アシドフィルス菌

lactobacillus acidophilus

アシドフィルス菌とは、人間の体内にもともと存在する乳酸菌の一種です。
熱や酸に強いため、直接腸に働きかけることができるので、腸内環境を改善する効果や免疫力を高める効果、口臭改善や胃潰瘍予防に役立ちます。

アシドフィルス菌とは

●基本情報
アシドフィルス菌とは、人間の腸内や口腔、生殖器などに存在している乳酸菌の一種で、特に初乳に多く含まれます。
乳酸菌とは、糖の分解物のうち、乳酸を 50%以上つくる菌の総称です。乳酸菌はその形状から、球状の乳酸球菌と棒状の乳酸桿菌に大別され、アシドフィルス菌は乳酸桿菌(ラクトバチルス)に分類されます。
人間の腸内にはおよそ100種類、100兆個以上の腸内細菌が棲みついており、善玉菌と悪玉菌が常に勢力範囲を争っています。善玉菌が優勢を保っている時は腸の調子が良く、劣勢になった時は便秘などの症状として現れます。アシドフィルス菌は、腸内で乳酸を産生することで、善玉菌が働きやすい酸性の環境をつくるため、腸内環境を整える効果があります。
また、アシドフィルス菌は熱や酸に強いため、外部からの摂取でも生きたまま腸に到達できる乳酸菌で、その生存率は約70%といわれています。乳酸菌の多くは酸素を嫌うものが多く、酸素の存在する環境下では死んでしまいますが、アシドフィルス菌は酸素のある環境下でも生きていくことができるため、ヨーグルトなどの乳製品にも使用されています。
アシドフィルス菌は、初乳に多く含まれることからもわかるように、免疫力を高める効果を持ちます。また、口臭を予防する効果や胃潰瘍を予防する効果にも期待できます。

●アシドフィルス菌の歴史
アシドフィルス菌は1900年にオーストリアのモローによって発見されました。
1899年、フランスのパスツール研究所のTissier(ティシエ)が、健康な母乳栄養児の糞便からビフィズス菌を発見し、その1年後にビフィズス菌とは別の菌の存在にモローが気づき、アシドフィルス菌と名付けられました。

●アシドフィルス菌の働き
アシドフィルス菌はビオチンの生成にも役立っています。
ビオチンとは、ビタミンB群の一種で、腸内細菌叢[※1]によって供給されるため不足することはほとんどありませんが、抗生物質の投与などにより欠乏すると脱毛や湿疹、炎症などの皮膚症状や疲労感、食欲不振などをきたす場合があります。
また、アシドフィルス菌は乳糖(ラクトース)を分解する酵素であるラクターゼをつくり出す働きがあります。乳糖とは、ブドウ糖とガラクトースが結合したもので、牛乳などの乳製品に含まれています。牛乳を飲むとお腹がゴロゴロしたり、下痢になったりするのは、このラクターゼが不足しているため、ラクトースを分解できていないことが原因のひとつであると考えられています。
アシドフィルス菌は胃潰瘍の病原菌とされるヘリコバクター・ピロリ菌に対して強力な殺菌効果を持っているといわれています。アシドフィルス菌は、それ以外にも小腸や膣内において、カンジタ菌やブドウ球菌の増殖を抑制したり、血中コレステロール値を下げる働きを持っています。

<豆知識>プロバイオティクスとプレバイオティクス
日本のかつての食生活は、ご飯に味噌汁、漬物といった献立が中心で、植物性乳酸菌の豊富な発酵食品を食べる機会が多く、自然と腸内環境を整えることができていました。
現在の日本の食生活では、食の欧米化が進み、日本古来の食生活がだんだんと減少してきています。食の欧米化により、肉類や油分を摂る機会が増え、それによって腸内で悪玉菌が増殖しやすい環境になっています。
腸内の善玉菌を優位にするためには、アシドフィルス菌などの善玉菌を腸内に定着させることが大切です。
腸内に善玉菌を定着させ、増殖させるには、乳酸菌のエサとなるオリゴ糖や食物繊維を一緒に摂ることで、腸内の環境を改善する手助けとなります。
乳酸菌そのものを摂取することを、プロバイオティクスといい、乳酸菌のエサとなるものを摂取することをプレバイオティクスといいます。アシドフィルス菌は生きたまま腸に到達し、腸内の環境を善玉菌優勢にする働きがあることから、プロバイオティクスとしての役割を大きく担っているといえます。

[※1:腸内細菌叢とは、腸内に生息する細菌の集まりのことです。]

アシドフィルス菌の効果

●腸内環境を整える効果
アシドフィルス菌は、腸内に入ると糖から乳酸をつくり出し、腸内の環境を酸性に整える働きがあります。
腸内には、アシドフィルス菌やラブレ菌をはじめとする乳酸菌などの善玉菌や、ウェルシュ菌[※2]をはじめとする悪玉菌が共存しています。善玉菌と悪玉菌は、腸内で常に勢力範囲を争っており、体調の良し悪しと腸内細菌叢の間には関係があると言われています。
腸内で悪玉菌が増殖すると、悪玉菌によって毒素がつくられるようになります。その毒素は腸に直接的にダメージを与え、便秘や下痢などの病気の原因にもなるといわれています。腸は食生活の乱れやストレスなどの影響によって悪玉菌が優勢になるとアルカリ性になります。
アシドフィルス菌は、腸内で乳酸をつくり出し、腸内を酸性に保ち、腸内環境を整える効果があるといえます。【6】

●免疫力を高める効果
アシドフィルス菌は、腸内環境を整えることから、免疫力を向上させる効果があるといわれています。
腸は「体の根っこ」といわれるように、腸内で悪玉菌がつくり出す毒素は、腸壁から吸収され全身に回ってしまいます。それが、生活習慣病やその他様々な病気の原因となってしまいます。
アシドフィルス菌は腸内を酸性に保ち、悪玉菌の増殖を抑えることで、免疫力を向上させます。【1】

●口臭を予防する効果
アシドフィルス菌は、腸内の腐敗物が原因で起こる口臭を予防する効果があります。
腸内の環境が悪玉菌優勢に傾くことで、毒素がつくり出されます。それが口臭や体臭の原因となります。アシドフィルス菌には、腸内の環境を酸性に保つ働きがあるため、口臭の改善にも役立ちます。

●胃炎や胃潰瘍を予防する効果
アシドフィルス菌は、胃潰瘍の原因とされているヘリコバクター・ピロリ菌に対して強力な殺菌作用を持っています。
ヘリコバクター・ピロリ菌は、ウレアーゼという酵素をつくり出し、胃粘膜の成分である尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解します。この強アルカリ性のアンモニアで自身を覆うことで、強酸性である胃酸と中和し、生息しています。
アシドフィルス菌は、胃潰瘍の原因菌であるヘリコバクター・ピロリ菌に対して強力な殺菌作用を持っているため、胃潰瘍の予防に効果的だといわれています。【2】【3】【4】【5】

[※2:ウェルシュ菌とは、人間や動物の腸管、土壌、水中など広く自然界に分布している、酸素を嫌う細菌のことです。ウェルシュ菌が増えることで、腸内の環境が悪くなり、便秘や下痢の原因になります。]

アシドフィルス菌は食事やサプリメントで摂取できます

アシドフィルス菌を含む食品

○アシドフィルス菌入りの乳酸菌飲料など

こんな方におすすめ

○便秘や下痢などおなかの調子が悪い方
○免疫力を高めたい方
○口臭が気になる方
○胃潰瘍を予防したい方
○肌荒れが気になる方
○コレステロール値が気になる方
○生活習慣病を予防したい方

アシドフィルス菌の研究情報

【1】アシドフィルス菌のような乳酸菌は樹状細胞やT細胞(Th1)の活性を上昇させることが分かりました。免疫システムと微生物叢間の関連性は多糖組織の恒常性に重要であり、アシドフィルス菌に代表される乳酸菌は免疫力向上に役立つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23054627

【2】アシドフィルス菌はヘリコバクター・ピロリ菌の増殖を抑制するはたらきを持つことから、アシドフィルス菌が胃潰瘍予防ならびに健胃作用を有すると考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17601032

【3】消化器系の6疾患(回腸嚢炎、感染性下痢、過敏性腸症候群、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎、クロストリディウム・ディフィシル感染症、抗生物質による下痢)に対して、アシドフィルス菌を含んだ乳酸菌は消化器疾患予防に役立つと期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22529959

【4】胃潰瘍などの原因菌ヘリコバクターピロリ菌感染マウスを対象に、ヒト胃由来の乳酸菌株(アシドフィルス菌、フェルメンチ菌)を与えたところ、胃粘膜組織障害や炎症が減少していたことから、アシドフィルス菌などの乳酸菌は、胃粘膜保護作用を有すると期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20101769

【5】炎症物質(IL8、NF-κB)を産生するヘリコバクター・ピロリ菌感染-SGC7901細胞に対して、アシドフィルス菌を添加した結果、ピロリ菌感染細胞の炎症反応が抑制されたことから、アシドフィルス菌は抗炎症作用を有することが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17953360

【6】過敏性腸症候群の患者40名を対象とした無作為比較試験において、アシドフィルス菌を4週間継続して摂取させたところ、腹痛や不快の自覚症状が改善したという報告があります。アシドフィルス菌は、過敏性腸症候群の患者に有効であると考えられます。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18274900

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参考文献

・竹内均 編 もっと「話が面白い人」になれる雑学の本 三笠書房

・Dongarrà ML, Rizzello V, Muccio L, Fries W, Cascio A, Bonaccorsi I, Ferlazzo G. (2012) “Mucosal Immunology and Probiotics.” Curr Allergy Asthma Rep. 2012 Oct 7. [Epub ahead of print]

・Andrzejewska E, Szkaradkiewicz A. (2007) “Evaluation of the antagonistic effect of Lactobacillus acidophilus on clinical strains of Helicobacter pylori” Med Dosw Mikrobiol. 2007;59(1):59-64.

・Ritchie ML, Romanuk TN. (2012) “A meta-analysis of probiotic efficacy for gastrointestinal diseases.” PLoS One. 2012;7(4):e34938. doi: 10.1371/journal.pone.0034938. Epub 2012 Apr 18.

・Cui Y, Wang CL, Liu XW, Wang XH, Chen LL, Zhao X, Fu N, Lu FG. (2010) “Two stomach-originated Lactobacillus strains improve Helicobacter pylori infected murine gastritis.” World J Gastroenterol. 2010 Jan 28;16(4):445-52.

・Ma FZ, Ma HS, Yu Q, Han SX. (2007) “[Effects of Lactobacilli on regulating NF-kappaB activation and IL-8 secretion in SGC7901 cell impacted by Helicobacter pylori].” Sichuan Da Xue Xue Bao Yi Xue Ban. 2007 Sep;38(5):795-8.

・Sinn DH, Song JH, Kim HJ, Lee JH, Son HJ, Chang DK, Kim YH, Kim JJ, Rhee JC, Rhee PL. 2008 “Therapeutic effect of Lactobacillus acidophilus-SDC 2012, 2013 in patients with irritable bowel syndrome.” Dig Dis Sci. 2008 Oct;53(10):2714-8.

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