バター

butter

漢字名は牛酪(ぎゅうらく)といい、牛乳、ミルクから分離したクリームを練って固めた食品です。

バターとは

●基本情報
絞った牛のミルクを撹拌したときに生じる膜に包まれた細かな乳脂肪の粒子を集めて固めた加工品がバターです。日本では「乳脂肪分が80%以上、水分が17%以下の基準を満たしているもの」と、『乳及び乳製品の成分規格等に関する省令』で決められています【1】。
100gのバターを作るためには原料乳が4.8リットル必要とされています。

バターとマーガリンは見た目がよく似ていますが、原料、製造方法、成分や風味は異なっています。前述したようにバターは乳脂肪分が80%以上と決まっていますが、マーガリンは油脂含有率80%以上という違いがあります。マーガリンはコーン油やなたね油などの植物性の油脂から出来ていますが、バターはミルクの脂肪分だけでできています。
ミルクのクリーム成分から作られるバターは、料理からお菓子まで幅広く使用されています。

●バターの歴史
バターがいつから作り始められたかのルーツは定かではありません。
しかし、歴史的にはかなり古くからバターが作られていたといわれています。
紀元前4千年のイスラエルの遺跡から、バターを作るための道具であろうとされる土器が出土されており、聖書の最初の書である創世記にも「バターとミルクと調理した肉を持ってきて…」と記されています。

また大英博物館に収蔵されているメソポタミア文明のシュメール人の神殿跡から発掘された装飾版にも、バターづくりをしている様子が描かれています【2】。
紀元前5世紀ごろにはローマ共和国にバターが伝わりましたが、食用としてではなく肌に塗ったり、薬用として使われていたようです。

日本におけるバターの歴史も始まりもはっきりしたことはわかっていないようですが、6世紀ごろに仏教と共に乳を利用する文化が渡来しました。
日本最古の乳製品である「酥(そ)」は現代のチーズやバターの始まりといわれています。
江戸時代には8代将軍徳川吉宗が、明治時代にはお雇い外国人のエドウィン・ダンがバターを試作していて、その当時はオランダ語に由来する「ぼうとろ」か「白牛酪(はくぎゅうらく)」と呼ばれていました【3】。バターが日本で製造されだしたのは明治時代で、太平洋戦争が終わった1945年以降バターの消費が増えていきました。

●バターの種類
〇発酵バター
原料となる乳脂肪分であるクリームを乳酸菌で半日以上発酵させて作ります。
淡い酸味とコク、そして香りがありヨーロッパでは主流なバターです。

〇非発酵バター
乳酸菌による発酵をさせないバターで、クセがないため、日本国内で売られているバターのほとんどはこのタイプです。

○加塩(有塩)バター
バターを練り上げる工程で塩を添加したもので、食塩を加えることで風味も増し、保存性も高まります。

○無塩バター
主に製菓、調理に使用される塩が含まれていないバターです。

○ホイップバター
パンやクラッカーなどに塗りやすくするために、気泡を含ませて柔らかくしたものです。

○グラスフェッドバター
放牧された牛のミルクから作られたバターです。牧草を食べている牛のミルクから作られているので香り豊かでコクがあり、最近注目されています。

●世界のバター
日本でよく知られていて入手できるのは前述のものですが、世界には日本ではなじみのない珍しいバターやバターオイルがあります。

まず、インドの「ギー」というバターオイルです。
インドでは牛や水牛がたくさん飼育されバターが作られていますが、無塩発酵バターを煮詰めて、水分やたんぱく質、糖分を取り除いたものを「ギー」といいます。
美容にも健康にも良いとされており、本場インドの伝承医学「アーユルヴェーダ」では治療の一環として目の浄化に使用されるほどです。

また、世界にはヤギのバターがあります。
しかしヤギのミルクはバターの元となる脂肪球のサイズが小さく、1Lのミルクから20gしかバターが出来ず、少量しか生産できないため流通はほとんどしていません。

また、ヒツジのミルクでできたバターもありますが、日本ではほとんど見ることができません。
海外においても一般的に使用されているわけではありませんが、入手はできるようです。
ただし、独特の風味があるため通の人が好む味になっています【4】。

●バターの保存方法
常温保存が使いやすいのですが、バターは18℃を超えると柔らかくなりすぎてしまい、28℃くらいで溶け出すという性質があります。一度溶けてしまうと油脂分が酸化してしまい、成分と脂が分離してしまうので元には戻りません。
またカビも生えやすくなります。バターの最適な保存温度は5℃前後といわれており、ちょうど冷蔵庫の温度がそれにあたりますが、バターは匂いが吸着しやすい性質があるので、長期保存をすると風味が損なわれる場合があります。
すぐに使う分のみ常温保存2週間ほどで使い切る分は冷蔵保存長期保存の場合は小分けにして冷凍保存をすると、バターの風味を保つことができます。

●バターに含まれる栄養成分
カルシウム
骨や歯のもととなり、丈夫な体づくりには欠かせない成分です。
骨粗しょう症の予防や、ストレス・イライラを抑える効果もあります。

ビタミンD
ビタミンDは、脂溶性のビタミンで、カルシウムの吸収を高め骨への沈着を助ける効果があります。

ビタミンA
目の健康維持や皮膚・粘膜を守り、免疫力の向上・抗酸化作用などが期待できます。

ビタミンE
強い抗酸化作用を持つビタミンのひとつで、様々な害を与える活性酸素から体を守る効果があります。

ビタミンK
血液の凝固に関わり、出血を止める働きがあることから「止血のビタミン」とも呼ばれています。
また、ビタミンKには、カルシウムが骨に沈着する際に必要なたんぱく質を活性化させる働きがあり、骨の健康にも深く関わるビタミンとしても注目されています。

カリウム
ナトリウムの排出を促す成分で様々な食品に多く含まれているミネラルです。バターに限らず乳製品はカリウムが高めなので、腎臓病等でカリウム制限のある人は気を付ける必要があります。

<バターの豆知識①>
バターの種類を聞くと「ピーナッツバター」と答える人がいます。
確かにピーナッツバターは濃厚で、バターのような風味がありますが、実は全くバターを使っていません。ピーナッツバターはピーナッツを炒ってペースト状にしたもので、乳脂肪分は全く含まれていません。
他にも「レーズンバター」があります。
卵白と砂糖を加え泡立てたバターに、ラム酒やブランデーに付けたレーズンを混ぜて作っています。ドイツ近辺を発祥としているようですが、こちらはバターが含まれています。

<バターの豆知識②>
原料のミルクは白いのにバターは黄色です。
その理由は、乳脂肪にたくさん含まれている「βカロテン」の黄色い色素に関連しています。βカロテンは小腸でビタミンAに変換されるので「プロビタミンA(ビタミンA前駆体)」と呼ばれ、ビタミンAの仲間に分類されているカロテノイドです。ミルクではカゼインミセル※や脂肪球というたくさんの粒子により白く見えているので、βカロテンの黄色は目立ちませんが、バターを作る工程で、カゼインミセルが取り除かれるため、乳脂肪本来の色である黄色みが現れます。βカロテンは乳牛が食べる牧草に含まれているもので、青々とした夏草を食べた牛のミルクから作ったバターは黄色が濃く、冬の干し草を食べている牛のミルクから作ったバターだと黄色が薄くなります。

※カゼインミセル…たんぱく質の固まり

バターの効果

◎便秘予防
腸内環境を整え、お通じを良くしてくれます。

◎美容効果
ビタミンAが皮膚や粘膜を強くしてくれ、抗酸化作用が強いビタミンEによってアンチエイジング効果も期待できます。

◎免疫力向上
バターに含まれているビタミンDが骨や歯を丈夫にするサポートをし、免疫力を高める効果が期待できます。

バターはこんな方におすすめ

○おなかの調子を整えお通じを改善したい方
○老化を予防したい方
○免疫力を高めたい方

バターの研究情報

マウスを使用した実験によりα-リノレン酸強化バターを摂取することは、肥満誘発性の炎症とインスリン抵抗性に対して肝臓のTG蓄積と脂肪組織の炎症を軽減し、インスリン感受性を改善しました【5】。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31760228/

参考文献

【1】乳及び乳製品の成分規格等に関する省令
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000515092.pdf

【2】El Confidencial
https://www.alimente.elconfidencial.com/gastronomia-y-cocina/2020-10-21/mantequilla-vaca-cabra-oveja-bra_2787332/

【3】シュメル―人類最古の文明

【4】歴史の謎を探る会・編『江戸の食卓』61項

【5】Fan R, Kim J, You M, Giraud D, Toney AM, Shin SH, Kim SY, Borkowski K, Newman JW, Chung S. α-Linolenic acid-enriched butter attenuated high fat diet-induced insulin resistance and inflammation by promoting bioconversion of n-3 PUFA and subsequent oxylipin formation. J Nutr Biochem. 2020 Feb;76:108285. doi: 10.1016/j.jnutbio.2019.108285. Epub 2019 Nov 12. PMID: 31760228; PMCID: PMC6995772.

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