アルギニンとは?
●基本情報
アルギニンとは、1886年にルピナスというマメ科の植物の芽から発見された非必須アミノ酸[※1]の一種です。
成長ホルモンの分泌を促進し、筋肉組織を強くしたり、免疫力を高め、さらにアンモニアを解毒する効果があります。
アルギニンは体内で合成できますが、生成能力が十分でなく、不足分を摂取する必要があるため、準必須アミノ酸ともよばれます。子どもの場合はアルギニンを必要量つくりだすことができないため、十分に食事から摂取する必要があります。
●アルギニンの効果的な摂取方法
アルギニンは鶏肉、大豆、高野豆腐などに含まれていますが、胃腸が弱い方が過剰に摂取すると、まれにお腹がゆるくなります。
また、アルギニンをより効果的に摂取するためには、クエン酸などを含む柑橘系や酢の物、またビタミンB₆を含むカツオやマグロと一緒に摂取したほうが良いといわれています。
●アルギニンの過剰症・欠乏症
アルギニンはアルカリ性のため、過剰に摂取すると弱酸性の消化器官に悪影響を及ぼし、胃腸が弱っている場合は下痢を引き起こす危険性があります。
また、成長ホルモンの分泌を促すことから成長期の子どもが過剰に摂取すると巨人症[※2]になる恐れがあります。
アレルギーや気管炎症[※3]、ぜんそく、肝硬変[※4]、ヘルペス[※5]、統合失調症の方は注意して摂取する必要があります。
アルギニンが不足すると、体の成長が阻害されるだけでなく、動脈硬化などの生活習慣病の危険性が高まります。
●界面活性剤としてのアルギニン
アルギニンはシャンプーなどに含まれる界面活性剤としても活用されています。
界面活性剤は水と油を混ざりやすくする働きがあるため、水に溶けにくい汚れを落とす洗剤に使用されています。
分子構造として水になじみやすい親水基と油になじみやすい疎水基をもちます。
水に溶けにくい汚れに疎水基が吸着し、中心に疎水基、外側に親水基の状態になった球状の塊(ミセル)をつくることで汚れを包み込むため、界面活性剤は洗浄力を発揮します。
従来の界面活性剤は、洗浄力が強すぎるため、皮膚のアミノ酸やセラミドまで洗い流してしまい肌荒れの原因になっていましたが、アルギニンはもともと皮膚に存在しているため、肌を傷つけることなくしっとりと洗い上げるということから注目されています。
[※1:体内で合成が可能なアミノ酸のことです。グリシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、アルギニン、システイン、チロシン、プロリンの11種類が存在します。]
[※2:巨人症とは、標準のヒトより著しく高い身長となる症状です。]
[※3:気管炎症とは、激しいせきやたんが出ることで、ぜんそくの原因とされる症状のことです。]
[※4:肝硬変とは、肝臓が固くなり、本来の機能がきわめて減衰した状態のことです。]
[※5:ヘルペスとは、皮膚が赤くなり水泡ができる状態のことです。]
アルギニンの効果
●成長ホルモンの分泌を促進する効果
アルギニンは、成長ホルモンの分泌を促す効果があります。
成長ホルモンは脳下垂体[※6]から分泌され、病気への抵抗力を高めたり、体の傷を早く治す効果があります。
また、成長ホルモンには食欲を抑えるはたらきがあるため、食欲抑制剤としても利用されています。
さらに、成長ホルモンは脂肪の代謝を促進し、筋肉を増強させる効果があります。
このはたらきから、趣味で筋トレをされる方やボディビルダーの間で、アルギニンは栄養補助剤としても活用されています。
アルギニンのほかにも、オルニチン、トリプトファン、グリシン、チロシンなどのアミノ酸も成長ホルモンの分泌を促進します。
●免疫力を高める効果
アルギニンは、マクロファージとよばれる免疫細胞を活性化させる働きがあります。
マクロファージは、体に侵入してきた細菌やウイルスなどを処理する白血球の一種です。
免疫力が向上することで、病気に負けない強い体をつくり出します。
また、アルギニンは細胞の増殖や、組織の修復に欠かせない物質であるポリアミンを合成し、傷の治癒に重要な成分の合成にも関わります。手術後の回復を促進し、感染症の合併の発症率を低下するものとしてアルギニンが配合された輸液が利用されています。
また、経腸栄養[※7]での研究も進められており、アルギニンにω(オメガ)-3系の脂肪酸や核酸を加えた経腸栄養剤が手術後の感染から体を守る効果があることがわかっています。
●アンモニアの解毒効果
アルギニンは肝臓でアンモニアを代謝する「オルニチン回路」に関わり、アンモニアを解毒するはたらきがあります。
「オルニチン回路」とは、アンモニアが肝臓に存在するオルニチンと反応しアルギニンに変化した後、無毒化された尿素とオルニチンに分かれる代謝回路のことです。
オルニチン回路はエネルギーをつくり出すクエン酸回路[※8]の働きをサポートし、アンモニアを解毒することによって肝機能を正常にします。
ラットにアルギニンを与えたところ、血中アンモニア濃度が低下したという実験結果もあります。
また、運動による血中アンモニア濃度の上昇が、アルギニンとグルタミン酸を経口摂取することで抑制できるということが実験から明らかとなり、アルギニンは運動時の疲労感を引き起こすアンモニアを抑制する可能性があることがわかりました。
●血流を改善する効果
アルギニンは体内で一酸化窒素をつくり出します。一酸化窒素は体循環や腎循環、血圧の調整などの重要なはたらきをします。
一酸化窒素は血管を拡張し、血流をスムーズにすることで動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞などの予防効果が期待されています。
アルギニンを静脈に注射すると、血管が拡張し血圧が低下するという実験結果もあります。
また、高脂血症の状態にしたウサギにアルギニンを投与すると、一酸化窒素が増加したことがわかりました。【2】
●スキンケア効果
アルギニンには肌を保湿する効果があります。
肌は表面から角質層、表皮層、真皮層に分かれており、肌が乾燥している状態とは、角質層の水分が不足していることを指します。角質層の水分は、NMF(Natural Moisturizing Factor)という天然保湿成分によって潤いが保たれ、NMFの約40%をアミノ酸が占めており、アルギニンには角質層を保湿する効果があることがわかっています。
アルギニンの保湿効果を調べるため、保湿や角質除去に役立つといわれている尿素入りのクリームに、アルギニンを配合したもの、配合していないもので実験をしました。
それぞれのクリームを21日間使用してもらい肌の状態を比較すると、アルギニンが配合されているクリームを使用したグループの肌荒れが、大幅に改善されたということがわかりました。
このことから、アルギニンに肌の再生を促す効果があるということが考えられます。
さらに、アルギニンは毛髪へ与える刺激が少ないことから、パーマ液にも使用されています。
アルギニンは、従来のパーマ液に使用されていたアンモニアに比べ、刺激臭が少なく、毛髪にゆっくりとなじむといわれています。その上、アルギニンの誘導体[※9]が毛髪の水分量を増やし、くし通りを向上させたということも判明しています。
[※6:脳下垂体とは、視床下部近くに存在し、多数のホルモンを分泌する器官のことです。]
[※7:経腸栄養とは、経口摂取が不十分、あるいは不可能な患者に対して、チューブを用いて腸に直接栄養素を注入する治療法です。]
[※8:クエン酸回路とは、体内に入った食物を燃焼させエネルギーをつくり出す、一連の流れのことです。]
[※9:誘導体とは、母体となる有機化合物の構造や性質を大幅に変えない程度の改変が成された化合物の総称です。]
アルギニンは食事やサプリメントで摂取できます
アルギニンを多く含む食品
○鶏肉
○大豆
○高野豆腐
○えび
○ごま
○ナッツ類
○牛乳
こんな方におすすめ
○生活習慣病を予防したい方
○スポーツや筋トレをされる方
○免疫力を向上させたい方
○成長期のお子様
○美肌を目指したい方
アルギニンの研究情報
【1】うっ血性心疾患に対して、二重盲検クロスオーバー試験において、17人の被験者にL-アルギニンを15g/日経口摂取させると、糸球体ろ過率、クレアチニンクリアランスなど腎臓の機能が改善したという報告があります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10694193
【2】アルギニンの経口摂取は、内皮細胞でのNOの生合成を増加させ、血圧が健常および軽度の高血圧患者でII型糖尿病患者の収縮期血圧、拡張期血圧を低下させたという報告がされています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12356784
【3】間質性膀胱炎の患者に6ヵ月間にわたってL-アルギニンを1500mg/日摂取させることで、窒素酸化物(NO)に関連する酵素と尿代謝が増加し、痛みの症状の改善に有効性が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9366309
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12903885
【5】狭心症もしくは心筋梗塞治療後の患者22名に対して、アルギニンを経口で投与させたところ、狭心症に対して有効性が示唆されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9264427
【6】1週間にわたってL-アルギニンを7g摂取させる臨床試験の結果、L-アルギニンの補給は、糖尿病合併症の治療のために不可欠なツールである可能性が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22763798
【7】2ヵ月にわたり、経口的にL-アルギニンを補給し、空腹時グルコース、HbA1c、NOおよび全抗酸化状態(TAS)について影響を評価した結果、L-アルギニンの経口摂取はNO濃度およびTASレベルを増加させ、間接的な抗酸化効果があることが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22530351
参考文献
・伊能正浩 毛髪とアミノ酸 Ajico News No.204
・林直樹 アミノ酸と経腸栄養 Ajico News No.220
・馬渡一徳 アミノ酸の生理機能 Ajico News No.206
・船山信次 アミノ酸 タンパク質と生命活動の化学 東京電機大学出版局
・中村丁次監修 最新版からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社
・清水俊雄 機能性食品素材便覧 特定保健用食品からサプリメント・健康食品まで 薬事日報社
・田中平三 健康食品のすべて-ナチュラルメディシンデータベース- 同文書院
・Watanabe G, Tomiyama H, Doba N. 2000 “Effects of oral administration of L-arginine on renal function in patients with heart failure.” J Hypertens. 2000 Feb;18(2):229-34.
・Huynh NT, Tayek JA. 2002 “Oral arginine reduces systemic blood pressure in type 2 diabetes: its potential role in nitric oxide generation.” J Am Coll Nutr. 2002 Oct;21(5):422-7.
・Wheeler MA, Smith SD, Saito N, Foster HE Jr, Weiss RM. 1997 “Effect of long-term oral L-arginine on the nitric oxide synthase pathway in the urine from patients with interstitial cystitis.” J Urol. 1997 Dec;158(6):2045-50.
・Wang YY, Shang HF, Lai YN, Yeh SL. 2003 “Arginine supplementation enhances peritoneal macrophage phagocytic activity in rats with gut-derived sepsis.” JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2003 Jul-Aug;27(4):235-40.
・Ceremuzyński L, Chamiec T, Herbaczyńska-Cedro K. 1997 “Effect of supplemental oral L-arginine on exercise capacity in patients with stable angina pectoris.” Am J Cardiol. 1997 Aug 1;80(3):331-3.
・Fayh AP, Krause M, Rodrigues-Krause J, Ribeiro JL, Ribeiro JP, Friedman R, Moreira JC, Reischak-Oliveira A. 2012 “Effects of L: -arginine supplementation on blood flow, oxidative stress status and exercise responses in young adults with uncomplicated type I diabetes.” Eur J Nutr. 2012 Jul 6.
・Jabłecka A, Bogdański P, Balcer N, Cieślewicz A, Skołuda A, Musialik K 2012 “The effect of oral L-arginine supplementation on fasting glucose, HbA1c, nitric oxide and total antioxidant status in diabetic patients with atherosclerotic peripheral arterial disease of lower extremities.” Eur Rev Med Pharmacol Sci. 2012 Mar;16(3):342-50.