黒酢とは
●黒酢の定義
以前は黒酢の明確な定義がなかったために、色さえ黒ければ黒酢として品質を問わずに販売されていた時代もありましたが、2003年に農林水産省によって黒酢のJAS規格[※1]が設けられ、「原料として米または米に小麦もしくは大麦を加えたもののみを使用し、酢1ℓにつき180g以上の原料を使用し、かつ、発酵・熟成によって自然に褐色または黒褐色になったもの」を黒酢の定義としています。
●黒酢の生産地
鹿児島県霧島市福山町が日本最大の黒酢の生産地です。約200年前の江戸時代後期(1800年代)から生産されています。江戸時代、福山町は中国や琉球の産物が行きかう中継地で、中国の商人が香酢を伝えたことが始まりとされています。福山町は黒酢の原料となる良質な米や天然の湧き水、一年を通しての温暖な気候に恵まれるなど黒酢づくりに最適な条件が揃った土地です。
また、米の生産地として有名な新潟県でも原料となる米の品質にこだわった玄米黒酢が生産されています。
●黒酢の特徴
黒酢には必須アミノ酸[※2]を含む豊富なアミノ酸をはじめ、クエン酸などの有機酸やビタミン、ミネラルなどの健康成分が豊富に含まれています。アミノ酸は一般のお酢の約10倍も含まれます。黒酢に含まれる主なアミノ酸の成分としては、BCAAやアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グリシン、セリン、スレオニン、リジンなどが挙げられます。
<豆知識>黒酢を摂取する際の注意
黒酢の空腹時の摂取や一度に大量に摂取することは、酢酸による刺激が強いため、胃の粘膜を傷つける恐れがあるので注意が必要です。黒酢は健康食品の飲料やサプリメントなどで効率良く摂取できます。そのまま飲む場合も黒酢にハチミツなどを加えたり、牛乳やジュースで割ってもおいしく摂取できます。
[※1:JAS規格とは、農林物質の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)により、食料品などが一定の品質や特別な生産方法でつくられていることを保証する規格制度です。正式名称は、日本農林規格(Japanese Agricultural Standard)です。]
[※2:必須アミノ酸とは、動物の成長や生命維持に必要であるにも関わらず体内で合成されないため、食物から摂取しなければならないアミノ酸のことです。バリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、メチオニン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン、トリプトファンの9種類が存在します。]
黒酢の効果
黒酢には健康と美容に幅広く働きかけるアミノ酸が豊富に含まれています。また、体内で様々な働きをするクエン酸や酢酸などの有機酸も含まれているため、以下のような健康効果が期待できます。
●疲労回復効果
人が疲れを感じるのは、乳酸という疲労物質が体内に蓄積しているためです。乳酸は通常なら代謝[※3]によって自然と消費されますが、代謝機能が衰え乳酸が体内に増えると体の様々な筋肉と結合して溜まってしまい、疲労を感じるようになります。黒酢に含まれるクエン酸や酢酸は乳酸を分解するため、運動後や頭を使った後の疲労回復に効果的です。
また、クエン酸はクエン酸回路[※4]の働きをサポートし、グリコーゲン[※5]の分解を抑え失われたグリコーゲンの回復を促します。
さらに、黒酢にはBCAAという筋肉を構成する重要なアミノ酸が多く含まれています。BCAAとは、筋肉のたんぱく質を構成するバリン、ロイシン、イソロイシンという3つの重要なアミノ酸の総称で、運動をする時のエネルギー源として働きます。黒酢を摂取することで運動時の持久力を高めたり、疲労を軽減する効果が期待されています。
●血流を改善する効果
血中コレステロール値や中性脂肪値、血糖値が高い人の血液はドロドロであるといわれています。血液がドロドロになるのは、栄養バランスの悪い食生活や睡眠不足、喫煙、ストレスなど生活習慣の乱れが大きな原因です。血液がドロドロになると、血液の流れが悪く、血流が滞った状態になり、悪化すると高脂血症[※6]になります。高脂血症をそのままにすると、血栓が発生し、動脈硬化を引き起こしてしまう危険性が高まります。動脈硬化は、心筋梗塞や脳梗塞といった生活習慣病の発症リスクを高める、という指摘もあり注意が必要な症状です。
黒酢に豊富に含まれるアミノ酸やクエン酸などの有機酸は、血液の循環を改善し、サラサラの血液にしてくれます。生活習慣病予防や血圧低下に効果的です。【2】
●美肌効果
黒酢に豊富に含まれているアミノ酸は、美しい肌をつくるための様々な働きをします。
まず、チロシンやトリプトファンは成長ホルモンの分泌を促します。成長ホルモンはアンチエイジングに欠かすことのできない物質とされ、不足すると肌にしわができやすくなります。
アスパラギンとアスパラギン酸はエネルギー生産効率をスムーズにします。エネルギー生産効率を活発にし、細胞の生まれ変わりであるターンオーバーの働きもスムーズにします。そして、システインはシミの原因となるメラニン色素の沈着を防ぎます。他にも、黒酢に含まれるグリシンには保湿作用・抗酸化作用[※7]があり、セリンは潤いを保つ天然保湿因子の主成分となり、リジンは体の組織の修復を促進します。
このように黒酢は肌に良い成分をバランス良く含んでいます。
また、クエン酸によるキレート作用という働きもアンチエイジングに有効です。
キレート作用とは、体内に入った金属ミネラル[※8]が別の物質に変化してしまわないように周りを囲って、必要なものは吸収させ、不必要なものは排出させる働きのことです。金属ミネラルが排出されずに体内に蓄積すると、肌だけでなく細胞や臓器に悪影響を与えてしまうので、クエン酸の働きがとても重要になります。
クエン酸には抗酸化作用もあるので、活性酸素[※9]の発生を抑え、肌を含めて身体全体の健康を支えます。
これらの成分に加えて、黒酢にはビタミンやミネラルなども含まれており、美しい肌のために働きかけます。
●栄養の吸収を促進する効果
黒酢は他の食事と一緒に摂ることで、他の栄養素の体内への吸収量を増やしてくれる働きがあります。黒酢に含まれるクエン酸が、カルシウムが吸収されやすい状態をつくり出し、カルシウムの体内吸収量を増やします。カルシウムの吸収量が増えると、イライラの防止や骨粗しょう症の予防が期待できます。また、マグネシウムの吸収も助けるので、料理に混ぜるなどして色々な食材と黒酢を一緒に摂ることで栄養素を無駄なく、効率良く摂ることができます。
●尿酸値を下げる効果
尿酸値が高いと痛風や尿酸結石、腎障害、動脈硬化症などを引き起こす可能性が高くなります。黒酢に含まれるクエン酸には尿酸値を下げる効果があります。尿酸値を下げるには、尿をアルカリ性に近づけ、尿酸を排出させやすくする必要があります。尿酸は酸性なので、アルカリ性の尿に溶け出して排出されます。
また、黒酢に含まれるアラニンやヒスチジンといったアミノ酸による血流の改善効果によっても尿酸値を下げる効果が期待できます。
ただし、正常な尿酸値をさらに下げる心配はありません。
●肝機能を高める効果
黒酢に含まれる必須アミノ酸には、肝機能を高めてくれる効果があります。またお酒を飲んだ時に、体内に入ったアルコールの代謝を速めて分解を促進してくれるため、肝臓への負担を減らすと期待されています。アルコールを摂取する前に黒酢を飲めば、二日酔いの予防にもなります。
●免疫力を高める効果
免疫力が弱まると病気にかかりやすくなったり、病気が治りにくくなります。
黒酢に含まれるアミノ酸がエネルギー源となり、病気に抵抗する免疫細胞が増えるため免疫力が強まります。
●高血圧を予防する効果
黒酢には、血圧を上昇させるアンジオテンシン変換酵素(ACE)を阻害する物質が含まれていることが知られています。このことから、黒酢を摂取することは、高血圧の予防につながると考えられています。【4】
[※3:代謝とは、生体内で、物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです。また、それに伴ってエネルギーが出入りすることです。]
[※4:クエン酸回路とは、体内に入った食物を燃焼させエネルギーをつくり出す、一連の流れのことです。]
[※5:グリコーゲンとは、糖がたくさんつながり、多糖類となった状態で肝臓や筋肉に貯蔵されている物質のことです。グリコーゲンはエネルギーが足りなくなった際にブドウ糖に変化するため、エネルギー源として大切な役割を持っています。]
[※6:高脂血症とは、血液中に溶けているコレステロールや中性脂肪値が必要量よりも異常に多い状態をのことです。コレステロールは過剰になると体に障害をもたらします。糖尿病と同様に自覚症状に乏しく、動脈硬化によって重篤な病気を引き起こすのが特徴です。]
[※7:抗酸化作用とは、たんぱく質や脂質、DNAなどが酸素によって酸化されるのを防ぐ作用です。]
[※8:金属ミネラルとは、金属の元素のことです。分子サイズが大きく、水に溶けにくいものが多くあります。]
[※9:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応性が増すことで強い抗酸化力を持った酸素のことです。体内で過剰に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化の原因になるとされます。]
こんな方におすすめ
○疲れやすい方
○コレステロール値が気になる方
○生活習慣病を予防したい方
○血圧が高い方
○いつまでも若々しくいたい方
○尿酸値が高い方
○お酒をよく飲む方
○風邪をひきやすい方
黒酢の研究情報
【1】大腸炎マウスに対して、黒酢含有たんぱく質を摂取させると、抗酸化作用によって潰瘍性大腸炎が緩和されたことから、黒酢が潰瘍性大腸炎予防効果を持ち、腸の健康を維持するはたらきを持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21948567
【2】10名の女性を対象に黒酢を1日あたり50ml を1カ月間摂取させたところ、酸化ストレスおよび血液濾過時間が低下したことから、黒酢は抗酸化作用により血流を改善するはたらきを持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21125203
【3】マウスに、黒酢を1日あたり100mg/kg を4週間摂取させたところ、皮下脂肪組織および腎周囲の脂肪組織のサイズが縮小しました。また、黒酢を3T3-L1前脂肪細胞に添加したところ、脂肪酸結合たんぱく質とペルオキシソーム増殖活性因子のmRNAの発現が抑制されたことから、黒酢が抗肥満作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21092258
参考文献
・NPO日本サプリメント協会 (2008) “サプリメント健康バイブル” 株式会社小学館
・本多京子、根本幸夫、伊田喜光、田口進 (2002) “食の医学館―体に効く食品を全網羅” 株式会社小学館
・Shizuma T, Nagano M, Fujii A, Mori H, Fukuyama N. (2011) “Therapeutic effects of four molecular-weight fractions of Kurozu against dextran sulfate sodium-induced experimental colitis.” Turk J Gastroenterol. 2011 Aug;22(4):376-81.
・Tong LT, Katakura Y, Kawamura S, Baba S, Tanaka Y, Udono M, Kondo Y, Nakamura K, Imaizumi K, Sato M. (2010) “Effects of Kurozu concentrated liquid on adipocyte size in rats.” Lipids Health Dis. 2010 Nov 23;9:134.