アラニンとは?
●基本情報
アラニンとはアミノ酸の一種で、肝機能の保護や、アルコール分解に効果的な成分です。
アミノ酸とは、筋肉や内臓をつくるたんぱく質のもととなる成分で、体内で合成することができるものを非必須アミノ酸[※1]、体内で合成することができないものを必須アミノ酸[※2]と呼び、アラニンは体内で合成することができるため非必須アミノ酸に分類されます。アラニンは体内にあるほとんどのたんぱく質に存在し、特に細胞質[※3]といわれる部分に多く存在します。
●アラニンの歴史
アラニンは1850年に化学合成により発見され、1875年には絹糸の加水分解物[※4]から得られました。1969年にオーストラリアのマーチソンに落ちた隕石から、微量のグリシン、アラニン、グルタミン酸、β-アラニン[※5]が発見されたことから、宇宙にもアラニンをはじめとするアミノ酸が存在すると考えられています。
アラニンは前立腺肥大症薬や総合アミノ酸製剤などの医薬品成分として活用されています。排尿障害や頻尿の改善、さらにアミノ酸輸液や経口・経腸栄養剤としても臨床栄養分野で使用されています。
●アラニンを多く含む食品
アラニンはアルコールを分解する性質を持っています。牛や豚のレバーなどのほか、しじみやあさりなどの貝類にも多く含まれます。「二日酔いにはしじみの味噌汁が良い」といわれるのは、アラニンの持つアルコールの分解を促す効果によるものです。
<豆知識>味覚と嗅覚に働くアラニン
アラニンは甘みを持つことから、食品添加物としても利用されています。アミノ酸の中には、アラニンのように甘みを持つものや、バリンやロイシンなどのように苦みを持つもの、さらにグルタミン酸のようにうま味を持つものがあります。
また、アラニンは変色しにくい性質も持っています。
アラニンをはじめとするアミノ酸は、リアクション・フレーバーとしても加工食品などに利用されています。リアクション・フレーバーとは、アミノ酸とブドウ糖に熱を加えた時に出る香りのことで、アミノ酸の種類によって香りが異なるのが特徴です。アラニンはカラメル、プロリンやリジンはパン、イソロイシンは焼いたチーズの香りがします。
[※1:非必須アミノ酸とは、体内で合成が可能なアミノ酸のことです。グリシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、アルギニン、システイン、チロシン、プロリンの11種類が存在します。]
[※2:必須アミノ酸とは、動物の成長や生命維持に必要であるにも関わらず体内で合成されないため、食物から摂取しなければならないアミノ酸のことです。バリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、メチオニン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン、トリプトファンの9種類が存在します。]
[※3:細胞質とは、細胞を構成する成分で細胞膜内の核を含まない部分です。]
[※4:加水分解物とは、反応物における水の反応によって、得られた分解物を指します。]
[※5:β-アラニンとは、天然に存在するアミノ酸の一種です。]
アラニンの効果
●肝機能を改善する効果
アラニンにはアルコール代謝を促し、二日酔いを改善する効果があるといわれています。
たくさんアルコールを与えて、アルコール性肝炎に近い状態にしたラットは、アラニンとグルタミンが入った水をすすんで欲しがるということがわかりました。このことから、肝機能維持にはアラニンとグルタミンが必要である可能性が示唆されました。
さらに研究を続け、ラットにアルコールを混ぜたエサを与えたのち、アラニンとグルタミンを投与したもの、しなかったものでそれぞれの自発的な運動量を比較しました。その結果、比較的早く運動量が増加したのは、アラニンとグルタミンを投与したものでした。また、別の研究では、アラニンとグルタミンを投与したラットは、二日酔いなどの原因物質であるアセトアルデヒドの血中濃度が低下していたことがわかりました。これらの結果から、アラニンとグルタミンを同時に摂取することで、アルコール代謝が促進される効果があると考えられています。
また、アラニンとグルタミンはアルコール代謝の促進だけでなく、肝障害[※6]の改善にも効果的だといわれています。肝臓の大部分を切除したラットに、アラニンとグルタミンをそれぞれ投与したところ、肝臓の再生が促進されたということもわかっています。肝機能を促進させることは、脂肪肝[※7]や肝硬変[※8]などのリスクの軽減にもつながります。【1】【2】
●持続的な運動を支える効果
アラニンは長時間の運動にも必要な成分です。運動時にはグルコース(ブドウ糖)を分解してエネルギーを生じますが、この際、アラニンも体内で生成されます。エネルギーを生み出す過程でつくられたアラニンは、その後肝臓へ移動し、再び、エネルギー源となるグルコースをつくるために利用されます。アラニンを摂取することで、運動時に必要なエネルギー源を持続的に供給できるようになり、長時間の運動が可能となります。
またアラニンはグルカゴンの分泌を促します。グルカゴンとは、血糖値の低下に伴い分泌されるホルモンです。膵臓から分泌され、肝臓に貯蔵されたグリコーゲンからグルコースをつくりだし、血液中に放出されることによって血糖値の維持に働きます。【4】【5】
●スキンケア効果
アラニンは肌の角質に存在し肌の水分を保つ天然保湿成分(NMF)[※9]の成分として、化粧品にも配合されています。
肌は表面から厚さ約0.01mmの角質層、約0.1mmの表皮層、2~3mmの真皮層に分かれます。肌が乾燥している状態とは、角質層が水分を保っていない状態のことを指します。わずか0.01mmの薄い角質層がウイルスや細菌などの異物から体を守り、肌のダメージを抑えます。その上、肌の水分が逃げないように水分を保持してくれます。
角質層の細胞はケラチン繊維[※10]と線維間物質から構成されており、線維間物質に肌の潤いを保持する天然保湿成分(NMF)が存在します。アラニンをはじめとするアミノ酸は、天然保湿成分(NMF)の約40%を占めており、皮膚の保湿と健康を保っています。
[※6:肝障害とは、肝臓の機能に障害をもたらす状態のことです。脂肪肝などの原因にもなります。]
[※7:脂肪肝とは、食べ過ぎや飲みすぎによって肝臓に中性脂肪やコレステロールが溜まった肝臓の肥満症とも言える状態です。肝臓に中性脂肪やコレステロールが溜まった脂肪肝は、動脈硬化を始めとする様々な生活習慣病を引き起こす恐れがあります。]
[※8:肝硬変とは、肝臓が固くなり、本来の機能がきわめて減衰した状態のことです。]
[※9:天然保湿因子(HMF)とは、人間がもともと持っている保湿成分で、皮膚の一番外側にある角質層、角質細胞の中にあり、水になじみやすく水分を保持する力を持つ物質のことです。NMFはNatural Moisturizing Factorの略です。]
[※10:ケラチン繊維とは、肌の角質層に存在するハリと弾力を保つ物質です。]
アラニンは食事やサプリメントで摂取できます
アラニンを含む食品
○しじみ
○あさり
○かに
○海苔
○牛や豚のレバー
○鶏肉
こんな方におすすめ
○お酒をよく飲む方
○肝臓の健康を保ちたい方
○丈夫な体をつくりたい方
○美肌を目指したい人
アラニンの研究情報
【1】アルコールを長期間投与し、肝臓障害を誘発したラットに対し、アラニンとグルタミンを与えました。その結果、肝障害時の肝再生の指標となるポリアミン代謝が改善されることが示されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9063811
【2】アルコールと硫酸ヒドラジンの同時投与によるラットにおける脂肪肝の進行に対するアラニンおよびグルタミンの作用について調べた結果、食餌にアラニンとグルタミンを混与するだけで脂肪肝が改善されることがわかりました。このことから、アラニン、グルタミンの摂取は、飲酒後の肝機能を正常化するうえで極めて重要であることが考えられました。
【3】グルタミン (Gln) が豊富な完全静脈栄養 (total parenteral nutrition; TPN) の続発性腹膜炎に対する効果を調べました。33名の続発性腹膜炎患者をランダムに2群に分け、術後に標準的なTPN (16名) または、L-alanyl-L-glutamine補充TPN (17名) を投与した結果、L-alanyl-L-glutamine補充TPNを投与した患者では窒素バランス、アルブミン、IgAは対照群よりも高く、罹患率は減少したことがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14757388?dopt=Abstract
【4】22名のウェイトリフティング、15名のサッカープレイヤーに対し、プラセボ、または4gのβアラニンを与え、スポーツ前後のパフォーマンスを比較しました。β-アラニン投与群は、300yシャトルタイムテストを約1.1秒縮め、90°flexed-arm hang(FAH)テストを増加させました。また、β-アラニン投与群では、ウェイトリフティングで2.1ポンド(約0.95kg) 以上持ち上げました。このことから、β-アラニンの摂取は運動におけるパフォーマンスを向上させると考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21659893
【5】14名の被験者に4.8g/日のβ-アラニンまたはプラセボを摂取させ、6分間の自転車運動をさせました。β-アラニン摂取群では、血液中のpHの低下を阻止しました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19841932
【6】L-アラニンを12歳のグリコーゲン蓄積疾患2型(ポンペイ病)の12歳の少年に5年間投与した結果、ミオパシー(筋疾患)を緩和させ、また血管ミオパシーを完全に治しました。このことから、L-アラニンの摂取は、ポンペイ病の治療に役立つと考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12213618
参考文献
・清水俊雄 機能性食品素材便覧 薬事日報社
・谷村顕雄 改訂新版よくわかる暮らしの中の食品添加物 光生館
・PECK RITTER リッター生化学 東京化学同人
・Tanaka T, Imano M, Yamashita T, Monna T, Nishiguchi S, Kuroki T, Otani S, Maezono K, Mawatari K. (1994) “Effect of combined alanine and glutamine administration on the inhibition of liver regeneration caused by long-term administration of alcohol.” Alcohol Alcohol 29S 125-32 (1994)
・鈴木博、打越敏之、前園克己、馬渡一徳、岡部和彦 (1992) “Effect of both alanine and glutamine administration to newly developed animal model of chronic alcoholic liver injury.” アルコール代謝と肝12 207-213 (1992)
・Fuentes-Orozco C, Anaya-Prado R, González-Ojeda A, Arenas-Márquez H, Cabrera-Pivaral C, Cervantes-Guevara G, Barrera-Zepeda LM. (2004) “L-alanyl-L-glutamine-supplemented parenteral nutrition improves infectious morbidity in secondary peritonitis.” Clin Nutr. 2004 Feb;23(1):13-21.
・Kern BD, Robinson TL. (2011) “Effects of β-alanine supplementation on performance and body composition in collegiate wrestlers and football players.” J Strength Cond Res. 2011 Jul;25(7):1804-15.
・Baguet A, Koppo K, Pottier A, Derave W. (2010) “Beta-alanine supplementation reduces acidosis but not oxygen uptake response during high-intensity cycling exercise.” Eur J Appl Physiol. 2010 Feb;108(3):495-503. Epub 2009 Oct 16.
・Bodamer OA, Haas D, Hermans MM, Reuser AJ, Hoffmann GF. (2002) “L-alanine supplementation in late infantile glycogen storage disease type II.” Pediatr Neurol. 2002 Aug;27(2):145-6.
・櫻庭雅文 アミノ酸の化学 その効果を検証する 講談社
・船山信次 アミノ酸タンパク質と生命活動の化学 東京電機大学出版局
・中村丁次 食生活と栄養の百科事典 丸善株式会社
・日経ヘルス サプリメント事典2008年版 日経BP社
・蒲原聖司 サプリメント事典 平凡社