牛肉とは?
●基本情報
牛肉は食用に加工された牛の肉のことです。黒毛和種などの肉牛品種が牛肉として加工されることが多いです。牛のほとんどすべての箇所は食べることが可能で、牛肉を使用した料理方法も数多くあります。日本では一人当たりの牛肉の年間消費量は約7kg程度と言われておりますが、アルゼンチンは日本の5倍以上の38kgが消費されています【1】。世界から見ると日本の牛肉消費量はそれほど多いものではありません。反してヒンドゥー教が国教であるインドでは、牛は「食のタブー」に触れる場合があります。ヒンドゥー教の教えで牛は家族に恵みを与えてくれる存在として重宝され、また神聖化されているため、牛を食べることは恵みの元を断つ行為になるということからヒンドゥー教徒は牛を食べません。しかし、インドに住むヒンドゥー教徒や肉を食べることを禁止している宗教以外の人は、牛肉を食べるようです。
●和牛、国産牛、輸入牛の違い
◆国産牛
日本で生まれて育てられた牛に加え、日本で飼育された期間が一番長く、日本国内で食肉用に加工される牛は外国で生まれたとしても「国産牛」と認識されます。
◆和牛
和牛は国産牛の一種ではありますが、昭和19年に日本古来の食肉専門種として認定された黒毛和種、褐毛和種、日本短角種、無角和種の4種類のみが『和牛』と認められています。牛肉には格付けがあります。美味しさの目安になり、格付けが高いほど当然金額も高くなります。牛肉の格付けには2つの等級が使われます。どれだけ無駄なく肉を取ることができるかを計る歩留まり(ぶどまり)と、脂肪交雑、肉の光沢、しまり、脂肪の質などを計る肉質等級です。歩留まりはA-B-Cの判定で、肉質等級は5-4-3-2-1の判定が下され、この2つを組み合わせて肉の格付けがなされますが、最高ランクであるA-5に評価される牛肉のほぼすべてが和牛とされています。ただし和牛の中でもA-5に判定されるのは40%前後といわれています。
◆輸入牛
輸入牛とは海外から日本に輸入された牛、もしくは牛肉のことです。生体が輸入されてから肥育期間が3か月以内のものを輸入牛といいますが、実際に生体を輸入するより肉を輸入したほうが安いため、生体で輸入されることはほとんどありません。日本でもスーパーで和牛や国産牛より安価で手に入れることができ、輸入先はアメリカ、カナダ、オーストラリア、ウルグアイなどが代表的です。
●牛肉の歴史
紀元前2万年前に書かれたと言われているフランスのラスコー壁画には、「オーロックス」という牛の祖先の狩りの様子が描かれていることから、その当時から人類は牛肉を食べていたといわれています。
また、紀元前8,000年ごろには牛が家畜化されていた痕跡があるので、人類の食の歴史に牛は大きくかかわっていると考えられるでしょう。
一方『三国志』の中の「魏志倭人伝」の中に「倭国に牛馬はいない」という記述があります。
この記述が正しいのであれば、その当時に日本には牛自体がいなかったといえます。
弥生時代に、朝鮮から来た人が牛肉を食べる文化を日本に伝えたと言われていますが、飛鳥時代には天武天皇より五畜(牛・馬・犬・猿・鶏)の肉食が禁じられたり、江戸時代には5代将軍徳川綱吉によって「生類憐みの令」で食用を禁じられた歴史があります。
しかしながら、江戸時代の他の将軍時代には健康増進の「薬」として食べられていたりしました。例えば彦根藩が薬用としてほし牛肉、みそ漬けなどに加工していました。享和3年(1803)に11代井伊尚中がそれを将軍家の「御内用」のため干し牛肉1箱献上した記録が残されています。彦根城博物館に展示されている「江戸幕府老中奉書 井伊直中宛」の手紙の中には、献上された牛肉を将軍に披露したことが奉書で伝えられています。明治の文明開化以降、牛鍋が流行したことがきっかけで広く食べられるようになり、現在では一般の食卓にも頻繁に上がる食肉となっています。
●牛肉の部位
①ネック(首の肉)
肉の味が濃厚で旨味も豊富。コラーゲンが豊富で脂肪分が少なく硬めな部位です。
②カタウデ(腕の部位)
味が濃厚でコラーゲンが含まれる。脂肪分は少ない部位です。
③ミスジ(1頭から数キロしか取れない希少部位)
腕の骨に隠れるようにあり、濃厚な味で「幻」と言われるほどの希少な部位です。
④肩ロース(最も大きな部位のひとつ)
肉質、脂質ともよく、牛肉の代表的な味わいです。
⑤リブロース(ロースの真ん中で厚い部位)
様々な料理に合うとされ、脂肪が多くきめ細かくて柔らかな肉質です。輸入牛肉の場合ビタミンEが多く含まれています。
⑥サーロイン(腰の上部の柔らかい部分)
「サーロインステーキ」という名前は有名。脂と旨味がありステーキの代名詞ともいえる部位です。
⑦ヒレ(サーロインの内側にある細長い部分)
わずかしかとれない最も柔らかい部位で、脂肪分や筋が少なく、あっさりしているのが特徴です。
⑧シャトーブリアン(牛肉の中でも最高級の部位)
ヒレの中央部の太い部分で希少価値が高く、牛肉の中で最も美しい部位と言われています。
⑨ランプとイチボ
2つあわせてランイチとも呼ばれることがあります。もも肉の特に柔らかい部分であるランプと、弾力があり柔らかいイチボはステーキに適しています。
⑩モトバラ
あばら骨の周囲の肉で柔らかく脂が多いのが特徴です。カルビとして知られている部位です。
⑪ウチモモ(内股にあたる部分)
ローストビーフなどに使われる脂肪が少ない赤身部分です。
⑫ソトモモ(モモの外側の部分)
きめが細かく硬い肉質の部位です。
⑬ シンタマ(モモの部分)
きめが細かく柔らかで脂肪が少ない部位です。
⑭ スネ(脂肪がほとんどない硬い部分)
ゼラチン質が多く味が濃厚で、脂肪がほとんどなく筋が多い部位です。煮込み料理などに使われます。
⑮ ハツ(心臓)
ビタミンB₁、B₂が豊富で、コリコリした食感を楽しめます。
⑯レバー(肝臓)
牛の肝臓で鉄分、ビタミンA、B₂も多く含まれます。
⑰ミノ(第一胃)
牛の4つの胃の中で、最も大きく肉厚で、歯ごたえがあります。特に厚い部分は「上ミノ」と呼ばれています。
⑱ハチノス(第二胃)
胃の内壁が「蜂の巣」のようにひだ状になっていることからこの名前がつけられました。
⑲センマイ(第三胃)
独特な食感があり、「千枚のひだ」があるように見えることから名づけられました。
⑳ギアラ(第四胃)
「アカセンマイ」とも呼ばれる場所です。
㉑ハラミ(横隔膜)
焼肉で人気の部位ですが、柔らかくて適度に脂肪があります。
㉒白ホルモン(小腸)
「マルチョウ」でも知られています。
㉓シマチョウ(大腸)
固い食感で、良質な脂がついています。
㉔タン(舌)
タウリンを豊富に含み、人気があります。
●牛肉に含まれる栄養成分
〇たんぱく質
人間の体を形成するためのたんぱく質は、約20種類からのアミノ酸から形成されています。そのうち人間が体内で生成することのできない9種類のアミノ酸を「必須アミノ酸」といいます。牛肉にはこの必須アミノ酸がバランスよく、そして豊富に含まれています。
〇トリプトファン
アミノ酸の一種で赤身に多く含まれています。トリプトファンは、日中は幸せホルモンとも呼ばれる脳内ホルモンセロトニンに変化します。夜になると睡眠を促すセロトニンに変化します。
〇L-カルニチン
脂肪を燃焼するミトコンドリアへと脂肪を運ぶ役割を果たしています。L-カルニチンを十分に補給することによって、体にたまっている脂肪をエネルギーとして効率良く燃焼することができます。
〇鉄
モモ肉には鉄分が多く含まれています。血液中の赤血球を作っているヘモグロビンの成分になります。血を作るうえで重要な働きをします。
〇ビタミンE
強い抗酸化作用があり、動脈硬化の予防や老化防止の働きがあります。
〇ビタミンB₁、B₂
糖質からエネルギー生産をする栄養素で、脳神経系の正常な働きを助けます。また皮膚や粘膜の健康維持を助ける働きも担っています。
〇ビタミンB₆
たんぱく質からエネルギーを生産し、筋肉や血液などが形成される際に働きます。また、皮膚炎予防の働きでも知られています。
〇ビタミンB₁₂
ビタミン₁₂は葉酸と協力して、赤血球中のヘモグロビンの生成を助けます。また脳からの指令を伝える神経を正常に保つという役割があります。
〇ビタミンK
血を止める役割と共に骨を作る手助けをします。
〇葉酸
たんぱく質や細胞を作る際に、DNAなどの核酸を合成する働きがあります。
〇パントテン酸
エネルギー生産に不可欠な酵素を助ける補酵素です。コレステロール、ホルモン、免疫抗体などの合成にも関係しています。また皮膚や粘膜の健康維持のサポートをする成分です。
〈牛肉の豆知識①〉 お肉が売っている横にある牛脂。ラードとの違い。
ステーキやすき焼きなどお肉さんやスーパーで牛肉を買うときにただで牛脂をもらえることがあります。牛脂を使用することで料理の味もコクや旨味が増すので、大目にもらう人も多いのではないでしょうか。牛脂には3種類あるって知っていましたか。
①チチカブ・・・牛の乳房にあたる部分で、クリーミーな食感です。雌牛だけが4つ持つ脂です。
②背あぶら・・・お肉の表面を覆う脂のことで、キメが細かく溶けやすい特徴があります。
③ケンネン・・・腎臓の周りを覆う脂で四角く作られている脂はほとんどのこの部分と言われています。
ラードと何が違うのかと思いますが、ラードは豚の脂を指しているので別物です。牛脂には美肌やダイエット効果もあると言われていて、料理にうまく取り込んでいくことで上手に活用していくことができます。
〈牛肉の豆知識②〉 牛肉が生で食べられるのはなぜ?
豚肉や鶏肉は火をしっかり通して食べることが推奨されていますが、牛肉に限ってはステーキの焼き加減をレアにして、食べることが多いですよね。なぜ牛肉はほかの肉と違い「しっかり火を通す」ということが言われないのでしょうか。
実は肥育環境や体質から牛肉の中に寄生虫や菌が存在しないと言われています。菌がついてしまうとされているのが牛肉の表面です。切り分けられるときにまな板や包丁から菌が移ることは考えられますが、表面を加熱してしまえば、中は安全と言えます。
ちなみにローストビーフの中は赤いですが、あれは生ではなく「ロゼ」と言われタンパク質だけが固まり、血が固まっていない状態です。
牛肉の効果
●免疫力向上
牛肉に含まれているタンパク質が免疫細胞や、免疫にかかわる酵素の材料となり、免疫力の向上が期待できます。
●疲労感解消
牛肉の中には吸収率の高いヘム鉄が豊富に含まれているので、疲労感があるときだけではなく貧血の時にも食べることがおすすめです。
●目の健康
牛肉含まれているビタミンAの主成分であるレチノールには、目の粘膜を健康に保つ働きがあります。
●精神安定効果
トリプトファン、フェニルアラニンは必須アミノ酸のひとつで、抑うつ症状を解消し精神を安定させたり、やる気を引き出すセロトニン、ドーパミン、アドレナリンを作り出すサポートをします。
●骨の健康
ビタミンKは骨の中にあるたんぱく質を活性化し骨の形成を促します。
こんな方におすすめ
○気持ちが落ち込んでいる方
○スタミナが欲しい方
○貧血気味の方
○骨粗しょう症対策をしたい方
牛肉の研究情報
食事に赤身の肉を含めることは減量に役立つ可能性があり、満腹感を得ながら体重管理をしていくことが可能です。牛肉は高品質のタンパク質の人気のある供給源であり、全体的な食事の質を向上させるさまざまな必須栄養素を提供します。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25034452/
【1】1OECD (2020), Meat consumption (indicator). doi: 10.1787/fa290fd0-en (Accessed on 17 November 2020)
https://data.oecd.org/agroutput/meat-consumption.htm#indicator-chart
参考文献
Can Meat and Meat-Products Induce Oxidative Stress?
Macho-González A, Garcimartín A, López-Oliva ME, Bastida S, Benedí J, Ros G, Nieto G, Sánchez-Muniz FJ.