アスパラギン酸とは?
●基本情報
アスパラギン酸は、アスパラガスに多く含まれるアミノ酸の一種で、体内でのエネルギー生成を促進し、疲労を回復させたり、毒性を持つアンモニアを体外へ排出する働きがあります。また、カリウム、マグネシウムなどのミネラルを細胞に運び込みます。
アスパラギン酸は、中枢神経で働く興奮系の神経伝達物質[※1]でもあり、大脳皮質や小脳、脊髄に存在し、水にやや溶けにくい性質を持っています。またコンブなどに含まれるうま味成分でもあります。
アスパラギン酸は、経口・経腸栄養剤やアミノ酸輸液などに用いられています。ヨーロッパではアスパラギン酸を多く含むアスパラガスの根が利尿剤として使用されています。
また、アスパラギン酸はアミノ酸を利用した甘味料アスパルテームの材料でもあります。アスパルテームはフェニルアラニンとアスパラギン酸が結びついたもので、砂糖の200倍の甘みがあるにも関わらず、砂糖よりもはるかにカロリーが少ないため、世界中でキャンディやチューインガム、清涼飲料水などに使用されています。
●アスパラギン酸の歴史
アスパラギン酸は、1806年に発見されたアスパラギンの加水分解物[※2]として発見され、1868年には、たんぱく質の加水分解物としても得ることができました。
●アスパラギン酸を含む食品とその性質
アスパラギン酸はアスパラガスのほか、豆類やさとうきび、牛肉などに含まれています。
また、アスパラギン酸はスポーツドリンクにも配合され、スポーツ選手のスタミナ維持に活用されています。アスパラギン酸は体内で合成することができますが、加齢とともに合成量が減少するため、食事から積極的に補う必要があります。
アスパラギン酸は熱に弱い性質があるため、食事から摂取する際は加熱しすぎないことが大切です。アスパラギン酸には、カルシウムやカリウム、マグネシウムなどのミネラルを細胞に運ぶ役割もあるため、ミネラル類と一緒に食べるとより効果的です。
●アスパラギン酸の欠乏症と過剰症
アスパラギン酸が欠乏すると、エネルギーを生み出しにくくなるため体が疲れやすくなります。さらに、アスパラギン酸の働きであるアンモニアの排出が滞ることで血中のアンモニア濃度が高まり、肝性脳症[※3]などのリスクを高めます。アスパラギン酸はたんぱく質の代謝[※4]に欠かせない成分なので、摂取すると、すぐに代謝活動で消費されると考えられています。
アスパラギン酸は過剰摂取の問題がほとんどないといわれています。
●D型アスパラギン酸とL型アスパラギン酸
アミノ酸は、構造の違いによりL型とD型の2種に分類されます。一般的に人間のたんぱく質を構成するアミノ酸は、すべてL型のアミノ酸であると考えられてきました。近年の研究結果により、紫外線などの影響でL型がD型に変化し、老化の原因のひとつとなることが明らかになっています。つまり、たんぱく質の中にD型のアミノ酸が発生すると、たんぱく質の機能低下を招くことがわかったのです。
水晶体や脳においてD型アスパラギン酸が増えると、白内障やアルツハイマー病に深く関わるといわれています。
また、アミノ酸はD型とL型で味が変わり、L型のアミノ酸は苦み、D型のアミノ酸は甘みを呈するものが多いことが知られています。中でも必須アミノ酸は苦みを呈するものが多いといわれています。そんな中、必須アミノ酸ではありませんが、体内で重要な働きをするアスパラギン酸はうま味を持つアミノ酸として、様々な食材に含まれています。
<豆知識>アミノ酸系うま味成分「アスパラギン酸」
アスパラギン酸は、昆布やチーズなどに含まれるうま味成分として有名なグルタミン酸と同様、うま味成分のひとつです。ここでいううま味とは、人間がおいしいものを食べたときに感じる感覚的なものではなく、甘み、塩味、苦み、酸味と同様の基本5味のひとつを指します。
うま味を感じさせるうま味成分には、アミノ酸系と核酸系のものがあります。アスパラギン酸は、アミノ酸系であり、その中でも酸味を含むうま味成分です。このアスパラギン酸が、日本人が古くから親しんできた発酵調味料である醤油や味噌のうま味の正体だといわれています。
[※1:神経伝達物質とは、神経細胞の興奮や抑制を他の神経細胞に伝達する物質のことです。]
[※2:加水分解物とは、化合物が水と反応することによって得られた分解物を指します。]
[※3:肝性脳症とは、肝臓の機能が低下し意識障害に陥ることです。]
[※4:代謝とは、生体内で、物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです。また、それに伴ってエネルギーが出入りすることを指します。]
アスパラギン酸の効果
●疲労回復効果
アスパラギン酸は、クエン酸回路に働きかけ、疲労のもととなる乳酸の分解を促進します。
クエン酸回路は、炭水化物(糖質)の代謝の要であり、エネルギーをつくり出す重要な機能です。クエン酸回路がうまく回らなかった場合、乳酸が蓄積し、疲労が溜まります。乳酸は筋肉疲労の原因となり、大量に蓄積されると体の冷えや頭痛などを引き起こしてしまいます。
クエン酸回路を効率的に回すには、カリウムやマグネシウムといったミネラルが必要です。仮にクエン酸回路がうまく回っていない状態で、エネルギー源となる糖質を摂取してもエネルギーをつくり出すことができません。
アスパラギン酸は、カリウムやマグネシウムを細胞に取り込みやすくし、クエン酸回路を円滑に回すことで、乳酸をエネルギーに変換し、疲労を回復させる効果を持ちます。
さらにアスパラギン酸はグリコーゲンの生成を促進します。グリコーゲンは筋肉や肝臓に蓄積し、必要な時にエネルギーに変換されるため、グリコーゲンの不足は、スタミナの低下を招きます。アスパラギン酸はこのようにエネルギー源となるグリコーゲンの生成を促すため、スタミナの向上効果にも期待されています。【1】【2】【3】
●体調を整える効果
アスパラギン酸は人間の体液のバランスを整えます。
人間の体は約50~70%が水分でできています。水分の内、約3分の2が細胞内液、約3分の1が細胞外液として存在し、両者のバランスによって体調が変化します。人間は日常でストレスが溜まったり、病気にかかると細胞内のビタミンやミネラルを消費します。その結果、体液のバランスが乱れてしまい、体調不良を起こします。アスパラギン酸は不足しているカリウム、マグネシウムを細胞の中に運び、体液のバランスを整える効果があります。さらに、アスパラギン酸の働きにより代謝が活発になり、エネルギーを効率良く産生をすることができます。
●アンモニアを解毒する作用
アスパラギン酸は尿の合成を促進する効果があり、有毒なアンモニアを体外へ排出します。
アンモニアはたんぱく質の分解によって生じ、健康な体の場合は尿中へ溶け出し、体外へ排出されます。アンモニアが体内に蓄積されると、神経伝達物質の働きが阻害され、さらには脳症などを引き起こしてしまいます。また、アンモニアは細胞の中にあり、エネルギーをつくり出す器官であるミトコンドリアの働きを衰えさせます。そのため、アンモニアの量が過剰に増えることで、エネルギーがうまくつくり出せず、疲労の蓄積や組織の老化、免疫力の低下を引き起こします。アスパラギン酸はアンモニアを排出する働きがあり、肝臓の負担を減らすといわれています。
●スキンケア効果
アスパラギン酸には肌の新陳代謝を促進し、保湿をする効果があります。
人間の肌は日々生まれ変わりを繰り返すことで、健康な状態を維持しています。この生まれ変わりを新陳代謝といいます。またアスパラギン酸は角質の水分を保持し、肌の潤いを保ちます。そのため、保湿剤や肌荒れ防止剤、皮膚コンディショニング剤[※5]にも使用されています。
[※5:皮膚コンディショニング剤とは、肌の状態を整える化粧品成分です。]
アスパラギン酸は食事やサプリメントから摂取できます
こんな食材に含まれます
○アスパラガス
○大豆もやし
○サトウキビ
○牛肉、鶏肉、豚肉などの肉類
こんな方におすすめ
○疲れやすい方
○体内の毒素を排出したい方
○美肌を目指したい方
アスパラギン酸の研究情報
【1】食事摂取後などの血糖値が高い状態のラットに、アスパラギンとアスパラギン酸を摂取させると、筋肉のグリコーゲン濃度が高まりました。また高脂肪食ラットに、アスパラギンとアスパラギン酸を摂取させると、インスリン感受性の低下を抑制しました。このことから、アスパラギンとアスパラギン酸は筋肉でのグルコース利用を高めるとともに、インスリンの感受性を維持しました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19821260
【2】ラットに激しい運動をさせる際に、事前にアスパラギン350mM 及びアスパラギン酸400mM を7日間摂取させたところ、運動疲労による筋肉と肝臓でのグリコーゲンの分解が緩やかになりました。アスパラギンとアスパラギン酸には運動疲労改善効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12660406
【3】適度な運動時に、アスパラギンとアスパラギン酸及びカルニチンを摂取すると、筋肉内での遊離脂肪酸の使用が高まり、グリコーゲンの生成が増加しました。疲労時間の短縮が見られたことから、アスパラギンには運動時の持久力維持効果が期待されます。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7716217
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15740932
参考文献
・中村丁次監修 最新版からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社
・長坂達夫 著 健康食品全書 ブレーン出版
・渡邉早苗監修 暮らしの栄養学 日本文芸社
・Marquezi ML, Roschel HA, dos Santa Costa A, Sawada LA, Lancha AH Jr. 2003 “Effect of aspartate and asparagine supplementation on fatigue determinants in intense exercise.” Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2003 Mar;13(1):65-75.
・Yokohira M, Hosokawa K, Yamakawa K, Hashimoto N, Suzuki S, Matsuda Y, Saoo K, Kuno T, Imaida K. 2008 “A 90-day toxicity study of L-asparagine, a food additive, in F344 rats.” Food Chem Toxicol. 2008 Jul;46(7):2568-72.
・Lancha AH Jr, Recco MB, Abdalla DS, Curi R. 1995 “Effect of aspartate, asparagine, and carnitine supplementation in the diet on metabolism of skeletal muscle during a moderate exercise.” Physiol Behav. 1995 Feb;57(2):367-71.
・Franzoni F, Santoro G, Carpi A, Da Prato F, Bartolomucci F, Femia FR, Prattichizzo F, Galetta F. 2005 “Antihypertensive effect of oral potassium aspartate supplementation in mild to moderate arterial hypertension.” Biomed Pharmacother. 2005 Jan-Feb;59(1-2):25-9.