ビオチンとは?
●基本情報
ビオチンは、ビタミンB群の一種で、以前はビタミンB7とも呼ばれていました。
無色の針状結晶で、においや味はなく、水に溶けやすい水溶性の成分です。
熱・光・酸に対しては強く、アルカリに対しては構造が壊れてしまうことがあります。
ビオチンはエネルギーの代謝を助け、皮膚や粘膜の健康維持に役立つなど、人間が健康に過ごすためには欠かせない栄養素です。体内で肝臓、腎臓、筋肉、乳腺、消化管の順に多く存在し、アミノ酸や脂質の分解と代謝を助ける効果があります。
ビオチンは水溶性のため水に溶けますが、食品中ではたんぱく質と結合した形で存在しているため、分解されにくく壊れにくいことが特徴の成分です。
加工食品では壊れて損われていることもありますが、体内でも合成されるためビオチン不足になる心配はほとんどありません。
ビオチンは腸内で善玉菌によって合成され、食品から摂取されるものと同じように働きます。
体内でどのくらいの量が合成されるのかはまだ解明されていませんが、健康な体内では問題なく合成されるといわれています。しかし、喫煙や飲酒、不規則な生活などによって体内での合成量が減少し、不足してしまうこともあります。
●ビオチンの歴史
ビオチンは、1935年にオランダのケーグルによって卵黄の中から発見されました。
酵母など微生物の成長に必要な因子であるビオス (bios)を構成する1成分として研究されたため、「ビオチン」という名称が付けられました。
また、皮膚の炎症の予防に関係していることから、ドイツ語の皮膚 (Haut)に由来して「ビタミンH」と呼ばれることもあります。
そのほか、体内で補酵素 [※1]として働くため「補酵素R」とも呼ばれます。
●ビオチンの欠乏症
ビオチンの欠乏症は、湿疹などの皮膚炎、結膜炎、舌炎、知覚過敏や脱毛、白髪の増加などがあります。そのほか無気力、疲労感、憂うつ、蒼白、吐き気、運動失調、筋肉痛、けいれん、緊張低下などの原因にもなります。
ビオチンは、同じものばかりを食べ続けるなど極端な偏食をすると欠乏症になる場合があります。
また、抗生物質を多用したり、長期間の下痢などで腸内細菌のバランスが崩れたりすることで、体内でのビオチン産生量が少なくなり、欠乏する場合もあります。
乳児の場合は、消化管の機能が十分に発達していないため、ビオチンの吸収や産生量が少なくなり、不足する場合もあります。
ビオチンは添加物として指定されていますが、保健機能食品 [※2]に限られていて、乳児用調整粉乳への添加が認められていないため、病気で治療用調整粉乳のみから栄養を摂っている子供の場合はビオチン欠乏症が心配されています。
ビオチンを効率的に摂取するためには、ビオチンと同時にビタミンB1、ビタミンB2、葉酸、パントテン酸などの、ほかのビタミンB群を一緒に摂るとよいといわれています。
ビオチンを多量に摂った場合でも、水溶性のため尿中に排泄されるので、過剰症はありません。
ビオチンの摂取の基準量は、日本人の食事摂取基準 (2010年度版)において、十分な科学的根拠がないため目安量を示しています。目安量は表のとおりです。
<豆知識> 生卵白でビオチン欠乏症に
ビオチンは卵にも含まれていますが、生の卵白を大量に長期間食べ続けると、ビオチンの欠乏症になることが報告されています。これは、卵白に含まれる「アビジン」というたんぱく質がビオチンと強く結びつくため、消化管でのビオチンの吸収を阻害することにより起こります。卵を加熱するとアビジンの性質が変わり、ビオチンと結合しなくなるため問題ありません。
[※1:補酵素とは、消化や代謝ではたらく酵素を助ける役割をするものです。]
[※2:保健機能食品とは、特定保健用食品と栄養機能食品を合わせたものです。特定保健用食品は健康の維持・増進に役立つ旨を表示することを、厚生労働大臣によって許可・承認された食品です。栄養機能食品は、高齢化、食生活の乱れ等によりその人にとって不足しがちな栄養成分の補給を目的とした食品です。]
ビオチンの効果
●糖の代謝を助ける効果
ビオチンは、補酵素として糖の代謝に関わっています。
三大栄養素の一つである炭水化物 (糖質)は、体内で消化されてブドウ糖にまで分解されると、小腸から吸収されます。ブドウ糖は、血液によって全身の細胞に運ばれ、体を動かすエネルギーのもととして使われています。
このように、糖を吸収しエネルギーに変換することを「糖代謝」といいます。
特に脳や神経組織、赤血球などはブドウ糖だけをエネルギー源として利用しているため、糖の代謝はとても重要です。
ブドウ糖を燃やしてエネルギーをつくり出す過程では、燃えカスとして「乳酸」が発生します。
この「乳酸」とは、体内に溜まると筋肉痛や疲労の原因となるものです。
体内では乳酸を化学工場である肝臓に運び、乳酸から再びブドウ糖を作り出すことでリサイクルしています。
このリサイクルの過程では、まず乳酸がピルビン酸に変えられ、さらに酵素の働きによってオキサロ酢酸に変化し、ブドウ糖へとつくり変えられており、このリサイクルのことを「糖新生」と呼ばれています。
さらに、ビオチンは、ピルビン酸がオキサロ酢酸へと変えられるときに働く酵素である「カルボキシラーゼ」を助ける補酵素としても働き、糖の代謝を促しています。
また、ブドウ糖は体内で乳酸の他にアミノ酸からもつくられており、ビオチンはこの過程でも補酵素として働いています。
ビオチンは糖の代謝に関わり血糖値 [※3]を調節することから、高血糖を改善する作用も報告されています。【5】【8】
●皮膚や粘膜の健康維持を助ける効果
ビオチンが補酵素として働きを助けている酵素のカルボキシラーゼは、アミノ酸の代謝にも関わっています。
アミノ酸は、体内で食事から摂った肉や魚などのたんぱく質が消化、分解を受けて作られます。
そして糖や脂肪とともにエネルギーをつくり出すもととなったり、体のそれぞれの部分で、コラーゲンなどのたんぱく質を合成するときの材料となります。
筋肉や皮膚、粘膜、髪の毛などは、アミノ酸が集まってたんぱく質を合成することでつくられています。
そのため、ビオチン不足によって酵素カルボキシラーゼの働きが悪くなり、アミノ酸からたんぱく質をスムーズにつくることができなくなると、皮膚や粘膜、髪の毛などをうまくつくることができず、肌荒れや脱毛、白髪の原因となることがあります。
また、ビオチンは亜鉛と協力して核酸 (DNAやRNA)の合成にも補酵素として働きかけ、たんぱく質の合成を助けています。
皮膚の細胞が規則正しく生まれ変わり、健康な状態を保つためにも、ビオチンは欠かせない栄養素なのです。
●皮膚炎を改善する効果
ビオチンは、皮膚の炎症やかゆみの原因となるヒスタミンという物質の産生を抑える働きがあります。
詳しいメカニズムなどは明らかになっていませんが、この働きにより皮膚のトラブルの改善が期待されており、アトピー性皮膚炎の治療にも有効だと考えられています。
アトピー性皮膚炎とは、強いかゆみや湿疹が主な症状で、良くなったり悪くなったりを繰り返す病気です。原因は様々で、ダニ、ハウスダスト [※4]、食べ物などのアレルギーや、皮膚の性質が大きく関係しています。
アトピー性皮膚炎では、アレルギーが原因の場合体内にアレルゲン [※5]が入ると、ヒスチジンという物質からできるヒスタミンが体内に放出されることによってかゆみや皮膚の炎症が起こります。
ビオチンはこのヒスチジンやヒスタミンの産生を抑え、尿から排泄する作用があるため、アトピー性皮膚炎の治療薬としても使われています。
また、アトピー性皮膚炎の患者では、血液中のビオチン濃度が半分以下に下がっているという報告や、ビオチンの大量投与によってアトピーの改善がみられる場合があるようです。
ヒスタミンはアトピーだけでなく、様々なアレルギーや花粉症などの原因にもなっているため、ビオチンを摂ることで効果があると期待されています。【6】
[※3:血糖値とは、血液中にブドウ糖がどれくらいあるのかを示すものです。ブドウ糖が血液中にあふれてしまうと血糖値が高くなります。]
[※4:ハウスダストとは、室内のチリやダニ、カビ、ペットや人の皮膚などアレルギーを引きおこす物質が合わさったもののことです。]
[※5:アレルゲンとは、アレルギー反応を引き起こす原因物質のことです。例えば、ホコリや花粉、食品アレルギーの原因食品などです。]
ビオチンは食事やサプリメントで摂取できます
ビオチンはこんな食品に含まれています
○レバー (特に牛レバー)○魚介類
○乳製品 (特にヨーグルト)
○豆類:大豆、ピーナッツ
○卵
○野菜類:ほうれん草、グレープフルーツ、カリフラワー
こんな方におすすめ
○健やかな毎日を送りたい方
○白髪・脱毛を予防したい方
○アトピー性皮膚炎や肌荒れでお悩みの方
○アレルギー症状を予防したい方
ビオチンの研究情報
【1】ビオチンを摂取したマウスは、肝臓および血中トリグリセリドの濃度が低下しました。また、AMPキナーゼが活性化することにより、cGMP濃度を減らすことでトリグリセリドが低下したことから、ビオチンが高脂血症予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22806917
【2】2週間凍結した男性精液(105例) をビオチン(10nM) 入り卵黄培地で培養したところ、精子の運動性、直進性が増加したことから、ビオチンが精子の運動性を高め、生殖機能改善効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22527895
【3】ニッケルアレルギーマウスにビオチン不足食品を8週間与えたところ、アレルギー症状が増悪し、脾細胞から炎症性タンパク質の一種であるIL‐1βの産生が増加したことから、ビオチンが金属アレルギー予防効果に重要な役割を果たすと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19261731
【4】6週間ビオチンを欠乏させたマウスを経過観察した結果、7~20週間でビオチン欠乏マウスは、体重が減少し、免疫グロブリン濃度が低下しました。また脾細胞の分裂促進因子が低下したことから、ビオチンは、免疫細胞の成長、免疫反応において非常に重要な役割を果たすことがわかりました。 【5】膵臓がんラットにビオチン欠乏食を与え、インスリンの反応性が低下したことから、ビオチンは膵臓のβ細胞からのインスリン分泌の重要な役割を果たすことがわかりました。 【6】ヒト肺線維芽細胞をビオチン欠乏培地で培養したところ、大量の活性酸素を発生し細胞が障害されていたことから、ビオチンは活性酸素から細胞を守る抗酸化作用に重要な役割を果たすと考えられています。 【7】妊娠期のハムスターに対し、ビオチン欠乏食を与えた結果、胎児死亡率が高く、心臓拡張ならびに神経管障害など発育不良もが見られたことから、妊娠期におけるビオチンの摂取は、子供の発育にとって重要であることがわかりました。 【8】掌蹠膿疱症や掌蹠膿疱症性骨関節炎の患者の血液中のビオチンを調べたところ、血中のビオチン濃度が通常の半分以下で、約6割が糖尿病を合併していることがわかりました。ビオチンを1日当たり9mg摂取させることで、皮疹や骨の痛みが消失するばかりでなく、血糖値も改善したことから、ビオチンが糖尿病予防効果を持つことが示唆されました。 【9】糖尿病患者284名では、血中のビオチンおよびHDLコレステロールに正の相関関係が認められました。このことから、ビオチンが脂質代謝に対して何らかの働きを持つことが考えられています。また血中ビオチン濃度が低下すると、BUN (腎機能評価の一つ) が高い傾向にあったことから、ビオチンは腎機能の正常化について重要な役割を果たすと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9497186
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15539296
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17182796
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8263603
http://www.vic-japan.gr.jp/vicJ/no.106/106.pdf
http://www.japanclinic.co.jp/gakuju/sym12/12_099.pdf