によって、乳児は健全な発育を行うことができると考えられているのです。
[※1:果糖とは、フルクトースともいい、糖の中でもっとも水に溶けやすい。はちみつ、果実などに多く含まれる単糖です。]
[※2:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応性が増すことで強い酸化力を持った酸素のことです。体内で過度に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるとされます。]
糖鎖の効果
●細胞の健康を維持する効果
糖鎖栄養素を摂取することで糖鎖を正常に保つと、細胞の健康維持にもつながると考えられています。
糖鎖は、細胞間で情報のやり取りを行っている物質ですが、たんぱく質の品質保持の役割も担っています。
糖鎖には不調な細胞や、傷ついた細胞を感知する働きがあり、糖鎖が古い細胞や傷ついた細胞を発見することによって、細胞を生まれ変わらせることができるのです。
また、糖鎖には細胞の表面を覆い、分解や熱から細胞やたんぱく質を守る作用も持つため、これらの働きの相互作用によって細胞の健康を維持する効果が期待されています。
●免疫力を向上させる効果
糖鎖栄養素を摂取することで、免疫力を向上させることができます。
免疫力は、生体内に存在している免疫細胞[※3]の機能によって維持されています。
糖鎖は、免疫細胞の情報伝達にも深く関与しているため、侵入してきた細菌やウイルスなどの情報を正確に免疫細胞へ伝達し、免疫機能を発揮させることができるのです。
糖鎖が不足していると、細菌などの情報のやり取りが行われなくなるため、病気などに対する免疫機能は低下すると考えられています。
糖鎖を摂取することによって、免疫細胞の感知能力を正常に維持すると、免疫力を向上させる効果が得られるのです。【1】【2】【3】
<豆知識②>「種の保存」にも糖鎖が深く関わっている。
糖鎖は、受精の際にも大きな役割を担っており、卵子と精子は鍵と鍵穴のようになっているお互いの糖鎖によって同種(人間同士)であることを確認し、受精することができます。
[※3:免疫細胞とは、白血球に含まれている、生体を防御する機能を持った細胞を指します。]
糖鎖は食事やサプリメントで摂取できます
糖鎖を含む食品
○果物など(ブドウ糖)
○乳牛など(乳糖)
こんな方におすすめ
○細胞の健康を維持したい方
○免疫力を向上させたい方
○糖尿病を予防したい方
○不妊症を予防したい方
糖鎖の研究情報
【1】ピロリ菌感染マウスに、糖鎖(ガラクトオリゴ糖:GOS)を5000mg を摂取させたところ、免疫細胞ナチュラルキラー(NK)細胞が増加し、糞便中のビフィズス菌の増加が見られたことから、糖鎖は免疫力向上作用を持つほか、腸内環境を整える働きがあると考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22496400
【2】糖鎖(ガラクトグルコマンナンオリゴ糖アラビノキシラン:GGMO-AX) のは、免疫関連物質IFN-γおよびIL-βを活性化することにより、病原菌チフス菌に対する抗菌作用を示したことから、糖鎖は免疫力向上作用ならびに抗菌作用をもつと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22912459
【3】慢性疲労患者の末梢単球は、糖タンパクが低下することが知られています。慢性疲労患者に糖鎖栄養素を摂取させたところ、糖タンパク質や免疫細胞NK細胞が活性化したことから、糖鎖が免疫力向上効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9829439
【4】62名の大学生に糖鎖栄養素を摂取させたところ、識別力や作業記憶力に改善が見られたことから、糖鎖に認知症予防効果ならびに記憶力改善効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19425467
参考文献
・安藤幸来 病気を防ぎ病気を治す 糖鎖のチカラ 四海書房
・Gopalakrishnan A, Clinthorne JF, Rondini EA, McCaskey SJ, Gurzell EA, Langohr IM, Gardner EM, Fenton JI. (2012) “Supplementation with galactooligosaccharides increases the percentage of NK cells and reduces colitis severity in Smad3-deficient mice.” J Nutr. 2012 Jul;142(7):1336-42. Epub 2012 Apr 11.
・Faber TA, Dilger RN, Iakiviak M, Hopkins AC, Price NP, Fahey GC Jr. (2012) “Ingestion of a novel galactoglucomannan oligosaccharide-arabinoxylan (GGMO-AX) complex affected growth performance and fermentative and immunological characteristics of broiler chicks challenged with Salmonella typhimurium1.” Poult Sci. 2012 Sep;91(9):2241-54.
・See DM, Cimoch P, Chou S, Chang J, Tilles J. “The in vitro immunomodulatory effects of glyconutrients on peripheral blood mononuclear cells of patients with chronic fatigue syndrome.” Integr Physiol Behav Sci. 1998 Jul-Sep;33(3):280-7.
・Stancil AN, Hicks LH. “Glyconutrients and perception, cognition, and memory.” Percept Mot Skills. 2009 Feb;108(1):259-70.