アンセリン

anserine

アンセリンは、動物の筋肉中に含まれているペプチドの一種で、2種類のアミノ酸が結びついた構造をしています。乳酸の分解を促し、持久力を高める働きがあります。海を泳ぎ続ける回遊魚にも多く存在する成分で、長時間運動をする時に、運動能力が向上するといわれています。

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アンセリンとは?

●基本情報
アンセリンは2つのアミノ酸、β-アラニン[※1]とメチルヒスチジン[※2]が結合したイミダゾールペプチドの一種です。アンセリンはまぐろやかつおなどの回遊魚の身に多く含まれており、回遊魚がずっと泳ぎ続けることができるのは、持久力の維持効果が期待できるアンセリンによるものと考えられます。海洋生物ではまぐろ、かつお、さけ、サメなどに、陸上動物では鳥類の筋肉に多く含まれており、もともとうま味成分に深く関係している物質として注目されていました。アンセリンは、乳酸の分解をスムーズにし、疲労回復や蓄積を防ぐ効果が期待されています。また、体内の老廃物である尿酸[※3]をつくりすぎないように抑えたり、体外へ排出を促したりという調節を行っています。

●アンセリンの歴史
アンセリンは1929年に動物の筋肉組織から発見された動物由来の成分です。動物のエネルギー消費が活発な組織に多く存在しています。人間や豚、牛、馬などは同じ仲間のイミダゾールペプチドの中でもカルノシンが多く、ウサギや羊などではアンセリンの比率が増え、カルノシンとアンセリンはほぼ同量になり、ニワトリなどの鳥類ではアンセリンの比率がカルノシンの2~3倍になります。
まぐろなどの大型回遊魚の魚類になると、アンセリンの含有量が大半を占めます。
アンセリンは抗酸化剤としての効果があり、激しい運動や酸素消費の高い脳や筋肉の組織を保護する作用や抗疲労作用があり、重要な生理機能を持つものと考えられてきました。抗酸化作用には老化を抑制する働きもあり、期待が高まっています。

●アンセリンの構造と効果
アミノ酸は、たんぱく質のもととなる大切な栄養素です。食事から摂取したアミノ酸は、体内でたんぱく質に合成されて、肌や筋肉、臓器をつくる材料とされます。その重要なアミノ酸の小さな集合体であるアンセリンは、疲労回復効果が高いと期待されているペプチドです。まぐろやかつおが、海中を時速60kmで泳ぎ続けられる理由は、筋肉中にアンセリンを多く含んでいるためと考えられています。アンセリンは、体を動かすためのエネルギーをつくる時に一緒に発生する乳酸を抑える働きを持ち、疲れを回復させてくれます。特にスポーツをするとき、私たちの体は普段よりも酸素が必要となり激しい運動をすると、酸素不足に陥ります。筋肉に含まれ、エネルギーをつくるグリコーゲン[※4]からは、酸素が少ない時ほど乳酸が生成されるため、疲れが溜まりやすくなります。アンセリンを継続的に摂取することで、日常的に感じる疲労感が軽減されます。
また、アンセリンは尿酸値のコントロールが可能であると期待されています。体内の細胞の老廃物である尿酸は、ビールなどに含まれるプリン体[※5]という核酸を構成する成分が分解されて生成されます。尿酸が体内に溜まりすぎると、痛風[※6]の原因になるといわれています。
アンセリンは、余分な尿酸をつくる前に、もう一度プリン体に戻す働きを促すので、尿酸の大量生成を防ぎます。また、余分な尿酸が尿や便、汗となって体外へ排出するように働きかけます。アルコールが好きな方は、特に必要な成分といえます。
プリン体は、食品から摂取するもののほかに、細胞の代謝やエネルギー代謝の過程でもつくられます。このプリン体を経て、最終的に代謝物の残りカスである尿酸にまで分解されます。
尿酸値が高いほど痛風になりやすいことは知られていますが、その他にも、腎不全や尿路結石などを誘発したり、動脈硬化、心筋梗塞、高血圧など様々な生活習慣病との合併症にも注意が必要です。2007年にアメリカで行われた調査では、尿酸値が高いほどメタボリックシンドロームの発症リスクを高めることが報告されました。
アンセリンとよく似た構造を持つイミダゾールペプチドとしてカルノシンがありますが、どちらも運動能力維持にとても役立つ成分です。イミダゾールペプチドは、私たちの筋肉の中でもつくり出される物質で、活性酸素を抑える働きがある成分です。

[※1:β-アラニンとは、天然に生成するアミノ酸のひとつです。体内ではペプチド構成分子などに由来します。]
[※2:メチルヒスチジンとは、アミノ酸の一種で、筋肉中に存在します。]
[※3:尿酸とは、プリン体という物質であり、体内の細胞の老廃物のことです。]
[※4:グリコーゲンとは、動物の体内でエネルギーを一時的に保存しておくための物質のことです。エネルギーに変換されやすい栄養素であるブドウ糖がたくさんつながった構造になっています。]
[※5:プリン体とは、細胞の核を構成する成分のことで、多くの食品に含まれています。 語源はラテン語の「プリンヌクレオチド」に由来しています。]
[※6:痛風とは、血液中の尿酸値が高くなった高尿酸血症から急性の関節炎を起こす疾患群の総称です。足の親指の付け根の関節が赤く腫れて痛みだし、激痛を伴うのが特徴です。]

アンセリンの効果

アンセリンには活性酸素を抑える働きや運動能力を向上させる効果がありますが、一番の特徴は、乳酸の分解をスムーズに働きかけ、また、尿酸値をコントロールすることです。

●疲労回復効果
アンセリンは2つのアミノ酸が結合したイミダゾールペプチドの一種です。イミダゾールペプチドは、筋肉の中でつくり出される物質で、活性酸素[※7]を抑える働きがあります。体内の活性酸素の発生を抑えれば、疲労が抑えられるという報告もあります。
アンセリンは活性酸素の有害作用を抑える抗酸化効果があるため、疲労回復効果に優れています。また、アンセリンの乳酸分解への作用も疲労回復につながるとされています

●運動能力を向上させる効果
アンセリンは持久力を高める働きがあります。長距離を泳ぎ続ける回遊魚や何千kmも飛び続ける渡り鳥の翼の付け根にも含まれています。長時間運動する際には欠かせない成分で、持久力や運動能力の向上効果があります。日頃から摂取しておくことが大切です。【1】

●痛風を予防・改善する効果
痛風は、体内で尿酸が蓄積することにより引き起こされます。尿酸は血液に溶けにくい性質があるため、体内で尿酸濃度が高い状態が続くと溶けずに、関節などに溜まって結晶化します。その結晶が何らかの刺激によって剥がれ落ちると、白血球が剥がれた結晶を異物と認識して攻撃します。その結果、炎症が起こり、痛みが生じます。体内に蓄積されて痛風を引き起こす尿酸は、プリン体からつくられます。プリン体は、食品から摂取するほかに、細胞の代謝やエネルギー代謝の過程でもつくられます。尿酸値を下げるためには、食事からのプリン体摂取を控えることが大切ですが、体内で産生されるプリン体の方が多いことがわかっています。このような私たちの体に必要なのがアンセリンです。
アンセリンは、尿酸の生成を抑え、つくられすぎてしまった尿酸の体外への排泄を促進し、尿酸値を下げる効果があります。再利用酵素と呼ばれる「HPRT(ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ)」[※8]という酵素の量を増やすことにより、プリン体が分解されて尿酸になる前にもう一度、プリン体に戻すことで、尿酸がつくられすぎるのを防ぐのです。
また、過度の飲酒や疲労により体内に乳酸が溜まると、尿酸は排泄されにくくなります。
アンセリンは、乳酸を代謝する「LDH(乳酸脱水素酵素)」[※9]の量を増やし、体内で発生する乳酸の分解にスムーズに働きかけることで、尿酸の排泄を促すと考えられます。したがって、アンセリンは痛風の予防・改善効果があると注目されています。【2】

<豆知識①>「風が吹くだけでも痛い!」から痛風。
痛風は中高年だけの病気ではありません。近年は低年齢化して、30歳代の男性に急増してきました。全国で痛風のため通院している人は、予備軍を含めて90万人もいるとされています。痛風は風が吹いても痛いといわれるほどの激痛が特徴です。一度かかると完治しにくく、食事制限をきっちり行うなど生活習慣から改善していく必要があります。慢性化すると、痛みだけでなく、虚血性心疾患、脳卒中などを招く原因にもなりかねません。プリン体を控えて予防することが大切です。今は、男性だけでなくビールが好きな女性も増加しています。また、ビール以外にも、たらこやイクラなどの魚卵、鶏のレバーに多く含まれており、人の体内でも生産されます。したがって、意識的なアンセリンの摂取は大変重要です。食生活からの摂取だけでは難しいので、サプリメントで補うことが大切です。

●アンチエイジング効果
活性酸素を抑える働きがあるため、疲労感を軽減するとともに、体や肌を若々しく保つアンチエイジング効果もあります。

●生活習慣病を予防する効果
血中の尿酸値が高くなると腎不全、尿路結石、動脈硬化、心筋梗塞、高血圧など、様々な生活習慣病にかかりやすいことがわかってきています。また、メタボリックシンドロームの発症リスクも高めると報告されています。尿酸値がコントロールできるアンセリンは多くの生活習慣病の予防効果があります。

[※7:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応性が増すことで強い酸化力を持った酸素のことです。紫外線やストレスなどにより体内で過剰に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるとされます。]
[※8:HPRT(ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ)とは、プリン体代謝経路で、再利用に働く酵素のことです。]
[※9:LDH(乳酸脱水素酵素)とは、植物および動物を含む多くの有機体に存在する酵素のひとつで、糖を分解してエネルギーを産生する時に働きます。]

アンセリンは食事やサプリメントで摂取できます

アンセリンを含む食品

○まぐろ
○かつお
○さけ
○鶏肉

こんな方におすすめ

○疲労を回復したい方
○スポーツをする方
○運動能力を向上したい方
○痛風の方
○いつまでも若々しくいたい方
○生活習慣病を予防したい方

アンセリンの研究情報

【1】老化促進マウスに、クレアチンを摂取させ、10, 25, 60週齢の骨格筋中のアンセリンとカルノシンの量を比較したところ、25週齢において、筋肉中のアンセリンとカルノシンの濃度が増加しました。また筋肉疲労や筋肉回復力においても改善が見られました。しかし50週齢においては認められませんでした。運動機能に対するクレアチニン補給は有益であり、アンセリンとカルノシンの増加とそれに伴う筋肉疲労の軽減と回復力の向上が関連していると考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18593282

【2】マウスにアンセリンを摂取させた後運動機能を調査したところ、遊泳時間や懸垂時間の延長が確認され、筋肉疲労の度合いである血中乳酸値の増加が抑制されたことから、アンセリンには運動時の持続力向上と筋肉疲労の軽減に役立つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17827735

参考文献

・中嶋 洋子 著、阿部 芳子、蒲原 聖可監修 完全図解版 食べ物栄養事典 主婦の友社

・田中平三 健康食品のすべて-ナチュラルメディシンデータベース- 同文書院

・日経ヘルス 編 サプリメント大事典 日経BP社

・Derave W, Jones G, Hespel P, Harris RC. 2008 “Creatine supplementation augments skeletal muscle carnosine content in senescence-accelerated mice (SAMP8).” Rejuvenation Res. 2008 Jun;11(3):641-7.

・kikuchi, K, et al. 2001 “Characteristic and functions of bonito -derived component anserine.” New Food Industry 2001, vol43, NO.9, 15-20

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