ビートとは
●基本情報
ビートは地中海沿岸が原産のアカザ科の多年草[※1]で、成長すると60~80cmの高さになります。根の部分は赤く大カブのように肥大し、輪切りにすると年輪のようなきれいな輪紋があります。ビートにはいくつかの種類があり、野菜として利用されるものはテーブルビートやリーフビートという種類です。テーブルビートは根の部分が食用とされ、ボルシチに定番の野菜です。茹でると甘みが出るため、サラダや酢漬けなどさまざまな料理に利用されています。リーフビートは葉を食用にするもので、フダンソウとも呼ばれます。赤、黄、桃色など色鮮やかな彩が特徴の野菜で、夏場にほうれん草の代用として栽培されることもあります。また、砂糖の原材料となるものはシュガービートといわれる種類で、日本では甜菜やサトウダイコンとしてよく知られています。サトウキビを栽培することのできない寒冷地で、砂糖を生産するための原材料となります。シュガービートから砂糖を製造する方法はドイツで開発されました。
●ビートの歴史
ビートの原産地は地中海沿岸で、古代ローマでは葉と根が食用とされていました。現在のような赤色が特徴のビートは16世紀にドイツで栽培されたといわれています。日本には江戸時代に伝わり、「大和本草」[※2]にも記載がありますが、当時はあまり普及しませんでした。その後、明治時代初期に再度日本に伝えられ、近年では日本でも料理に利用されるようになりました。
ビートという名前は、ケルト語で赤を意味する「bette」に由来しています。
●ビートの生産地
日本での産地は長野県や愛知県、静岡県などで、夏から秋にかけてが旬です。また、砂糖の原材料となる甜菜は主に北海道で栽培されています。リーフビートは暑さにも強いため真冬以外は栽培・収穫ができ、沖縄では冬の野菜として栽培されています。
●ビートの選び方と調理方法
ビートは直径7~8cmくらいの丸いもので、表面に凸凹がなくなめらかで傷がないものを選びます。ひげや泥がついているもののほうが新鮮です。寒冷地の作物のため保存は涼しいところを選びます。
調理をする際、ビートはゆでると甘みが出ますが、切ってからゆでると赤色の色素が流れてしまうので、皮のついた状態でゆでます。
●ビートに含まれる成分と性質
ビートのもつ赤色色素ベタシアニンには強い抗酸化力[※3]があることから、ガン予防に効果があるといわれています。ベタシアニンはアントシアニンを合成することのできない植物が、赤~青い色を出すためにつくりだす色素で、ケイトウ[※4]やほうれん草の根などごく一部の植物にしか含まれません。また、ビートにはオリゴ糖や食物繊維が含まれるため腸内環境を整える働きがあります。他にもビートには肝機能を強化するベタインや、カリウムも含まれます。
[※1:多年草とは、茎の一部、地下茎、根などが枯れずに残り、複数年にわたって生存する草のことです。]
[※2:大和本草とは、江戸時代に書かれた日本初の本草書です。]
[※3:抗酸化力とは、たんぱく質や脂質、DNAなどが酸素によって酸化されるのを防ぐ力です。]
[※4:ケイトウとは、ヒユ科の植物で鶏のトサカに似た形をした秋の花です。]
ビートの効果
●腸内環境を整える効果
ビートにはラフィノースという天然のオリゴ糖が含まれます。ラフィノースは胃や小腸で消化吸収されることなく腸まで届き、腸内の善玉菌[※5]であるビフィズス菌の栄養源となり、増殖を促進させます。腸内で増えた善玉菌が酢酸や乳酸をつくりだし腸内が酸性になると、悪玉菌が抑えられ、酸によって刺激された腸のぜん動運動[※6]が活発になります。加えて、ラフィノースは腸内壁の細胞の新陳代謝[※7]を活発にさせ、腸の運動を刺激します。また、ビートには食物繊維も含まれ、コレステロールや老廃物を排出する働きがあります。【3】
●肝機能を高める効果
ビートに含まれるベタインには肝機能を強化する働きがあります。ベタインとは、甘味や旨味に深くかかわる成分で、エビ、カニ、タコ、イカ、貝類などに多く含まれます。ビート由来のベタインは食品添加物に定められており調味料として利用されています。ベタインは肝臓への脂肪の蓄積を予防する働きがあり、さらに脂肪がついてしまった肝臓に対しては、解毒作用のあるグルタチオンの産生を増加させる働きがあります。これらの働きにより、脂肪肝の抑制、肝硬変[※8]の予防などに効果を発揮します。【1】
●高血圧を予防する効果
ビートには、ミネラルの中でも特にカリウムが多く含まれることから、高血圧の予防に効果があります。カリウムは体内でナトリウムとバランスをとりながら存在しており、体内のカリウムが汗や尿として排出される際には、同じ量のナトリウムも排出されます。しかし、ナトリウムを摂り過ぎによって血中のナトリウム量が増えると、高血圧を引き起こす原因となります。そのため必要量のカリウムを摂取し、ナトリウムの排泄を促すことで、高血圧の予防につながります。【2】
[※5:善玉菌とは、ヒトの腸内に住む細菌の一種です。健康に役立つ働きを行っており、もともと大腸に住んでいる腸内ビフィズス菌や乳酸菌、腸球菌などが善玉菌といわれます。]
[※6:ぜん動運動とは、腸に入ってきた食べ物を排泄するために、内容物を移動させる腸の運動です。]
[※7:新陳代謝とは、古い細胞や傷ついた細胞が、新しい細胞へ生まれ変わることを指します。]
[※8:肝硬変とは、肝臓が固くなり、本来の機能がきわめて減衰した状態のことです。]
ビートはこんな方におすすめ
○腸内環境を整えたい方
○肝臓の健康を保ちたい方
○血圧が高い方
○生活習慣病を予防したい方
ビートの研究情報
【1】非アルコール性脂肪肝の人が無水ベタインをサプリメントとして12ヶ月間摂取したところ、酵素レベルが正常になり、脂肪肝や壊死性炎症、繊維線維化の程度が改善しました。ビートはベタインを含むことから、肝臓保護作用を持つと期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11569700
【2】健康人14名 (18~45歳、イギリス) を対象としたクロスオーバー無作為化比較試験において、ビートの根部のジュースを500 mL摂取したところ、摂取3時間後に収縮期および拡張期血圧の降下がみられました。ビートは高血圧予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18250365
【3】カゼイン分解乳(MA-1)を飲用している牛乳アレルギー患者の腸内細菌叢をビフィズス菌増殖因子であるラフィノース添加カゼイン分解乳(MA-1〔R〕)飲用後とで比較検討したところ、MA-1からMA-1〔R〕への切替えに伴って、善玉菌であるビフィズス菌数および占有割合は有意に増加し悪玉菌のEnterobacteriaceae菌数および占有割合は有意に減少しました。これは、ラフィノースのビフィズス菌増殖作用によるものだと考えられました。ビートはラフィノースを豊富に含むことから、腸内環境を整えることに有益であると期待されています。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110002426425
参考文献
・五明紀春 食材健康大事典 時事通信社
・食材図典 小学館
・内田正宏 芦沢正和 花図鑑野菜 星雲社
・Abdelmalek MF, Angulo P, Jorgensen RA, Sylvestre PB, Lindor KD. (2001) “Betaine, a promising new agent for patients with nonalcoholic steatohepatitis: results of a pilot study.” Am J Gastroenterol. 2001 Sep;96(9):2711-7.
・Webb AJ, Patel N, Loukogeorgakis S, Okorie M, Aboud Z, Misra S, Rashid R, Miall P, Deanfield J, Benjamin N, MacAllister R, Hobbs AJ, Ahluwalia A. (2008) “Acute blood pressure lowering, vasoprotective, and antiplatelet properties of dietary nitrate via bioconversion to nitrite.” Hypertension. 2008 Mar;51(3):784-90.
・服部 和裕、笹井 みさ、山本 明美、谷内 昇一郎、小島 崇嗣、小林 陽之助、岩本 洋、重島 智子、早澤 宏紀 (2000) “牛乳アレルギー児の腸内細菌叢とそれに及ぼすラフィノース添加カゼイン分解乳の影響” アレルギー 49(12), 1146-1155, 2000-12-30