α(アルファ)リノレン酸とは?
●基本情報
αリノレン酸とは健康に良い油の成分のひとつで、体内のリン脂質[※1]にも含まれる成分です。
脂肪酸[※2]は、炭素、水素、酸素から成っており、構造の中に炭素の結合を2つ以上持つ多価不飽和脂肪酸にあたります。多価不飽和脂肪酸は、人間の体ではつくることができないため、食品から摂取する必要がある必須脂肪酸に指定されています。
αリノレン酸は、多価不飽和脂肪酸の中でもn-3系脂肪酸(オメガ3)と呼ばれるものに分類されます。これは、青魚に多く含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)と同じ分類に入ります。
n-3系とは、脂肪酸構造の中に炭素の最初の二重結合が、3つ目と4つ目の炭素の間にあることからそのように呼ばれています。
リノレン酸には、「α(アルファ)」「γ(ガンマ)」「β(ベータ)」などの種類があり、これらは発見された順番を表しています。つまり、1887年に発見されたαリノレン酸はリノレン酸の中で1番目に発見されたということを意味しています。
αリノレン酸は人間の体内では合成することができない上、不足すると脳や神経、皮膚などに影響が現れます。そのため、食品から摂取することが必須とされています。
亜麻[※3]やエゴマ [※4]などに多く含まれており、最近では自宅で使用する植物油の中にもαリノレン酸が多く含まれているものは体に良いとされています。
αリノレン酸の特徴として、非常に酸化[※5]しやすいということが挙げられます。酸化した脂肪酸を摂ることは体にとってあまり良いこととはいえません。酸化した油は、動脈硬化の原因になったり、体が酸化して老化スピードを速めたりするからです。そのため、αリノレン酸が入っている家庭用植物油などを使用する場合は、早めに使い切ることが大切です。また、熱にも弱い性質があるため、炒め物などよりもドレッシングやマリネに使用する方が良いとされています。
αリノレン酸は広葉植物[※6]の葉の葉緑体という光合成の光化学反応[※7]が起こる場所の膜組織からも得られます。また、ほうれん草やチンゲン菜の膜組織からも得ることができます。そのため、緑の葉は草食動物のαリノレン酸の供給源でもあるのです。
αリノレン酸は1日あたり、2gの摂取が望ましいと考えられています。人間がほうれん草からαリノレン酸を1日2g摂取しようと思うと、約1.4kgものほうれん草を食べなければいけません。そのため、人間はαリノレン酸が多く含まれているエゴマや亜麻などから採取した油を多く摂る必要があるのです。
<豆知識①>n-3系脂肪酸(オメガ3)が注目されている理由
1980年代の初期頃から、研究者たちはn-3系脂肪酸に注目するようになりました。きっかけは、脂肪分の多い魚をたくさん食べているエスキモー[※8]の心臓病発生率が低いという研究報告が発表されたからです。脂肪は摂りすぎると、肥満や心臓病などのリスクをあげてしまいます。では、なぜエスキモーの心臓病発生率は低かったのか。これは、摂取していた多くの魚に含まれる脂肪が、n-3系脂肪酸だったからだということが研究の結果明らかになりました。
<豆知識②>必須脂肪酸はバランスが大事
必須脂肪酸と一口にいっても、これにはαリノレン酸とリノール酸[※9]の2種類があります。これらはホルモンと似た働きをしますが、作用としては正反対なのです。例えば、αリノレン酸は血液を流れやすくして、細胞組織を正常に保ってくれる役割があるのに対し、リノール酸は血液を固めるのに役立ちます。
グリーンランドやアラスカの先住民が、動物性脂肪の多い食品を多く食べていたにも関わらず心疾患が少なかったのは、リノール酸とαリノレン酸のバランスが保てていたからだといわれています。
リノール酸とαリノレン酸の理想的なバランスは4:1だといわれています。
<豆知識③>固まる脂と固まらない油
同じアブラでも、牛や豚、鶏などのアブラは常温で固まり、植物や魚から採れるアブラは固まらないことは知られています。常温で固まるアブラのことを「脂(fat)」と書き、常温で液体のアブラのことを「油(oil)」と書きます。この両方を総称して「油脂」と呼びます。
この違いは脂質の構造の違いによって表されます。つまり、飽和脂肪酸であるか、不飽和脂肪酸であるかによって変わるのです。飽和脂肪酸は炭素の2重結合や3重結合がなく、水素で飽和されている状態の脂質のことをいいます。不飽和脂肪酸は炭素の2重結合や3重結合がある状態の脂質のことで、融点[※10]が低い状態のものをいいます。
一般的に飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸はバランス良く摂ることが大切といわれており、その比率は2:1が望ましいとされています。
[※1:リン脂質とは、細胞膜を構成する主要な成分です。体内で脂肪が貯蔵・運搬される際に、たんぱく質と結び付ける役割を持っています。]
[※2:脂肪酸とは、炭素、水素、酸素から成る油脂や蝋(ろう)、脂質などの構成成分です。脂肪酸とグリセリンが結び付いて脂質が構成されます。]
[※3:亜麻とは、亜麻科の一年草です。亜麻種子に多くαリノレン酸が含まれています。]
[※4:エゴマとは、シソ科の一年草で、主に食用油を採取するために栽培されています。]
[※5:酸化とは、物質が酸素と化合し、電子を失うことをいいます。サビつきともいわれています。]
[※6:広葉植物とは、被子植物の双子葉類に属する植物のことです。一般的に葉面に広い葉を持ちます。]
[※7:光化学反応とは、物質が光を吸収して化学反応を起こす現象のことです。光合成における光化学反応では、特定のクロロフィルという色素がこの反応を起こすことが知られています。]
[※8:エスキモーとは、北極圏のシベリア極東部・アラスカ・カナダ北部・グリーンランドに至るまでのツンドラ地帯に住む先住民族グループのことです。]
[※9:リノール酸とは、人間の体内で合成できない不飽和脂肪酸の一種です。大豆油やコーン油などの植物性の油に多く含まれます。]
[※10:融点とは、固体が溶けて液体化する温度のことです。]
α(アルファ)リノレン酸の効果
αリノレン酸は必須脂肪酸であり、体にとって必要不可欠の脂質です。n-3系の脂肪酸が持つ重要な働きは、細胞膜の構成成分になるということです。
αリノレン酸にはその他の働きとして、血栓がつくられるのを防いだり、血圧を下げたり、アレルギーを抑制したりと様々な働きを持ちます。
●血流改善、血栓予防効果
αリノレン酸は体内に入るとDHAやEPAに変換されます。
DHAやEPAは血液をサラサラにすることで動脈硬化や心筋梗塞を防いだり、脳の働きを高めるなどの効果があります。また、体内でDHAに変換されることから、脳細胞を活性化する働きもあります。特に脳内の細胞膜にはDHAやEPAが必要となるため、αリノレン酸が不足すると脳や神経に異常が現れることが知られています。【4】【5】
●アレルギーを抑制する効果
アレルギーの原因のひとつとして、リノール酸の過剰摂取があります。
リノール酸とは、n‐6系の必須脂肪酸のひとつで、血中コレステロール値や中性脂肪値を一時的に低下させる働きがあります。その一方で、摂りすぎるとアレルギーを悪化させたり、大腸ガンの危険性を高めたりと体にとって良くない影響をもたらしてしまうのです。
αリノレン酸は、リノール酸に対して競合的に働き、アレルギーを抑制する働きを持っています。【3】
●老化を予防する効果
人間の体は約60兆個の細胞からできています。その細胞ひとつひとつに、「細胞膜」と呼ばれる細胞の内外を隔てる膜が存在します。この細胞膜があることによって、細胞は内部環境を一定に保つことができるのです。また、バリア機能もあるため、特定の物質の進入を阻止する役割も担っています。
このように、人間にとって非常に大切な細胞を守る役割をしているのが細胞膜です。この細胞膜を構成しているαリノレン酸などのn-3系成分が不足することで、細胞膜がしっかりと構成されず、老化の促進にもつながってしまいます。
●うつ症状を軽減する効果
健常者とうつ病患者のαリノレン酸やDHA、EPAなどn-3系脂肪酸の蓄積量を調べたところ、うつ病患者の方が有意に低かったことが明らかとなっています。これによって、αリノレン酸などのn-3系脂肪酸はうつ症状を軽減させる効果があると考えられています。
特に妊娠・出産期には、αリノレン酸やDHA、EPAなどのn-3系脂肪酸の枯渇リスク[※11]が高まります。これによって、産後うつ病の危険性に関与する可能性が考えられるため、この時期は特に意識して摂取する必要があります。
●その他αリノレン酸の働き
循環器…呼吸器系…心血管疾患の初期予防、高血圧抑制
美容系…皮膚のしわやたるみ予防
[※11:枯渇リスクとは、その物質が尽きてなくなる危険性のことをいいます。]
食事やサプリメントで摂取できます
α-リノレン酸を多く含む食材
こんな方におすすめ
○血栓症を予防したい方
○血流を改善したい方
○アレルギー症状を予防したい方
○免疫力を向上させたい方
○老化予防したい方
○記憶力が気になる方
○魚を摂取する機会が少ない方
α(アルファ)リノレン酸の研究情報
【1】生後6カ月~24カ月の小児では必須脂肪酸の摂取は不可欠で、特にDHAが不足すると網膜機能や認知機能に影響を及ぼします。特にDHAや、DHAに変換されるαリノレン酸は母乳が一番の摂取源であるため、粉ミルクなど人工食などには、αリノレン酸を添加する強化栄養食品が販売され、αリノレン酸の重要性が注目されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21929635
【2】これまでの研究により、亜麻仁には骨の健康に対する研究が報告されています。特に亜麻種子中のリグナン成分には骨粗しょう症予防が、αリノレン酸を豊富に含む、亜麻種子油(フラックスシードオイル)に骨強化作用が、報告されており、亜麻種子の有用性が注目されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21726979
【3】高脂肪食摂取ラットに、αリノレン酸を1日当たり 500μg/kg の量で4週間摂取させたところ、糖尿病による炎症関連物質のTNF-αやIL-6の増加を抑制するほか、活性酸素の上昇を抑制することにより、αリノレン酸には抗炎症作用と心血管保護作用を示しました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21722811
【4】マウスにαリノレン酸を摂らせると、血小板活性化因子とトロンビンを阻害され、血小板凝集抑制作用により、動脈血栓予防効果が示唆され、αリノレン酸に抗血栓作用が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21571683
【5】高脂肪食による肥満ラットを対象に、αリノレン酸豊富なチア種子を5%含む餌を8週間摂取させることにより、心臓や肝臓や内臓脂肪に蓄積された脂肪分の増加が抑制されたことから、αリノレン酸に心血管保護作用や生活習慣病予防効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22520843
【6】αリノレン酸を摂取することで、肺炎になるリスクを31%減少し、リノレン酸では4%減少することが確認できました。αリノレン酸には肺炎予防効果があることが確認されたことから、αリノレン酸に肺炎予防効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22031659
参考文献
・日経ヘルス 編 サプリメント辞典 日経BP社
・日本健康食品・サプリメント情報センター 編 健康食品・サプリメント「成分」のすべて ナチュラルメディシンデータベース 同文書院
・中屋豊 著 図解入門 よくわかる栄養学の基本としくみ 秀和システム
・Huffman SL, Harika RK, Eilander A, Osendarp SJ. 2011 “Essential fats: how do they affect growth and development of infants and young children in developing countries? A literature review.” Matern Child Nutr. 2011 Oct;7 Suppl 3:44-65.
・Kim Y, Ilich JZ. 2011 “Implications of dietary α-linolenic acid in bone health.” Nutrition. 2011 Nov-Dec;27(11-12):1101-7.
・Xie N, Zhang W, Li J, Liang H, Zhou H, Duan W, Xu X, Yu S, Zhang H, Yi D. 2011 “α-Linolenic acid intake attenuates myocardial ischemia/reperfusion injury through anti-inflammatory and anti-oxidative stress effects in diabetic but not normal rats.” Arch Med Res. 2011 Apr;42(3):171-81.
・Holy EW, Forestier M, Richter EK, Akhmedov A, Leiber F, Camici GG, Mocharla P, Lüscher TF, Beer JH, Tanner FC. 2011 “Implications of dietary α-linolenic acid in bone health.” Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2011 Aug;31(8):1772-80.
・Poudyal H, Panchal SK, Waanders J, Ward L, Brown L. 2012 “Lipid redistribution by α-linolenic acid-rich chia seed inhibits stearoyl-CoA desaturase-1 and induces cardiac and hepatic protection in diet-induced obese rats.”J Nutr Biochem. 2012 Feb;23(2):153-62.
・Merchant AT, Curhan GC, Rimm EB, Willett WC, Fawzi WW. 2005 “Intake of n-6 and n-3 fatty acids and fish and risk of community-acquired pneumonia in US men.” Am J Clin Nutr. 2005 Sep;82(3):668-74.
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