そらまめとは
●基本情報
そらまめはマメ科に属する植物で、さやが天に向かって育つため「空豆」と名付けられたといわれています。また、その形が蚕の繭に似ているため、「蚕豆」とも書かれます。秋に種をまき初夏に収穫されるため、旬は4月~6月頃です。未熟な豆を野菜として食べるのが一般的ですが、出始めの皮が軟らかいものは皮まま食べることができます。特有の香りとほのかな甘みが特徴です。生のそらまめは鮮度の低下が早く「おいしいのは3日だけ」といわれるほどです。乾燥に弱いため、使う直前までさやの中にいれて保存することが望ましいです。調理する時は、お歯黒と呼ばれる黒い筋を取っておくと火の通りが早くなりますが、加熱しすぎないよう注意が必要です。
生のままでも水分が少ないそらまめは、その分栄養が凝縮しています。全体の10%以上をたんぱく質が占めているほか、カロテノイド、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンC、食物繊維などを含んでいるため、そらまめは比較的栄養バランスが整った食品といえます。特にビタミンB群に関していうと、ビタミンB1は100g中0.3mg、ビタミンB2は0.2mgとほかの未熟豆に比べて豊富で、さらに葉酸、パントテン酸も多く含まれます。ビタミンB群には、疲労回復や血管の若さを維持する効果があり、また、血中のコレステロールの酸化を防ぐレシチンという成分も含んでいるため、動脈硬化の予防に効果的です。カリウムや鉄などのミネラルも豊富ですので、むくみや貧血が気になる方、高血圧の方にもおすすめの食材といえます。特にむくみがひどいときは、3年以上乾燥させたそらまめを煎じて飲むといいといわれています。
塩茹でや炒り豆の他に、皮つきのまま甘く煮た「おたふく豆」や皮を取り除いて煮た「富喜(ふき)豆」、油で揚げるなどして食べられます。また、中国料理で使われる豆板醤(トウバンジャン)も、そらまめとみそ、とうがらしを合わせてつくられたものです。
●そらまめの歴史
そらまめの原産地は中央アジアから地中海沿岸と広範囲で、日本には8世紀ごろの天平時代に僧行基によって伝えられたといわれています。現在は70%が中国で生産されており、種実用のそらまめは中国からの輸入がほとんどを占めています。
●そらまめの生産地
そらまめは寒さに強く、全国的に栽培されていますが、主な産地は鹿児島県、千葉県、茨城県、宮城県などです。日本で栽培されるそらまめのほとんどが野菜用の品種ですが、種実用では一寸そらまめ、房州早生、おたふくなどの種類があります。さやの緑が鮮やかで、つやがあり、豆の形があまり浮き出ていないものが新鮮です。
●そらまめの働き
そらまめに含まれるビタミンB1は、糖質を分解して、乳酸などの疲労物質が体に蓄積されないようにする効果があります。また、過酸化脂質[※1]の生成を防いで血管の若さを保つビタミンB2の働きと、血中のコレステロールの酸化を防ぐレシチンの働きの相乗効果により、動脈硬化の予防も期待できます。ミネラルの一種カリウムは、体内で余分な塩分と結びつき体外に排泄するため、血圧低下やむくみの改善に効果的です。豊富なたんぱく質は体をつくるもとともなり、また、お酒のつまみとして食べると肝機能を守り悪酔いを防ぐ効果があります。
[※1:過酸化脂質とは、コレステロールや中性脂肪などの脂質が活性酸素によって酸化されたものの総称です。]
そらまめの効果
●疲労回復効果
そらまめに含まれるビタミンB1は、炭水化物(糖質)を分解して、エネルギーとして利用できる形に変えるサポートをします。そのため、乳酸などの疲労物質が体に溜まるのを防ぎ、結果として疲労回復効果が期待できます。また、そらまめは鉄も豊富に含んでいるため、ヘモグロビンの働きを高め、酸素や栄養を体全体に送り
届けることで、疲労回復だけでなく持久力の向上にも効果が期待できます。【5】
●動脈硬化・高血圧を予防する効果
そらまめには、過酸化脂質の生成を防いで血管を若く保つビタミンB2とともに、血中のコレステロールの酸化を防ぐレシチンが含まれています。コレステロールは血管に付着することで、血流の流れを悪化させ、高血圧や動脈硬化の原因にもなってしまいます。レシチンには余分なコレステロールが血管壁に付着することを防ぐ働きのほか、善玉コレステロールを増やす働きもあるため、血液中のコレステロール値を正常に保ちます。そのため、そらまめは動脈硬化や高血圧の予防に効果的といえます。【1】【4】
●むくみを予防・改善する効果
そらまめに含まれるミネラルの一種カリウムの働きによって、体内の余分な塩分は水分とともに体外へ排泄されます。その結果、むくみの解消に効果が期待できます。また、豊富な食物繊維との相乗効果で、腎炎によるむくみも解消してくれます。【1】
●肝機能を高める効果
野菜の中でも豊富にたんぱく質を含んでいるそらまめは、お酒のつまみとして食べることで肝機能を守り、悪酔いを防ぎます。また、レシチンには肝臓における基礎代謝を促す働きがあるため、肝臓の健康にもそらまめは有効であるといえます。【1】【4】
●便秘を解消する効果
そらまめの豆には食物繊維が豊富に含まれています。食物繊維は腸内で不要なものを絡め取り、体外へと排出します。そのため、便秘解消に効果的です。さらに、市場に出始めのころのそらまめは、皮ごと食べられるため、多くの食物繊維を摂れ、より強力に腸の調子を整えることが期待できます。【3】
そらまめは食事やサプリメントで摂取できます
こんな方におすすめ
○疲労を回復したい方
○血圧が気になる方
○手足のむくみでお悩みの方
○お酒をよく飲む方
○便秘でお悩みの方
そらまめの研究情報
【1】そらまめ40g(L-DOPA:120-130㎎含有)を健常人に摂取させた結果、血漿L-DOPAレベルと尿中ナトリウム、ドーパミン(DA)排泄量が増加しました。DA/クレアチニン(Cre)はそらまめ摂取60分後に280μg/gの量に増加し、ナトリウム/クレアチニンはそらまめ摂取90分後に2.85mmol/g の量に増加しました。そらまめは、高血圧、心不全、腎不全、肝硬変などの疾患を予防する働きがあると考えられます。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9225606
【2】6名のパーキンソン病患者に250gのそらまめを摂取させたところ、3名の患者の運動障害を回復し、血中のL-DOPAが増加したことから、そらまめにパーキンソン病予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8420210
【3】成人男女20,630名において、性別や摂取栄養素、ライフスタイルと排便回数との関係を調査した結果、食物繊維が多い人ほど、排便回数が多いことが確認されました。そらまめは食物繊維を豊富に含むことから、腸環境を整えるはたらきをもつと期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14972075
【4】レシチンを摂取させたラットでは、肝臓におけるHDLコレステロールの増加が確認されました。また肝臓のクッパー細胞や多核細胞の増加が認められたことから、レシチンには脂質代謝効果と肝臓保護効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10905815
【5】男性24名に対し、日常的にビタミンB1のサプリメントを摂取している人と非摂取の人に分け、トライアスロン完走後、アンケート調査を行った結果、ビタミンB1非摂取の人は摂取群に比べ極度の疲労困憊状態を示す人が多くいました。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110001947883
参考文献
・本多京子 食の医学館 株式会社小学館
・野間佐和子 旬の食材 春‐夏の野菜 講談社
・菅原龍幸 井上四郎 原色食品図鑑 株式会社建帛社
・五訂増補 日本食品成分表
・Vered Y, Grosskopf I, Palevitch D, Harsat A, Charach G, Weintraub MS, Graff E. (1997) “The influence of Vicia faba (broad bean) seedlings on urinary sodium excretion.” Planta Med. 1997 Jun;63(3):237-40.
・Rabey JM, Vered Y, Shabtai H, Graff E, Harsat A, Korczyn AD. (1993) “Broad bean (Vicia faba) consumption and Parkinson’s disease.” Adv Neurol. 1993;60:681-4.
・Sanjoaquin MA, Appleby PN, Spencer EA, Key TJ. (2004) “Nutrition and lifestyle in relation to bowel movement frequency: a cross-sectional study of 20630 men and women in EPIC-Oxford.” Public Health Nutr. 2004 Feb;7(1):77-83.
・Lechowski R, Bielecki W, Sawosz E, Krawiec M, Kluciński W. (1999) “The effect of lecithin supplementation on the biochemical profile and morphological changes in the liver of rats fed different animal fats.” Vet Res Commun. 1999 Jan;23(1):1-14.
・小田切 優子、下光 輝一、木村 佳子、丸山 千寿子、加藤 理津子、大谷 由美子、高波 嘉一、勝村 俊仁 (1997) “ビタミンB1摂取とトライアスロン競技後の疲労困憊について” 体力科學 46(6), 803, 1997-12-01