黒豆とは?
●基本情報
黒豆とは、正式には黒大豆(くろだいず)やブドウ豆と呼ばれる大豆の品種のひとつです。
種皮の黒色はアントシアニンの色素によるもので、大豆とほとんど変わらない栄養成分を持っています。
●黒豆の歴史
黒豆の起源は定かではありませんが、平安時代には既に黒豆が栽培されていたと考えられています。
古来より黒豆は体に良いことが知られており、黒豆の有名な産地である丹波地方や美作地方では、民間療法として咳が出たりのどに痛みを感じる時などに黒豆の煮汁を飲むと良いといわれています。
また、漢方の世界では数千年前より「黒豆衣(こくずい)」と呼ばれる生薬として、様々な症状に利用されてきました。
戦国時代の武士や忍者は、黒豆を主原料とした兵粮丸(ひょうろうがん)と呼ばれる自家製の丸薬を常備していたといわれ、江戸時代には本草綱目啓蒙(ほんぞうこうもくけいもう)[※1]に記載されるなど、昔から黒豆の効果や薬効が知られていました。
江戸時代幕末には、お正月のおせち料理として醤油や砂糖で煮た黒豆がすでに広く食べられていたことが書物に記載されており、現在でもお正月に黒豆を食べる習慣は残っています。
<豆知識>お正月に黒豆を食べる理由
「黒い色は邪気を払い災いを防ぐ」「黒い色は健康を意味し、マメに達者で皺のよる迄長生きを」という祈りや、「黒」が日焼けを意味し、水田でよく働くイメージにつながります。「丸」が太陽を意味します。「豆(まめ)」は精を出してよく働き、体が丈夫なことにつながると考えられ「一年間の厄払いをして、今年一年元気で働けるように」との願いを込めて、おせち料理に黒豆が食べられるようになったともいわれています。
●黒豆の種類
日本では、古くから丹波黒や光黒などをはじめ、多くの種類の黒豆が栽培されていました。
現在では、代表的な品種として知られている丹波黒や光黒をはじめ、日本の各地で様々な種類の黒豆が栽培されています。
以下はよく知られている黒豆の4種類です。
・丹波黒(たんばぐろ)
極大といわれる程大きい粒の黒豆です。柔らかく、独特の甘みを持つため煮豆によく利用されます。
若いさやは枝豆として美味しく食べられます。
生育期間が長く、手間がかかるため大量生産が難しいとされている種類です。
主に兵庫県や岡山県、京都府、滋賀県などで生産されています。
・光黒(ひかりぐろ)
表面に光沢があることから、光黒という名がつけられました。糖が多く甘みが強いため、煮豆や菓子に利用されています。主に北海道で生産されています。
・雁喰(がんくい)(黒平豆)
平らで方面に小さな窪みがあります。この窪みが「雁(鳥の一種)が食べた跡」に似ていることから、雁喰と呼ばれるようになりました。強い甘みと深みのある味が特徴で、おせち料理の煮豆などに使用されます。
主に東北地方で生産されています。
・玉大黒(たまだいこく)
2つの品種が掛け合わされて誕生した黒豆です。ウイルスに対する抵抗性が強いことが特徴です。
主に長野県や北関東、北陸地方で栽培されています。
●黒豆の成長過程
黒豆は、6月中旬頃に豆を蒔き、10月中旬頃には枝豆として食べられる状態にさやが成長します。枝豆をさらに成長させると、葉やさやが徐々に乾燥し、茶色く変色します。その後、株を切り落とし乾燥させた後11月下旬頃に脱穀して豆を収穫します。
●黒豆に含まれる成分
黒豆のたんぱく質は良質で、9種類の必須アミノ酸をバランス良く含んでいます。
糖や脂質、アミノ酸やたんぱく質の代謝[※2]に補酵素[※3]として働くビタミンB群や、活性酸素[※4]から体を守るビタミンEを豊富に含んでいます。
また、黒豆にはカルシウムやカリウムなどの生理機能に重要なミネラル類や、便秘に効果的なオリゴ糖や不溶性食物繊維が豊富に含まれています。
黒豆には、女性ホルモンのバランスを整える働きがあるイソフラボンや、黒豆特有の成分である黒豆アントシアニンが豊富に含まれていることも特徴です。
黒豆アントシアニンは、強い抗酸化作用[※5]を持っているため老化の防止や血流の改善、血圧の抑制などの効果が期待されています。最近の研究では、黒豆アントシアニンにはメタボリックシンドロームを抑制する効果があることが明らかになりました。
[※1:本草綱目啓蒙とは、鉱産物・林産物・水産物などの自然の産物の考証に加え、自らの観察に基づく知識や日本各地の方言などが記されている書物のことです。]
[※2:代謝とは、生体内で、物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです、また、それに伴ってエネルギーが出入りすることを指します。]
[※3:補酵素とは、消化や代謝で働く酵素を助ける役割をするものです。]
[※4:活性酸素とは、普通の酸素に比べ著しく反応性が増すことで強い酸化力を持った酸素のことです。体内で過剰に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるとされます。]
[※5:抗酸化作用とは、たんぱく質や脂質、DNAなどが酸素によって酸化されるのを防ぐ作用です。]
黒豆の効果
黒豆には、アントシアニンやイソフラボン、大豆たんぱく質、ミネラル類、食物繊維、オリゴ糖、ビタミンB群、ビタミンEなどの有効成分が含まれるため、以下のような健康に対する効果が期待できます。
●動脈硬化を予防する効果
内臓脂肪が蓄積し内臓肥満になると、アディポサイトカイン[※6]が分泌異常を起こし、高血糖や高血圧を併発するリスクが高まります。
黒豆に含まれるアントシアニンには、アディポサイトカインの分泌を正常にすることが、ラットの研究でわかっています。
黒豆のアントシアニンによって、善玉ホルモンであるアディポネクチン[※7]の分泌が活発になると期待されています。アディポネクチンはインスリン感受性[※8]の改善や動脈硬化の抑制、抗炎症など様々な働きを持っていることから、黒豆アントシアニンの摂取は血中コレステロールの減少につながると期待されています。また、黒豆に含まれるイソフラボンにも、血中コレステロールを減少させる効果があります。血中のコレステロールを減少させることにより、動脈硬化のリスクが低下します。
さらに、黒豆のアントシアニンや黒豆に含まれるビタミンEには強い抗酸化作用があるため、血中の脂肪酸化を防ぎ、血液がドロドロになることを防ぎます。
黒豆にはサポニンや食物繊維、良質のたんぱく質が豊富に含まれています。サポニンには、血中コレステロールの量を調整し血液をサラサラにする効果があり、食物繊維や良質のたんぱく質にはコレステロールの上昇を抑える効果があるといわれています。
これらの働きにより、黒豆のアントシアニンには動脈硬化を予防する効果があると考えられています。【1】【2】【3】
●糖尿病を予防する効果
アントシアニンには内臓脂肪を減少させ、善玉ホルモンであるアディポネクチンの分泌を活発にする働きがあります。アディポネクチンは、インスリン感受性を亢進させ、インスリンの働きを正常にします。また、高血糖とインスリンの感度を改善します。このため、黒豆のアントシアニンには糖尿病を改善する効果があると考えられています。【5】【7】
●高血圧を予防する効果
黒豆にはサポニンやカリウムも含まれています。サポニンには血液をサラサラにし、カリウムには余分なナトリウムを体外に排出する働きがあるため、血圧を下げ高血圧を予防する効果があると考えられています。
●美肌効果
日常生活で避けることのできない紫外線やストレス、排気ガス、喫煙などが原因で、人間の体には活性酸素がたくさん存在します。この活性酸素が肌の老化であるしわやたるみを引き起こす原因となります。
黒豆に含まれるアントシアニンやビタミンEは、強い抗酸化力を持ち、体内の酸化を防ぐため、しわやたるみを予防し美しい肌を保つことに効果的であるといわれています。
また、黒豆のアントシアニンには、紫外線などの刺激を受けた際につくられるメラニンの産生量を抑える働きがあることが実験により確認されており、美白効果もあると考えられています。
さらに、女性ホルモンの一種であるエストロゲンと似た働きを持つイソフラボンも重要な役割を果たしています。年齢や生活習慣によってエストロゲンの分泌が減少すると、肌の弾力を保つコラーゲンや、肌に潤いを与えるヒアルロン酸をつくる力が低下し、しわやたるみなどの肌の老化現象が引き起こされます。
イソフラボンには、肌の弾力性を保ち、しわを改善する効果があります。
●更年期障害の症状を改善する効果
女性は、年齢とともに卵巣の機能が衰え、エストロゲンの分泌が減少することによって、様々な不快症状が現れます。主な症状として、顔のほてりやのぼせ、発汗、肩こり、頭痛などの身体的なものに加えて、イライラや不安、憂鬱など、精神的な症状も見られます。これらの症状は、更年期障害と呼ばれています。
また年齢だけではなく、無理なダイエットやストレス、喫煙、睡眠不足などの生活習慣が原因でもエストロゲンの分泌は減少するといわれています。その結果、月経周期が乱れたり、更年期障害に似た症状が現れます。
黒豆に含まれるイソフラボンには、エストロゲンの分泌を促し、更年期障害の症状を改善する効果があります。
また、イソフラボンのホルモンバランスを整える働きによって、エストロゲンの過剰分泌が原因で引き起こされる乳ガンを予防することができると考えられています。実際に、大豆の消費量が多いアジア諸国の女性は、欧米に比べてイソフラボンの摂取量が多いため、乳ガンの発症率が低いという調査結果が報告されています。
●骨粗しょう症を予防する効果
イソフラボンには、骨の中にあるカルシウムが溶け出さすことを抑える働きがあります。
女性ホルモンの一種であるエストロゲンの分泌が減少すると、骨にカルシウムを蓄えておく力が低下します。その結果、骨密度[※9]が低下し骨がもろくなるため、ちょっとしたはずみで骨折などのけがをしやすくなります。これが、骨粗しょう症です。
更年期障害と同様、若い世代の女性でも、不規則な生活習慣が原因でエストロゲンの分泌が減少することによって骨粗しょう症が引き起こされる可能性があります。
イソフラボンは、エストロゲンの分泌を促し骨の中にカルシウムを蓄えることで、骨粗しょう症を予防します。
また、イソフラボンには骨量を増やす働きもあるため、イソフラボンの摂取量が多い人は骨密度が高いという研究結果も報告されています。
黒豆にはイソフラボンもカルシウムも豊富に含まれているため、相乗効果で骨粗しょう症が予防できると考えられています。
●便秘を解消する効果
黒豆に含まれる不溶性食物繊維は、水に溶けない食物繊維です。水分を吸収して数十倍に膨らみ、体内を刺激して余分なものを押し出す腸のぜん動運動を活発にします。ぜん動運動が活発になると、不要なものが排出されやすくなります。
また、黒豆には自律神経[※10]を調節し腸のぜん動運動を促進してくれる働きがあるビタミンB₁、腸内環境を整えるオリゴ糖も含まれています。
[※6:アディポサイトカインとは、脂肪細胞が分泌するホルモンの一種です。]
[※7:アディポネクチンとは、インスリン感受性の亢進や動脈硬化の抑制、抗炎症などの働きがある脂肪細胞から分泌されるホルモンの一種です。]
[※8:インスリン感受性とは、インスリン作用に体内の組織が抵抗性を現す状態のことです。インスリン感受性が低下すると、インスリンの分泌量や働きがしっかりしていてもインスリン受容体がしっかりと働かないため、細胞へのブドウ糖の吸収がうまくいかず、血糖値が低下しないという現象が起こります。]
[※9:骨密度とは、骨の密度をいいます。一定の面積あたり骨に存在するカルシウムなどのミネラルがどの程度あるかを示し、骨の強度を表します。]
[※10:自律神経とは、無意識下で体全体を調整する神経です。]
黒豆はこんな方におすすめ
○動脈硬化を予防したい方
○糖尿病を予防したい方
○血圧が高い方
○美肌を目指したい方
○更年期障害でお悩みの方
○骨粗しょう症を予防したい方
○便秘でお悩みの方
黒豆の研究情報
【1】非卵巣切除ラットモデル中の脂質および酸化ストレスに関する黒大豆摂取による作用について調べました。コントロール群(NC群:12匹)、黒豆(BS:12匹)を10週間与え、それぞれのラットの血漿トリグリセリド(TG)、血漿総コレステロール(TC)、LDLコレステロール(LDL-C)を調べた結果、NC群よりもBS群のTG,TC、LDL-Cは減少したことがわかりました。このことから、黒豆の摂取は、血漿中の脂質を下げる働きがある可能性が考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20803424
【2】LDLコレステロール酸化モデル試験をin vitro で行い、各種マメ科植物の作用について調べました。9種類あるマメ科植物のうち黒豆、黒大豆はLDLが酸化される時間を、対照群と比較して有意に遅延させました。また、黒豆、黒大豆双方ともにDPPHラジカル補足能を有していることがわかりました。これらのことから、黒豆は、LDL酸化の観点からアテローム性動脈硬化を防ぐ可能性が考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17995667
【3】高脂肪食誘発肥満ラットに対する、黒大豆種皮から抽出されるアントシアニンの効果について調べました。ラットを(1)通常食事摂取群(ND群)、(2)高脂質含有食品群(HFD(ラード16%含有))、(3)HFD-10%黒豆食品群に分け、調べました。黒豆摂取群は高脂質食品群と比較し有意な体重の減少が認められました。また、黒豆摂取群は、HDLコレステロールを上げ、血清トリセリグリド(TG)濃度を有意に低下させました。このことから、黒大豆は、抗肥満活性をもち、血清脂質に作用を及ぼす可能性が考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17887951
【4】黒豆大豆から抽出した3つのアントシアニン(シアニジングルコシド、デルフィニジングルコシド、ペチュニジングルコシド)の神経保護作用について調べました。ヒト脳神経芽細胞SK-N-SH細胞の過酸化水素水誘発障害に対するアントシアニンの保護作用を検討した結果、活性酸素抑制作用、アポトーシス因子(JNK)の活性阻害を示し、抗酸化酵素であるヘモオキシゲナーゼ(HO-1)を活性化しました。このことから、黒豆から抽出したアントシアニンは、脳神経を保護する可能性が考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22575822
【5】黒大豆の種子抽出物(BE)の高脂肪食ラットに対する作用について調べました。14週間、コントロールまたは高脂肪食、高脂肪食とBEを与えた結果、高脂肪食に比べ、BE摂取群は、血漿グルコース濃度、インスリン感受性が増加しました。また、炎症性サイトカインの一つであるTNFαの発現を抑制しました。これらのことから、BEは、抗炎症、また抗糖尿病作用を有することが考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21751816
【6】黒大豆抽出物(BB)が血栓性疾患に及ぼす作用を検討しました。in vitro ではBBは分離したヒト血小板のコラーゲン凝集を阻害し、また、in vivoのモデルでは、BBの経口摂取がコラーゲン誘発静脈血栓および三塩化鉄(FeCl3)誘発トロンビン形成を抑制することがわかりました。このことから、BBは、抗血栓・抗凝集作用を有する可能性が考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21190825
【7】0.2%のシアニジン3グリコシド(C3G)を糖尿病モデルマウスに5週間与えたところ、グルコース輸送体4(GLUT4)を活性化し、また、炎症サイトカイン(TNFαなど)の抑制が認められました。このことから、C3Gは、糖尿病性の炎症を抑制することがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17869225
参考文献
・本多京子 食の医学館 株式会社小学館
・Kim SM, Chung MJ, Ha TJ, Choi HN, Jang SJ, Kim SO, Chun MH, Do SI, Choo YK, Park YI. (2012) “Neuroprotective effects of black soybean anthocyanins via inactivation of ASK1-JNK/p38 pathways and mobilization of cellular sialic acids.” Life Sci. 2012 Jun 6;90(21-22):874-82. Epub 2012 Apr 30.
・Byun JS, Han YS, Lee SS. (2010) “The effects of yellow soybean, black soybean, and sword bean on lipid levels and oxidative stress in ovariectomized rats.” Int J Vitam Nutr Res. 2010 Apr;80(2):97-106.
・Xu BJ, Yuan SH, Chang SK. (2007) “Comparative studies on the antioxidant activities of nine common food legumes against copper-induced human low-density lipoprotein oxidation in vitro.” J Food Sci. 2007 Sep;72(7):S522-7.
・Kwon SH, Ahn IS, Kim SO, Kong CS, Chung HY, Do MS, Park KY. (2007) “Anti-obesity and hypolipidemic effects of black soybean anthocyanins.” J Med Food. 2007 Sep;10(3):552-6.
・Kanamoto Y, Yamashita Y, Nanba F, Yoshida T, Tsuda T, Fukuda I, Nakamura-Tsuruta S, Ashida H. (2011) “A black soybean seed coat extract prevents obesity and glucose intolerance by up-regulating uncoupling proteins and down-regulating inflammatory cytokines in high-fat diet-fed mice.” J Nutr Biochem. 2011 Oct;22(10):964-70. doi: 10.1016/j.jnutbio.2010.08.008. Epub 2010 Dec 28.
・Sasaki R, Nishimura N, Hoshino H, Isa Y, Kadowaki M, Ichi T, Tanaka A, Nishiumi S, Fukuda I, Ashida H, Horio F, Tsuda T (2007) “Cyanidin 3-glucoside ameliorates hyperglycemia and insulin sensitivity due to downregulation of retinol binding protein 4 expression in diabetic mice.” Biochem Pharmacol. 2007 Dec 3;74(11):1619-27. Epub 2007 Aug 10.