ビスベンチアミン

bisbentiamine
ベンゾイルチアミンジスルフィド

ビスベンチアミンとは、ビタミンB1の誘導体の一種です。ビスベンチアミンはビタミンB1の働きを助けるため、脚気予防や疲労回復に効果的です。また神経機能を正常に保つ効果も持っています。

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ビスベンチアミンとは

●基本情報
ビスベンチアミンとは、ビタミンB1の誘導体[※1]の一種で、ビタミンB1の働きを助ける作用があります。
ビスベンチアミンは、ビタミンB1の構造を少し変えることで、腸や消化管からの吸収を高めています。
ビタミンB1は普通に食事を摂っていると欠乏することはない成分ですが、ビタミンB1消耗性の病気や胃腸に病気のある方などはサプリメントなどからの摂取が必要です。また、妊娠中の女性やひどい肉体疲労時には積極的に摂取する必要がある成分です。
ビタミンB1は糖質をエネルギーに変える際に必要な補酵素としての役割を持っています。糖質は過剰に摂取すると分解されず、乳酸として体内に蓄積されます。乳酸とは、疲労物質の一種で、特に筋肉疲労などの際は痛みのある箇所には乳酸が溜まった状態にあります。
ビタミンB1が不足すると、疲労物質である乳酸が分解されず蓄積されてしまうため、疲れがたまりやすい人などはビタミンB1やビスベンチアミンなど糖質の代謝[※2]を促進する成分をとる必要があります。

●ビスベンチアミンの歴史
ビタミンB1は、1910年に東京帝国大学教授であった鈴木梅太郎博士により、精米時に捨てられる米ぬかの中から、脚気(かっけ)[※3]を防ぐ成分として発見されました。これが世界で最初のビタミンの発見です。鈴木博士はこの物質をアベリ酸と命名し、後にオリザニンと改名して論文を発表しました。しかし、日本語で論文を発表したため世界には認められませんでした。
翌年、ポーランドのカシミール・フンクが同じ物質を発見し、「ビタミン」と名付けて発表しました。
ビスベンチアミンは、水溶性のビタミンB1を水に難溶にしたもので、かつ、ベンゾイル化して消化管からの吸収を向上させたもののことです。

[※1:誘導体とは、母体となる有機化合物の構造や性質を大幅に変えない程度の改変が成された化合物の総称です。]
[※2:代謝とは、生体内で、物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです。また、それに伴ってエネルギーが出入りすることを指します。]
[※3:脚気(かっけ)とは、ビタミンB1の欠乏症です。心不全や末梢神経障害などが起こります。]

ビスベンチアミンの効果

●脚気を予防する効果
脚気は、江戸時代末期に白米を主食にするようになってから、「江戸患い」として流行した病気です。明治時代には全国に広がり、国民病として恐れられました。明治半ばの日清戦争では、陸軍の戦死者が約1000名だったのに対して、脚気による戦病死者は2万人を超えました。日露戦争では、海軍がいち早く精白米のご飯を洋食に切り替えたことによって、脚気の病死者は減りましたが、精白米のままの食事だった陸軍では、多数の脚気による病死者が出ました。しかし、その時には原因は分かっていませんでした。
その後20年以上経ってから、島薗順次郎博士によって、脚気がビタミンB1の不足によるものだと明らかになりました。ビタミンB1不足が原因と分かってからは、脚気の患者は減少し、現在の日本でほとんどみられることはありません。
ビスベンチアミンはビタミンB1の働きを助けるため、脚気予防に効果的な成分です。【2】

●疲労回復効果
炭水化物 (糖質)の代謝過程では、その反応をスムーズに促すために酵素が働いています。酵素が働くためには、その働きを助ける補酵素が必要です。ビタミンB1は、小腸で吸収された後リン酸と結合して、補酵素であるチアミンピロリン酸 (TPP)となります。
炭水化物 (糖質)は、体内で消化されてブドウ糖にまで分解され小腸で吸収されます。ブドウ糖は血液によって全身の細胞に運ばれ、体を動かすエネルギーのもととして使われます。ブドウ糖がエネルギーになるときには、ブドウ糖がピルビン酸という物質に変えられ、さらにアセチルCoAという物質に変換されます。このアセチルCoAから、エネルギー物質がつくられます。
ビタミンB1からつくられるTPPは、この中でピルビン酸をアセチルCoAに変換するときに働いています。そのため、ビタミンB1がないとグルコースはピルビン酸までしか変換されず、エネルギーになることができません。エネルギーになれなかったグルコースは、ピルビン酸や、ピルビン酸からできる乳酸という疲労物質として体内に溜まります。その結果、疲労感を感じたり、エネルギーが不足したりするため、エネルギーを必要とする臓器で障害が起こります。
ビスベンチアミンはビタミンB1の働きを助けるため、疲労回復に効果的です。【1】

●神経機能を正常に保つ効果
中枢神経や、手足の末梢神経の働きは脳によって調整されています。脳が働くには大量のエネルギーを必要としますが、このエネルギーはブドウ糖のみからつくられます。ビタミンB1の誘導体であるビスベンチアミンは、ブドウ糖からのエネルギー生産を手助けすることで、脳神経の働きを正常に保つ役割をしています。ビタミンB1が不足して脳のエネルギーが不足すると、脳の働きが悪くなることでイライラしたり、怒りっぽくなったり、集中力や記憶力が低下します。また、脳からの指令で動く末梢神経の働きが悪くなり、足のしびれや運動能力の低下が起こります。
これらのことから、ビタミンB1の誘導体であるビスベンチアミンは神経機能を正常に保つ効果があるといえます。【3】

ビスベンチアミンはこんな方におすすめ

○体のだるさを感じる方
○疲労を回復したい方
○お酒をよく飲む方
○喫煙する方
○スポーツをする方

ビスベンチアミンの研究情報

【1】ビタミンB1誘導体であるビスベンチアミンは、グルコースの利用を抑制し、グリコーゲンの合成を高めることが分かりました。ビタミンB1誘導体であるビスベンチアミンは疲労改善効果、持久力維持に役立つと考えられています。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110007164789

【2】脚気患者特に心臓病患者日本人23名(うち17名は10代) では、激しい運動をすると脚気心疾患が生じる可能性があり、末梢浮腫、低末梢の血管抵抗、静脈圧心臓肥大の増加、T波異常、循環動態亢進および循環血液量の増加などの心臓疾患が起きることが知られています。脚気患者にビタミンB1及びバランスの摂れた栄養と休養を摂らせると、脚気症状の改善が認められました。ビスベンチアミンはビタミン誘導体のひとつであることから、ビタミンB1と同様に脚気症状の改善に役立つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7416185

【3】アルツハイマー病患者20名と健常人18名の大脳皮質を比較したところ、アルツハイマー病患者では、ビタミンB1から作られるチアミンⅡリン酸(TDP)が減少しており、これは脳内のTDPの原料となる物質ATPの減少によるものと考えられました。ビスベンチアミンはビタミン誘導体のひとつであることから、ビタミンB1と同様にアルツハイマー病予防に役立つ可能性が示唆されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8619543

参考文献

・PECK RITTER リッター生化学 東京化学同人

・増田 紘之、増田 毅、星野 太佑、北岡 祐、加藤 麻衣、八田 秀雄 (2008) “ビタミンB1誘導体の投与が、安静時及び持久的運動時における糖代謝に与える影響” 体力科學 57(6), 769, 2008-12-01

・Kawai C, Wakabayashi A, Matsumura T, Yui Y. (1980) “Reappearance of beriberi heart disease in Japan. A study of 23 cases.” Am J Med. 1980 Sep;69(3):383-6.

・Mastrogiacoma F, Bettendorff L, Grisar T, Kish SJ. (1996) “Brain thiamine, its phosphate esters, and its metabolizing enzymes in Alzheimer’s disease.” Ann Neurol. 1996 May;39(5):585-91.

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