アディポネクチン

adiponectin

アディポネクチンとは、脂肪細胞から分泌される善玉ホルモンの一種で、エネルギー代謝に大きく関わっている物質です。その働きは広範囲に渡り、血管修復作用や脂肪燃焼作用、血管拡張作用などがあり、糖尿病を予防する効果や高血圧を予防する効果、メタボリックシンドロームを予防する効果などが期待されています。

アディポネクチンとは

●基本情報
アディポネクチンとは、脂肪細胞から分泌される善玉ホルモンの一種で、人間の健康維持に最も重要な役割を持つとして、現在世界中の研究者が注目している物質です。
アディポネクチンは体の中で血中に存在し、全身を巡って傷ついた血管を見つけると素早く入りこんで修復する、血管のメンテナンス役として働き、また糖の代謝[※1]や脂肪の代謝に関与しています。
アディポネクチンは脂肪細胞から分泌されますが、内臓脂肪が増えると血中のアディポネクチンの分泌量は減少してしまいます。そのメカニズムはまだはっきりと明らかにはなっていませんが、メタボリックシンドローム[※2]と大きな関わりを持っています。
脂肪細胞は過剰栄養の貯蔵庫としての役割を持ちますが、その他にも様々な生理物質[※3]を分泌する内分泌脂肪としての役割を持つことが明らかとなっており、ここから分泌される生理物質を総称して「アディポサイトカイン」といいます。
アディポサイトカインには、動脈硬化を予防する善玉アディポサイトカインと、動脈硬化を促進する悪玉アディポサイトカインがあります。正常な状態であればこれらがバランスよく分泌されますが、内臓脂肪が蓄積した状態では善玉アディポサイトカインの分泌量が減り、悪玉アディポサイトカインの分泌量が増えてしまいます。
アディポネクチンは、善玉アディポサイトカインの一種で、動脈硬化や糖尿病を予防する効果を持ちます。

●アディポネクチンの歴史
アディポネクチンの歴史は新しく、1996年に人間の脂肪組織から発見されました。
従来、脂肪組織は過剰栄養の貯蔵庫としてしか認識されていませんでしたが、臓器のようにホルモンを分泌していることを示したこの発見は世界的に話題を巻き起こしました。
アディポネクチンの名前は脂肪組織「アディポ」でつくられる脂肪間接着分子の一種である「ネクチン」に由来しています。

●アディポネクチンを増やす方法
アディポネクチンは体内の脂肪細胞から分泌されるため、食品から摂取することはできません。
アディポネクチンを増やすには、日々の運動に加え、食生活の改善が必要です。アディポネクチンは内臓脂肪の増加によって分泌量が低下するため、内臓脂肪型肥満を解消することでその分泌量は自然と増加します。そのため、緑黄色野菜や海藻類、大豆製品、青魚などを普段の食生活に取り入れたり、適度な運動を行ったりすることでアディポネクチンを増やすことができます。
また、大豆を摂取すると血中のアディポネクチンレベルが上がるということがわかっています。大豆に含まれるたんぱく質が脂肪細胞の中にあるアディポネクチンを合成する機能を高めることから、アディポネクチンを増加させる上で非常に有効的な食品だといえます。

<豆知識>「長寿ホルモン」といわれるアディポネクチン
アディポネクチンは寿命と大きく関係しているといわれており、長寿の人の血中アディポネクチン濃度は高いといわれています。実際に100歳以上の女性と20歳代の女性の血中アディポネクチン濃度を比較したところ、100歳以上の女性の方が約2倍もアディポネクチンの濃度が高いことが明らかとなっています。

[※1:代謝とは、生体内で、物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです。また、それに伴ってエネルギーが出入りすることを指します。]
[※2:メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪型肥満に高血糖、高血圧、脂質異常症のうち2つ以上を合併した状態をいいます。]
[※3:生理活性物質とは、人間の生理作用に作用を与える物質のことです。]

アディポネクチンの効果

●糖尿病を予防する効果
アディポネクチンは糖質の代謝を促進し、インスリン[※4]の働きを助けるため、糖尿病を予防する効果があります。
糖尿病とは、インスリンの働きの低下などにより、血糖の量が異常に増えた状態が慢性的に持続する病気です。
糖尿病は自覚症状があまりないため、血液や尿の検査で糖が検出されることによって発見されるケースがほとんどです。インスリンは糖質を代謝するために欠かせない成分のため、インスリンの働きが鈍くなったり、インスリン自体が分泌されなくなると、糖質が代謝できず血中に異常に増えてしまいます。
アディポネクチンはインスリンの働きを助ける効果があるため、糖尿病の予防や改善に効果的です。【1】

●メタボリックシンドロームを予防する効果
メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪型肥満に高血糖、高血圧、脂質異常症のうち2つ以上を合併した状態をいい、近年生活習慣病につながる疾病として問題視されています。
アディポネクチンは、糖質やコレステロールの代謝に関与することから、メタボリックシンドローム予防に役立つと考えられます。
アディポネクチンの働きが悪くなった動物では、動脈硬化のほか、血糖値・血中コレステロールの上昇、高血圧の症状になることが研究でもわかっており、メタボリックシンドローム予防には非常に重要なホルモンであるといえます。【2】

●高血圧を予防する効果
アディポネクチンは血管を拡張し、血流を良くする働きがあるため、高血圧予防に効果的です。
高血圧とは、病的に高い血圧が持続する状態をいい、血管や臓器に障害を起こす疾患です。高血圧は自覚症状が現れにくく、放置されやすく、放置してしまうと動脈硬化が進んでしまいます。
アディポネクチンは、高血圧と診断された人が血中濃度を測るとアディポネクチン値が低いという点からも、血圧をコントロールし高血圧を予防する効果があると考えられます。

●動脈硬化を予防する効果
アディポネクチンは血中に含まれ、全身を巡って傷ついた血管の修復を行います。また、それだけではなく血管を拡げることで血液の流れを良くするため、動脈硬化を予防する効果があります。
動脈硬化とは、動脈にコレステロールや脂質がたまって弾力性や柔軟性がなくなった状態のことをいい、血液がうまく流れなくなることで心臓や血管などの様々な病気の原因となります。
アディポネクチンは動脈硬化を予防する効果があるため、ひいては心筋梗塞や脳梗塞といった死につながるような病気の予防に効果的だといえます。【3】

[※4:インスリンとは、血糖値をコントロールする作用を持ったホルモンです。]

アディポネクチンは食事やサプリメントで増やすことができます

こんな方におすすめ

○糖尿病を予防したい方
○メタボリックシンドロームを予防・改善したい方
○高血圧を予防・改善したい方
○動脈硬化を予防したい方
○ダイエットをしている方

アディポネクチンの研究情報

【1】Ⅱ型糖尿病患者11名の肝脂肪組織、インスリン耐性、血中アディポネクチン量を測定したところ、薬物治療より治療後において、肝脂肪組織、インスリン耐性、アディポネクチンが改善したことがわかりました。また、アディポネクチン量と脂肪肝は負の相関関係が、末梢グルコース処理率と正の相関関係が認められたことから、アディポネクチンは脂肪肝抑制作用ならびにインスリン感受性増強効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14715850

【2】肥満の被験者と健常人との血中のアディポネクチン量を比較すると、肥満被験者のアディポネクチン量は健常人に比べて低かったことから、アディポネクチンは肥満抑制因子のひとつとして考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10092513

【3】アポリポタンパク‐E欠損マウスに組換アディポネクチンを発現させた結果、β-ガラクトシダーゼを発現した場合に比べて、動脈硬化が抑制されたことから、アディポネクチンに動脈硬化予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12451000

【4】絶食期間中には、アディポネクチンは脳の視床下部弓状核を介して、摂食量増加やエネルギー代謝抑制作用に関係していることから、アディポネクチンはエネルギー代謝に関連することが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17618856

【5】脂肪組織が、特に産生するコラーゲン様分泌型タンパク質(後にアディポネクチンと命名)のクローニン
グおよび発現に成功したことから、アディポネクチンは脂肪細胞より作られることが確認されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8619847

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参考文献

・Bajaj M, Suraamornkul S, Piper P, Hardies LJ, Glass L, Cersosimo E, Pratipanawatr T, Miyazaki Y, DeFronzo RA. (2004) “Decreased plasma adiponectin concentrations are closely related to hepatic fat content and hepatic insulin resistance in pioglitazone-treated type 2 diabetic patients.” J Clin Endocrinol Metab. 2004 Jan;89(1):200-6.

・Arita Y, Kihara S, Ouchi N, Takahashi M, Maeda K, Miyagawa J, Hotta K, Shimomura I, Nakamura T, Miyaoka K, Kuriyama H, Nishida M, Yamashita S, Okubo K, Matsubara K, Muraguchi M, Ohmoto Y, Funahashi T, Matsuzawa Y. (1999) “Paradoxical decrease of an adipose-specific protein, adiponectin, in obesity.” Biochem Biophys Res Commun. 1999 Apr 2;257(1):79-83.

・Maeda K, Okubo K, Shimomura I, Funahashi T, Matsuzawa Y, Matsubara K. (1996) “cDNA cloning and expression of a novel adipose specific collagen-like factor, apM1 (AdiPose Most abundant Gene transcript 1).” Biochem Biophys Res Commun. 1996 Apr 16;221(2):286-9.

・Kubota N, Yano W, Kubota T, Yamauchi T, Itoh S, Kumagai H, Kozono H, Takamoto I, Okamoto S, Shiuchi T, Suzuki R, Satoh H, Tsuchida A, Moroi M, Sugi K, Noda T, Ebinuma H, Ueta Y, Kondo T, Araki E, Ezaki O, Nagai R, Tobe K, Terauchi Y, Ueki K, Minokoshi Y, Kadowaki T. (2007) “Adiponectin stimulates AMP-activated protein kinase in the hypothalamus and increases food intake.” Cell Metab. 2007 Jul;6(1):55-68.

・Okamoto Y, Kihara S, Ouchi N, Nishida M, Arita Y, Kumada M, Ohashi K, Sakai N, Shimomura I, Kobayashi H, Terasaka N, Inaba T, Funahashi T, Matsuzawa Y. (2002) “Adiponectin reduces atherosclerosis in apolipoprotein E-deficient mice.”

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