ブラックコホシュ

black cohosh
アメリカショウマ actaea racemosa actaea macrotys
Cimicifuga racemosa

ブラックコホシュは、北アメリカが原産の白く美しい花を咲かせるハーブの一種です。
ハーブには黒い根茎の部位が使用され、味に苦みを感じる場合もあります。ブラックコホシュは、女性特有の月経前症候群や更年期障害に効果があります。

ブラックコホシュとは

●基本情報
ブラックコホシュは、約150 cmくらいの高さに育つ、サラシナショウマ属キンポウゲ科の植物です。サラシナショウマ属は、耐寒性の多年草[※1]の15種が北半球の温帯地域にみられます。その中でもブラックコホシュの主な産地は北アメリカで、肥沃な広々とした林地にみられます。根茎は木質になり、大きな卵形の葉の縁はギザギザで、3つの小葉に分かれています。盛夏には、細く、香りのよい白い花が瓶洗いのブラシのような形に咲きます。ブラックコホシュの栽培には半日陰の湿り気があり、腐植土[※2]の豊富な土地が好まれます。また繁殖は秋で、種子が熟したら温室等屋内に種を蒔くのが良いとされています。
ブラックコホシュの学名「cimicifuga」は「cimex:虫」と「fugere:逃げる」という意味に由来します。ブラックコホシュは強いにおいが虫避けになることからこの学名がつきました。またブラックコホシュという名は、根茎が黒っぽいことからついたといわれています。

●ブラックコホシュの歴史
ブラックコホシュは、もともとアメリカインディアンの間で痛みやリウマチ炎症、女性の生理に関係する症状に使われていたハーブで、女の根とも呼ばれていました。またペノブスコット属の人々には腎臓の不調にも用いられていました。今でも神経痛、関節痛、リウマチ、耳鳴りなどにも利用されています。また鎮痙作用[※3]を利用して、せきや気管支炎などの呼吸器のトラブルにも利用されており、ドイツでは医薬品としてブラックコホシュが販売されています。

●ブラックコホシュの利用
ブラックコホシュは、秋に実がなったあとで収穫した根と根茎を、乾燥させて利用します。ハーブティーとして飲用するときには、小さじ1/2程度のブラックコホシュのハーブに対して、カップ1杯の水に10~15分ほど煎じたあと、こしてから飲みます。またブラックコホシュのチンキ[※4]を使用する場合は、2~4 mℓ程度をカップ1杯の水に加えて飲みます。しかしハーブティーにすると苦味を感じる場合もあるため、最近ではカプセルに入ったサプリメントとして販売されています。

●ブラックコホシュの成分と効果
ブラックコホシュの主な成分は、トリテルペン配糖体、イソフラボンタンニンです。またブラックコホシュは、助産婦は一般に、出産時に分娩を誘導するために使用します。こうした行為は、母子に有害な影響を及ぼすことはないと考えられていますが、妊婦へのブラックコホシュの使用は健康管理の専門家による監督のもとで行わなければなりません。また授乳中の方の使用は避けた方がよいです。ブラックコホシュは、まれに副作用として消化器系の不調をもたらすことが知られています。

[※1:多年草とは、茎の一部、地下茎、根などが枯れずに残り、複数年にわたって生存する草のことです。]
[※2:腐植土とは、植物が分解されて土になったものです。腐葉土とも呼ばれます。]
[※3:鎮痙作用とは、痙攣を抑える作用です。一般的には胃などに用いられる鎮痛鎮痙剤を指します。]
[※4:チンキとは、ハーブや生薬をエタノールに浸してつくられる液状の製剤のことです。]
[※5:エストロゲンとは、女性ホルモンの一種で、卵胞や黄体から分泌される女性らしい体つきを促進するホルモンのことです。]

ブラックコホシュの効果

●月経前症候群 (PMS)の症状を緩和する効果
ブラックコホシュには、月経前症候群 (PMS)の症状を緩和する効果があります。月経前症候群 (PMS)とは、月経の始まる3~10日前から、腰痛や腹痛、顔や足のむくみ、乳房痛、イライラなどの不快症状が起こることです。女性ホルモンには、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類があり、エストロゲンは子宮内膜を増殖させるほか、骨密度を保つ、コレステロールを抑える、コラーゲンを増やすなど、体全体にかかわる働きがあります。またプロゲステロンは受精卵の着床を促し、妊娠の持続をサポートするホルモンです。いずれも卵巣から分泌され、互いに影響しながらバランスを保っています。月経前症候群の症状は、プロゲステロンの分泌の変化により、ホルモンのバランスが崩れることによって生じるといわれています。
ブラックコホシュは女性のために使われるハーブで、女性ホルモンのエストロゲンに似た作用を持ちます。そのため月経前症候群 (PMS)の症状を緩和する効果があります。またブラックコホシュには、けいれん性の痛みである生理痛の緩和にも効果があります。さらに生理周期とともにニキビや吹き出物が出るような皮膚のトラブルにも効果的です。

●更年期障害の症状を改善する効果
更年期障害とは、卵巣機能が衰え、女性ホルモンのひとつであるエストロゲンの分泌が減少し、これが原因となって起こる自律神経の働きが乱れ、頭痛、腰痛、肩こり、ほてり、イライラ、うつ状態などのさまざまな症状のことをいいます。
ブラックコホシュは、1995年に出された研究結果ではセントジョーンズワートと組み合わせた場合ほてりや他の更年期障害の治療に78%もの効果があったと記されています。ブラックコホシュはエストロゲン[※5]作用を持ち、体内のエストロゲンが低下する際に生じる症状を緩和することが示されています。そのためブラックコホシュは更年期障害の緩和に効果があります。更年期障害の症状に著しい改善が認められるようになるまでには、通常4週間のブラックコホシュの飲用が必要であるとされています。【1】【2】【4】

●骨粗しょう症を予防する効果
骨粗しょう症[※6]は骨の代謝バランスが崩れ、もろくなった状態のことです。骨は、骨芽細胞[※7]によって骨形成されると同時に破骨細胞[※8]によって骨吸収され、常に新しく作り直されるという新陳代謝(リモデリング)を繰り返しています。通常は骨吸収と新たな骨形成のバランスが保たれていますが、これが崩れて骨吸収が上回った状態が続くと、骨量が減少してしまいます。その結果骨がもろくなり、容易に骨折するような状態になるのです。一般に、高齢女性の発症リスクが高くなっていますが、それは、閉経後、骨芽細胞を活発にする女性ホルモンであるエストロゲンが激減するためです。ブラックコホシュは、エストロゲンと似た作用を持つため、骨粗しょう症の予防にも効果があります。【3】

[※6:骨粗しょう症とは、骨からカルシウムが極度に減少することで、骨の内部がスカスカになった症状であり、非常に骨折しやすくなることで知られています。高齢者に多い症状で、日本では約1000万人の患者がいるといわれており、高齢者が寝たきりになる原因のひとつです。]
[※7:骨芽細胞とは、骨組織の表面に存在し、新しい骨をつくる働きをもつ細胞です。カルシウムを沈着させ、新しく丈夫な骨を再生していきます。]
[※8:破骨細胞とは、古くなった骨を壊す役目を担った細胞の総称です。古くなった骨を吸収するため、骨の生まれ変わりにおいて重要な役割を果たします。]

ブラックコホシュはこんな方におすすめ

○女性特有の病気(更年期、生理不順など)が気になる方
○骨や歯を強くしたい方
○骨粗しょうを予防したい方

ブラックコホシュの研究情報

【1】閉経後女性122名 (試験群81名、平均52.5±3.7歳) を対象とした二重盲検無作為化プラセボ比較試験において、ブラックコホシュ6.5 mg/日を12週間摂取させたところ、クッパーマン指数 (更年期指数) が20以上の対象者 (試験群35名) でのみ、更年期症状の抑制が認められました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16039414

【2】40歳未満の子宮摘出女性にブラックコホシュを4,8,12、24週間飲用させた結果、クッパーマン指数 (更年期指数) は有意に低下したことが分かりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2841818

【3】ブラックコホシュ製剤CR BNO 1055を閉経後の女性62名に飲用させたところ、0.6mgエストロゲンとほぼ同様の効果(骨の新陳代謝、膣細胞代謝)が認められました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12609561

【4】ブラックコホシュをセントジョーンズワートと一緒に摂取すると、ほてりや他の更年期障害が78%改善したことが分かりました。

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参考文献

・清水俊雄 機能性食品素材便覧 特定保健用食品からサプリメント・健康食品まで 薬事日報社

・林真一郎 編 メディカルハーブの事典 東京堂出版

・アン マッキンタイア著 女性のためのハーブ自然療法 産調出版

・佐々木 薫 ハーブティー事典 池田書店

・リエコ 大島 バークレー著 英国流メディカルハーブ 説話社

・石原 茂正 編 機能性ハーブの生理活性 (株)常盤植物化学研究所

・川端一永、吉井友季子 自分で治せる!家庭でできる!医師が教えるアロマセラピー 世界文化社

・アースプランツ リサーチ オーガニゼーション監修 HERB BIBLE 双葉社

・Pharmacist’s Letterエディターズ 、Prescriber’s Letterエディターズ編 健康食品データベース 第一出版

・デニー バウン著 ハーブ大百科 誠文堂新光社

・厚生労働省

・Frei-Kleiner S, Schaffner W, Rahlfs VW, Bodmer Ch, Birkhäuser M. (2005) “Cimicifuga racemosa dried ethanolic extract in menopausal disorders: a double-blind placebo-controlled clinical trial.”  Maturitas. 2005 Aug 16;51(4):397-404. Epub 2004 Dec 10

・Lehmann-Willenbrock E, Riedel HH. (1988) “[Clinical and endocrinologic studies of the treatment of ovarian insufficiency manifestations following hysterectomy with intact adnexa].” Zentralbl Gynakol. 1988;110(10):611-8.

・Wuttke W, Seidlová-Wuttke D, Gorkow C. (2003) “The Cimicifuga preparation BNO 1055 vs. conjugated estrogens in a double-blind placebo-controlled study: effects on menopause symptoms and bone markers.” Maturitas. 2003 Mar 14;44 Suppl 1:S67-77

・Chevallier. A. “An excellent guide to over 500 of the more well known medicinal herbs from around the world.” The Encyclopedia of Medicinal Plants

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