アカモクとは
●基本情報
アカモクとは、ヒバマタ目ホンダワラ科に属する海藻の一種で、学名をSargassum horneriといいます。老成すると赤褐色になることから、日本語名がつけられました。
北海道から鹿児島までの沿岸に広く分布しており、特に栄養塩に富む浅海を好みます。アカモクは生命力がとても強く、大きいものだと7mくらいにまで成長します。
秋田県地域では「ギバサ」、山形県では「ギンバソウ」、山陰地方では「神馬草」、新潟県では「ナガモ」と呼ばれ、各地で古くから食用として珍重されてきました。特に秋田県では、海藻といえばギバサといわれるほど、好んで食べられているようです。
アカモクは刻んで熱を加えることにより、非常に強い粘りを生じることが特徴です。お吸い物にそのまま入れたり、酢味噌や酢醤油で味付けしたりして食べられています。
中央に1本太く固い茎が通っており、調理前にその茎を上部から下に指でしごくようにすると、節から葉を含む小さな茎がとれ、この部分が料理に利用されます。
アカモクはフコイダンやミネラル、食物繊維、ポリフェノール、フコキサンチンなどのカロテノイドといった栄養素を豊富に含むことから近年研究が進められています。
<豆知識①>邪魔モクとも呼ばれたアカモク
宮城県周辺では、アカモクは「邪魔モク」と呼ばれ、厄介者扱いを受けてきました。宮城県周辺では、ワカメやコンブなどの海藻類が豊富であったためか、アカモクは食用としては利用されず、刺し網や養殖施設に絡みつく邪魔な藻として扱われ、漁業を営む人々からは「バツモ」とも呼ばれてきました。バツモのバツとは、駄目という意味を持ち、藻くずとして畑の肥料に用いられてきました。
その一方で宮城県塩竃市のお釜神社には、藻塩焼き[※1]という神事があり、この神事の際にアカモクが使用されています。
●アカモクの歴史
アカモクは歴史的に非常に古く、弥生時代より日本人に関わりがあったとされています。また、地方によっては昔から保存食として食されていた海藻で、普段から食卓に味噌汁の具や酢の物として並ぶ食品でした。
近年、豊富な栄養素を含む点から健康食品としての注目が集まり、学術機関での研究対象とされ、1998年には富山医科薬科大学の林利光教授らによって、エイズウイルスの増殖が抑えられる効果があるという研究成果が発表され、食品としての機能性が一躍脚光を浴びるようになりました。
<豆知識②>海をきれいにするアカモク
アカモクには、赤潮の発生を抑える働きがあります。
赤潮は植物性プランクトンの増殖が原因ですが、そのプランクトンの栄養分となる窒素やリンなどをアカモクが吸収することで、赤潮の発生を抑えることができるのです。
●アカモクに含まれる成分と性質
アカモクには、フコイダンをはじめ、ミネラルやポリフェノール、ビタミンKなど様々な成分が含まれています。
フコイダンとは、ワカメやコンブ、モズク等にも含まれているぬめり成分で、多糖類[※2]の食物繊維の一種です。生活習慣病予防やアレルギー改善などに効果的といわれています。
また、ミネラルは人間が生きていく上で必要不可欠な成分で、カルシウムや亜鉛、鉄などの総称です。必要とされる量は微量ではありますが、非常に重要な働きをするため炭水化物(糖質)やたんぱく質と共に五大栄養素のひとつとされています。
ポリフェノールとは、植物の光合成に伴って生成される植物の苦みや渋み、色素の成分となる化合物の総称で、自然界に5000種類以上存在します。抗酸化力[※3]に優れ、悪玉(LDL)コレステロールの増殖抑制などに役立つと考えられています。
また、アカモクに豊富に含まれるビタミンKは、血液凝固作用に欠かせないビタミンです。また、カルシウムが骨から溶けだすのを抑制する効果もあり、骨粗しょう症などに有効な成分です。【2】
このことからもアカモクは、栄養素を豊富に含み、様々な部分で効果を発揮する食品であるといえます。
[※1:藻塩焼きとは、海水のついた藻を天日に干し、その上から海水を注いで表面に析出した塩を海水で溶かしてという作業を繰り返し、塩をつくることをいいます。]
[※2:多糖類とは、糖質の最小単位である単糖が、多数結合したものです。]
[※3:抗酸化力とは、たんぱく質や脂質、DNAなどが酸素によって酸化されるのを防ぐ力です。]
アカモクの効果
●生活習慣病の予防・改善効果
アカモクは水溶性食物繊維であるフコイダンが豊富に含まれているため、生活習慣病の予防に効果的です。
フコイダンは、腸内で水分を抱え込み余分なコレステロールや糖分を吸着し体外へ排出する働きや、高血圧を下げる効果、整腸作用などが報告されています。
このことからも、アカモクは生活習慣病を予防する効果があるといえます。【1】【3】
●骨粗しょう症を予防する効果
骨粗しょう症とは、骨からカルシウムが極度に減少することで、骨の内部がスカスカになった症状であり、非常に骨折しやすくなることで知られています。高齢者に多い症状で、日本では約1300万人の患者がいると推察されており、高齢者が寝たきりになる原因のひとつです。
アカモクに含まれるビタミンKには、カルシウムが骨から溶けだすのを抑制する効果があるため、骨粗しょう症予防に効果的だといえます。【2】
●便秘を予防・解消する効果
アカモクには便秘を予防する効果があるといえます。
豊富な食物繊維が腸内の余分な水分を抱え込むことで、便の量を増やし、腸のぜん動運動[※4]を促進し、排便を促す効果があります。
[※4:ぜん動運動とは、腸に入ってきた食べ物を排泄するために、内容物を移動させる腸の運動です。]
アカモクの研究情報
【1】天然の糖質素材であるアカモクについて、化粧品・機能性食品としての有用性を評価した結果、アカモクには美白作用、皮膚抗老化作用、抗ニキビ作用、抗アレルギー作用及び抗肥満作用が認められ、高い機能性を持つことが明らかとなりました。
【2】ラットを対象に、アカモクを含む餌を7日間摂取させたところ、骨のカルシウムが増加することがわかりました。アカモクは骨形成に関連する物質であるビタミンKを豊富に含むほか、骨形成を促進するアルカリフォスファターゼを活性化させるはたらきを持つことから、骨代謝や骨形成を促進することにより、骨粗しょう症予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17077614
【3】アカモクは、血液凝集関連物質トロンボプラスチン時間(APTT)を延長するはたらきを持つことから、アカモクは血液凝固抑制作用を持ち、動脈硬化予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16973353
【4】アカモクにより、UV-A(紫外線)誘発-酸化ストレスによる皮膚線維の傷害が緩和されました。アカモクは、コラーゲン分解酵素コラゲナーゼの一つであるマトリックスプロテアーゼ(MMP)の活性を抑制するはたらきを持つことから、皮膚保護作用が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22775999
参考文献
・骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2011年版 ライフサイエンス出版
・大島 久華、森 律子、喜多 悠子、鵜澤 志帆 (2009) “天然糖質の化粧品・機能性食品素材としての有用性” 研究報告 (9), 70-75, 2009-06
・Yamaguchi M. (2006) “Regulatory mechanism of food factors in bone metabolism and prevention of osteoporosis.” Yakugaku Zasshi. 2006 Nov;126(11):1117-37.
・Athukorala Y, Lee KW, Kim SK, Jeon YJ. (2007) “Anticoagulant activity of marine green and brown algae collected from Jeju Island in Korea.” Bioresour Technol. 2007 Jul;98(9):1711-6. Epub 2006 Sep 14.
・Kim JA, Ahn BN, Kong CS, Kim SK. (2012) “Protective effect of chromene isolated from Sargassum horneri against UV-A-induced damage in skin dermal fibroblasts.” Exp Dermatol. 2012 Aug;21(8):630-1. doi: 10.1111/j.1600-0625.2012.01535.x.