葛とは?
●基本情報
葛とは、マメ科のつる植物で半低木性の多年草[※1]です。
主に日当たりの良い山野に生育しており、日本から中国、東南アジアに多く分布しています。
「秋の七草[※2]」のひとつに数えられ、夏から秋にかけて美しい紅紫色の花を咲かせます。
●葛(クズ)の利用法
葛は昔から根や葉、花、つるにいたるまで全ての部分が利用される植物です。
根や葉、花は薬効を求めて生薬や食品として使われてきました。
土の中にある葛の根には、大量のでんぷんが含まれています。葛の根から繊維質を取り除き、純粋にでんぷんだけを取り出して乾燥させたものが一般に葛粉(くずこ)、または葛でんぷんと呼ばれています。昔はでんぷんといえば葛でんぷんと考えられていましたが、最近では生産量が少なくなり、病人食や高級菓子に使われている程度です。葛粉をお湯に溶かした葛湯(くずゆ)は、滋養食として現在でも親しまれています。
葛の根は葛根(かっこん)という生薬名でも取り扱われており、多くの漢方薬に配合されています。中でも風邪などの症状が出た際に飲まれる「葛根湯(かっこんとう)」がよく知られています。
葛の花を乾燥させたものは、生薬名で葛花(かっか)と呼ばれています。
葛花は「酒毒(しゅどく)を消す」といわれ、二日酔いの予防や解消のために日本や中国、台湾、アジア諸国で用いられてきました。中国の「名医別録(めいいべつろく)[※3]」には「葛の花は酒を消す」と記され、日本の「救民妙薬(きゅうみんみょうやく)[※4]」にも「酒毒には、葛の花」と記録されていることから、古くから葛の花が持つ薬効が知られていることがわかります。
他にも、葛の青葉を搾ってつくる青葉汁は切り傷の回復や糖尿病の改善に、新芽を水で煮出してつくる新芽茶は養毛効果に良いとされています。
葛は食用としても幅広く利用されています。若葉や新芽は生のまま天ぷらや炒め物にされたり、塩茹でして和え物や酢の物として食べられています。葛の花やつぼみは、漬け物や葛の花ご飯、酵母、花酒、花酢など様々に利用されています。
また、葛のつるの部分は編んでかごなどに利用されます。
<豆知識>和菓子に利用される葛粉
葛粉は和菓子の材料としても古くから親しまれています。葛粉を溶かしたものは固まると半透明、もしくは透明になります。その涼しげな見た目から、特に夏の和菓子の材料として重宝されています。
●葛(クズ)に含まれる成分
葛の花にはイソフラボンとサポニンが含まれています。
植物由来のエストロゲン[※5]とも呼ばれるイソフラボンは、女性ホルモンの一種であるエストロゲンと同様の働きをするため、更年期障害や骨粗しょう症[※6]の予防・改善に効果的であるといわれています。エストロゲンが過剰に分泌された場合には、イソフラボンがエストロゲン受容体[※7]に結合し、エストロゲンの働きを抑えます。また、グルコース(ブドウ糖)を脂肪に変換させにくくする働きもあるとされています。
サポニンは、大豆や高麗人参などにも含まれる渋みや苦みの主成分です。
サポニンには血管についたコレステロールを除去したり、血中脂質を減らす働きがあることから、動脈硬化を進める過酸化脂質[※8]の生成を抑制する効果が期待されています。
イソフラボンとサポニンのダブルの効果で体の中の脂肪代謝が活発になり、脂肪が溜まりにくい体をつくることができるといわれています。
またイソフラボンとサポニンは、二日酔いの原因物質とされるアセトアルデヒド[※9]の代謝や排泄にも大きく関わっているといわれています。
葛の根の部分は医薬品として扱われています。
長期にわたって使用する場合に関しては、薬剤師や医師に相談してください。
また、妊娠中の方が、大量に摂取した場合の安全性は確認されていませんので、大量摂取は控えてください。
[※1:多年草とは、茎の一部、地下茎、根などが枯れずに残り、複数年にわたって生存する草のことです。]
[※2:秋の七草とは、萩(ハギ)、尾花(オバナ)、葛(クズ)、撫子(ナデシコ)、女郎花(オミナエシ)、藤袴(フジバカマ)、桔梗の七草を指します。「春の七草」は無病息災を願って七草粥として食されますが、「秋の七草」は観賞用として使用されます。]
[※3:名医別録とは、生薬について書かれた漢方の古典書物のことです。陶弘景によってつくられました。]
[※4:救民妙薬とは、水戸黄門こと水戸光圀公が、水戸藩の藩医であった穂積甫庵に命じて編集させた薬草の処方を記した書物のことです。]
[※5:エストロゲンとは、女性ホルモンの一種で、卵胞や黄体から分泌される女性らしい体つきを促進するホルモンのことです。]
[※6:骨粗しょう症とは、骨からカルシウムが極度に減少することで、骨の内部がスカスカになった症状であり、非常に骨折しやすくなることで知られています。高齢者に多い症状で、日本では約1000万人の患者がいるといわれており、高齢者が寝たきりになる原因のひとつです。]
[※7:受容体とは、細胞表面や内部に存在している物質です。ホルモン・神経伝達物質・ウイルスなどと結合することにより、細胞の機能に影響を与えます。]
[※8:過酸化脂質とは、コレステロールや中性脂肪などの脂質が活性酸素によって酸化されたものの総称です。]
[※9:アセトアルデヒドとは、アルコールのもとであるエタノールが酸化されてできる物質で、肝機能にとって障害となります。]
葛の効果
葛にはイソフラボンとサポニンが豊富に含まれるため、以下のような健康に対する効果が期待できます。
●更年期障害の症状を改善する効果
葛の花にはイソフラボンが多く含まれています。イソフラボンとは大豆胚芽に多く含まれるポリフェノールの一種で、女性ホルモンであるエストロゲンと同じような働きを持つ成分です。
エストロゲンには女性に月経をもたらし、女性らしい体つきや美しい肌をつくる働きがあります。また骨からカルシウムが溶け出すことを抑える働きも持ち、骨密度の維持やイライラの解消にも効果的であると考えられています。更年期のイライラやのぼせ、肩こり、冷え、肌荒れといった不調は、エストロゲンの減少が大きな要因であると考えられています。イソフラボンが年齢とともに減少するエストロゲンの作用を補って働くことから、更年期の症状の予防・改善が期待されています。
また、善玉(HDL)コレステロールの生成を助ける働きや、アテローム性動脈硬化[※10]の原因となる悪玉(LDL)コレステロールの酸化を抑制する抗酸化作用も持ち、動脈硬化や高脂血症[※11]を予防するといわれています。【1】【4】
●骨粗しょう症を予防する効果
葛に含まれるエストロゲンには、カルシウムが骨から過剰に溶け出すことを防ぐ働きがあります。更年期になるとエストロゲンが減少するため、徐々にカルシウムが失われていき、骨粗しょう症の発症リスクが高まります。
葛の花に含まれるイソフラボンにより、カルシウムが溶け出す量をコントロールするエストロゲンの働きがサポートされるため、骨粗しょう症の予防に期待ができます。
また、イソフラボンは骨密度の低下を防ぐだけでなく、骨密度を高める働きもあります。イソフラボンの摂取量が多い人は骨密度が高いという調査報告も出ています。【1】
●血流を改善する効果
葛の花に多く含まれるサポニンには血液中のコレステロールや脂質を運んで血流を改善する効果があります。葛の根には血行を促進させる働きがあり、風邪の時や胃腸が弱っている時などに利用されます。寒気や熱を下げるとされ、よく感冒薬(風邪薬)に配合されています。【2】【5】【6】
●ダイエット効果
葛の花に含まれるサポニンには、脂肪の吸収を阻止するダイエット効果が期待できます。
食事から摂った栄養素はグルコースに変換され、体脂肪として体内に蓄えられます。サポニンには脂肪の蓄積を防ぐ働きがあるので、ダイエット効果が期待できます。【5】【7】
●肝機能を高める効果
クズの花は昔から生薬として肝臓の健康に役立てられてきました。花を煎じて服用すれば、二日酔いをはじめとする酒毒に効果があるとされていました。
近年の研究で、クズの花の摂取によって肝臓のダメージを示すGOT,GPTの値を改善するほか、アルコール依存症の予防にも役立つという研究も報告されています。【3】
[※10:アテローム性動脈硬化とは、動脈硬化の一種です。長い年月の間に血液中の脂肪やコレステロールなどが蝋(ろう)のように動脈の内側に蓄積し、血管を詰まらせることで起こります。初期段階では自覚症状はありませんが、脳梗塞や心筋梗塞などの原因となる疾病といわれています。]
[※11:高脂血症とは、血液中に溶けているコレステロールや中性脂肪値が必要量よりも異常に多い状態のことです。コレステロールは過剰になると体に障害をもたらします。糖尿病と同様に自覚症状に乏しく、動脈硬化によって重篤な病気を引き起こすのが特徴です。]
葛はこんな方におすすめ
○更年期障害でお悩みの方
○イライラしやすい方
○肩こりでお悩みの方
○血流を改善したい方
○骨を強化したい方
○肥満を防ぎたい方
○肝臓の健康を保ちたい方
葛の研究情報
【1】卵巣摘出更年期障害マウスに、葛抽出物を1日当たり20mg/kg の量で8週間摂取させたところ、骨吸収マーカー、破骨細胞が減少し、大腿骨の骨密度減少を抑制しました。葛抽出物にはダイゼインをはじめとするイソフラボンが含まれており、更年期障害予防が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22053809
【2】葛の根は葛根と呼ばれ、発熱、急性赤痢症、下痢、糖尿病および心血管疾患治療のための漢方薬として使用されています。葛にはポリフェノール成分としてイソフラボンおよびトリテルペノイドが含まれており、上記の薬理効果を示すことが知られており、葛の糖尿病予防と心血管疾患の予防効果が高く評価されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21315814
【3】葛の蔓より抽出されたポリフェノール成分ダイゼインは、ミトコンドリアにあるアルコールを代謝する酵素、アルコールデヒドロゲナーゼ(ALDH)の阻害作用を持っています。葛にアルコール依存症改善効果に役立つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18613661
【4】ラットに、葛抽出物を7日間にわたり摂取させたところ、ラットの乳房や子宮の重量が増加し、血中のエストロゲン、LH(黄体形成ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)が増加し、プロラクチン(PRL)が減少しました。この結果より、葛には女性ホルモンに似たはたらきがあることが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15015341
【5】卵巣摘出更年期障害ハムスターならびに去勢雄性ハムスター計37匹に、葛を1日30mg/kg の量で摂取させたところ、HDLに影響を与えずに、血中総コレステロールやLDLコレステロールを低下させることが確認されました。葛に含まれる植物性エストロゲンには、HDLコレステロールとLDLコレステロールのバランスを整える働きが知られており、葛に高脂血症予防効果や動脈硬化予防効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16787047
【6】葛根には植物性エストロゲンが含まれています。卵巣摘出ウサギに、葛根を1日当たり100mg/kg の量で90日間摂取させたところ、血管内皮細胞や血圧に関わる一酸化窒素(NO)に作用して、心血管機能を強化するはたらきが示唆されました。葛に閉経後女性に対する高血圧予防効果や心血管機能強化効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10050562
【7】高脂肪食摂取肥満ウサギに、植物性エストロゲン豊富な葛を摂取させると、高脂肪食による腹部脂肪の蓄積を抑制され、体重増加も抑制されました。反面、乳房や子宮には関与せず、葛は腹部脂肪に選択的に作用しました。葛に閉経後女性の肥満予防効果に役立つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22163294
参考文献
・NPO日本サプリメント協会 サプリメント健康バイブル 小学館
・中村丁次監修 最新版からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社
・吉田企世子 松田早苗 あたらしい栄養学 高橋書店
・Wong KH, Li GQ, Li KM, Razmovski-Naumovski V, Chan K. 2011 “Kudzu root: traditional uses and potential medicinal benefits in diabetes and cardiovascular diseases.” J Ethnopharmacol. 2011 Apr 12;134(3):584-607.
・Lowe ED, Gao GY, Johnson LN, Keung WM. 2008 “Structure of daidzin, a naturally occurring anti-alcohol-addiction agent, in complex with human mitochondrial aldehyde dehydrogenase.” J Med Chem. 2008 Aug 14;51(15):4482-7.
・Xue XO, Jin H, Niu JZ, Wang JF. 2003 “Effects of extracts of root of kudzu vine on mammary gland and uterus development in rats.” Zhongguo Zhong Yao Za Zhi. 2003 Jun;28(6):560-2.
・Guan L, Yeung SY, Huang Y, Chen ZY. 2006 “Both soybean and kudzu phytoestrogens modify favorably the blood lipoprotein profile in ovariectomized and castrated hamsters.” J Agric Food Chem. 2006 Jun 28;54(13):4907-12.
・Wattanapitayakul SK, Chularojmontri L, Srichirat S. 2005 “Effects of Pueraria mirifica on vascular function of ovariectomized rabbits.” J Med Assoc Thai. 2005 Jun;88 Suppl 1:S21-9.
・Saunier EF, Vivar OI, Rubenstein A, Zhao X, Olshansky M, Baggett S, Staub RE, Tagliaferri M, Cohen I, Speed TP, Baxter JD, Leitman DC. 2011 “Estrogenic plant extracts reverse weight gain and fat accumulation without causing mammary gland or uterine proliferation.” PLoS One. 2011;6(12):e28333.