牡丹(ぼたん)とは
●基本情報
牡丹はキンポウゲ科の植物で中国西北部を原産とし、奈良時代に日本に伝わったとされる落葉樹です。中国では牡丹は「花の王」とも呼ばれ、華やかさを象徴する花となっています。牡丹の根の皮をはいで乾燥させたものは牡丹皮と呼ばれ、桂枝茯苓丸、大黄牡丹皮湯などを構成する生薬[※1]として利用してされています。牡丹の名前の由来は、中国の古書である「本草綱目」[※2]に「牡丹は色の丹なるをもって上とする。種を結ぶが、新苗は根から生ずる。ゆえに、牡丹というのである」という記述によると考えられます。
●牡丹の歴史
牡丹は、中国の漢の時代に集成されたとされる「神農本草経」に収載されています。また他にも漢の時代の書物にも多く記載されており、その後の隋の時代に至るまで「名医別録」[※3]「呉普本草」「本草経集注」などの書物に記載され処方されています。これらの書物は中国の薬物療法の主とされ、牡丹もその重要な漢方薬として現在も使用されています。これほどまでに生薬としての牡丹が広まったのは、中国の唐の時代以降に牡丹の花が観賞用とされるようになってから急速に広まったと考えられます。
●牡丹に含まれる成分と性質
牡丹には有効成分であるペオノールが含まれています。他にもペオノールの配糖体やモノテルペン配糖体のペオニフローリンなどが含まれています。ペオノールには、鎮静,抗炎症,抗痙攣などの働きがあります。血液の停滞による不調を改善させ、月経不順や更年期障害などの女性特有の悩みにも働きかけます。また、体の熱をとる働きがあり、全身の炎症や炎症による痛みに効果を発揮するとされます。
<豆知識>牡丹を使った言葉
日本では昔から「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」という美人を形容する言葉があります。牡丹は古来より美しい花で、その美しさは美人の姿や振る舞いに例えられるほどでした。この言葉は諸説ありますが、芍薬は茎の先端に華やかな花を咲かせ、牡丹は枝分かれした横向きの枝に花をつける。百合は風を受けて揺れるさまが美しい。これらのことから、芍薬は立って見るのが一番美しく、牡丹は座って見るのが一番美しく、百合は歩きながら見るのが一番美しいということからこの言葉ができたと考えられます。
[※1:生薬とは、天然に存在する薬効を持つ産物から、有効成分を精製することなく体質の改善を目的として用いる薬の総称です。]
[※2:本草綱目とは、中国で分量や内容が最も充実した薬学著作のことです。]
[※3:名医別録とは、生薬について書かれた漢方の古典書物のことです。陶弘景によってつくられました。]
牡丹(ぼたん)の効果
●炎症や痛みを抑制する効果
牡丹に含まれるペオノールには炎症や痛みを抑制する効果があります。体内に細菌が侵入したり毒素が産生されると、局所に炎症反応が起こり、全身へ毒素が拡散することを防ぎます。
炎症は本来、生体の合目的的な防御反応ですが、過剰な炎症反応は生体の自己組織の損傷を引き起こす危険性があります。また過剰な炎症反応は、痛みも引き起こします。【1】
●解熱効果
発熱は、体が身を守るための生体防御機能のひとつです。
ウイルスなどの有害物質が体内に侵入してきた際に、視床下部[※4]の体温調節中枢は身体各部に体温を上げるように指令を出します。この命令にもとづいて、皮膚の血管が収縮し汗腺を閉じるなど、熱放散を抑える活動が開始されます。また、筋肉をふるえさせて熱産生を促します。これらの活動により、体温は上昇します。牡丹には体の熱を下げる効果があり、熱を下げることで、患部の炎症を抑える効果もあります。
●血流を改善する効果
牡丹は漢方薬では、駆於血剤として使われることがあります。於血とは血の流れの滞りやそれによって起こる症状のことを指します。牡丹は於血を予防し改善する効果があります。血のめぐりをよくすることで、血栓の形成を予防する効果も期待できます。【2】
●更年期障害の症状を改善する効果
更年期障害[※5]は女性ホルモンが減少する閉経期前後の女性に見られる自律神経失調症[※6]の一種です。ホルモンバランスが乱れることで顔のほてりや頭痛、動悸、冷え、発汗などの身体的な症状やイライラや感情の起伏が激しくなるといった精神的な症状など様々な不定愁訴[※7]が現れます。牡丹には血流を改善したり、炎症を抑制する働きがあります。そのため、更年期障害の症状を改善する効果があります。漢方治療の際に、牡丹がベースの漢方である桂枝茯苓丸がよく用いられます。
[※4:視床下部とは、大脳と中脳の間に位置し、自律神経の中枢となる部分です。脳の他の部分と連携しながら、消化や吸収、体温調節、免疫の働きなど、生命機能に大きく関わっています。]
[※5:更年期障害とは、40歳代から60歳代の女性に起こりやすい症状です。女性ホルモンのバランスが乱れることによって、動悸、ほてり、イライラなどの症状が現れます。]
[※6:自律神経失調症とは、交感神経と副交感神経の2つから成り立つ自律神経のバランスが崩れた場合に起こる頭痛や冷え症、疲労感などの症状の総称です。]
[※7:不定愁訴とは、体調が優れないにも関わらず、主な原因となる病気が見つからない状態のことです。]
牡丹(ぼたん)はこんな方におすすめ
○炎症や痛みを抑えたい方
○熱を下げたい方
○女性特有の病気(更年期、生理不順など)が気になる方
牡丹(ぼたん)の研究情報
【1】牡丹の皮は、自己免疫反応およびアレルギーによる炎症を抑制することが分かりました。牡丹は抗アレルギー作用および抗炎症作用を持つと考えられています。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110008907881
【2】薬物誘発-播種性血管内凝固ラットに牡丹皮エタノール抽出物は、出血性のネクローシスを抑制され、トロンビンの凝集が抑制されたことから、牡丹は血流改善効果を持つと考えられています。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110008908048
【3】テストステロン5αの強い活性は、脱毛症を引き起こします。牡丹皮は、このホルモンを強く抑制することが分かりました。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110008729801
【4】牡丹を含む大黄牡丹皮湯および黄蓮解毒湯は、MRSA耐性遺伝子のmecAの発現を抑制され、抗菌剤との併用により、MRSA増殖抑制作用を示したことから、牡丹は抗菌作用を持つと考えられています。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110001866049
参考文献
・北川勲 吉川雅之 津永佳世子 谿忠人 牡丹皮の研究(第2報) 生薬学雑誌
・有地滋 久保道徳 松田秀秋 谿忠人 北川勲 吉川雅之 津永佳世子 牡丹皮の研究(第3報) 生薬学雑誌
・久保道徳 谿忠人 小曽戸洋 木村善行 有地滋 牡丹皮の研究(第1報) 生薬学雑誌
・久保道徳 松田秀秋 松田玲子 牡丹皮の研究(第8報) 生薬学雑誌
・水原 浩 代田 琢彦 萩庭 一元 更年期障害に対する大黄牡丹皮湯の使用経験 日本東洋醫學雜誌
・有地 滋、久保 道徳、松田 秀秋、谿 忠人、津永 佳世子、吉川 雅之、北川 勲 (1979) “牡丹皮の研究(第3報) : 牡丹皮の抗炎症作用(その1)” 生薬学雑誌 33(3), 178-184, 1979-09-20
・久保 道徳、松田 秀秋、松田 玲子 (1984) “牡丹皮の研究(第8報) : 抗血栓形成作用について(その2)” 生薬学雑誌 38(4), 307-312, 1984-12-20
・平田 規子、岡本 美保、伊藤 仁久、稲葉 一訓、得永 雅士、松田 秀秋 (2008) “In Vitro Testosterone 5α-Reductase活性阻害作用を有する生薬の探索” 生薬學雜誌 62(2), 66-71, 2008-08-20
・張 遠春、早川 智、唐崎 美喜、加澤 玉恵、加藤 高明、岩井 重富、田中 隆、佐藤 和雄 (1993) “黄蓮解毒湯、大黄牡丹皮湯による MRSA の増殖抑制 : 薬剤感受性の増大と mecA 遺伝子発現抑制” 和漢医薬学会大会要旨集 10, 135, 1993-08-01