あんずとは
●基本情報
あんずとは、バラ科サクラ属の落葉小高木の一種で、実はアプリコットとも呼ばれ、ジャムやドライフルーツとして食されます。
梅やすももと近縁種で、別名を唐桃(カラモモ)、学名をPrunus armeniaca L.といいます。
あんずは4000年以上前から栽培されています。中国では医者のことを杏林と呼びますが、これは病人を治した仙人が謝礼の代わりにあんずを植えさせ、林になったという逸話によります。
あんずの花はももに続いて早く咲き、4月中旬には淡いピンクや白の花を咲かせ、山国の春の象徴としても名高く風物詩となっており、花の見ごろになると花見客が訪れるほどです。果実は橙黄色で円形~短楕円系、重量は50~70gあり、甘みが少なく、酸味の強いものが多くあります。あんずは排水の良い土地に育つため、夏季に雨の少ない長野県や山梨県、東北地方などで主に栽培されており、6月下旬から7月中旬に収穫されます。
●あんずの原産国と歴史
原産地はヒマラヤ西北部の乾燥地帯で、中央アジアやヨーロッパで発展したあんずは甘いものが多く、アジアで改良されたあんずはすっぱいものが多いという特徴があります。中国では五果[※1]のひとつとして大切にされています。日本へは奈良時代に中国から梅と共に渡来したといわれています。
●あんずの種類と利用
あんずは、「平和」「新潟大実」「山形3号」「信山丸」「信州大実」「ゴールドコット」「ハーコット」などが主要な品種とされています。
平和や新潟大実、山形3号、信山丸はシロップ漬けやジャムなどの加工用として、信州大実やゴールドコット、ハーコットなどは甘みがあるため生食用として生産されています。
また、種子は杏仁(あんにん、しんれん)といわれ、香りが良く機能性成分が多く含まれていることから杏仁豆腐やお菓子などに利用される他、薬用や化粧品としても利用されています。
●あんずに含まれる成分と性質
あんずの果実にはβ-カロテンが非常に多く、生のあんずはピーマンよりも多く、干したあんずではほうれん草よりも多く含んでいるといわれています。
β-カロテンは体内でビタミンAとして働くため、目や皮膚の健康を保つ他、消化器などの粘膜を丈夫にすることで、外部からの細菌類の侵入を防ぐ役割を持ちます。
また、カリウムや鉄などのミネラル類も含んでおり、高血圧予防や貧血予防にも有効的です。また、ビタミン類に加えて食物繊維も豊富なため、便秘の解消や予防にも効果的です。
また、種には青酸配糖体[※2]や脂肪油[※3]、ステロイド[※4]などを含んでおり、咳止めや風邪予防の生薬として用いられています。
<豆知識>干しあんずは高カロリー?
干しあんずは生のあんずと比較するとカロテンをはじめミネラル類やビタミン類を豊富に含んでいますが、水分がきわめて少なく、カロリーが高いという特徴があります。
ミネラルやビタミンなどの微量栄養素を摂取する目的で干しあんずを多く食べてしまうと、肥満を招くこともあるので食べる量には注意が必要です。
[※1:五果とは、5種類の果実で、もも、すもも、あんず、なつめ、栗のことです。]
[※2:青酸配糖体とは、糖に青酸が結合したもののことです。]
[※3:脂肪油とは、油脂のうち融点が低く常温で液状のもののことです。]
[※4:ステロイドとは、副腎皮質ホルモンのもつ抗炎症作用に着目した化合物のことです。]
あんずの効果
●夜盲症の予防・改善効果
あんずにはβ-カロテンが豊富に含まれています。
β-カロテンは体内でビタミンAに変化するため、特に夜盲症の予防や視力低下の抑制などに効果的であることが知られています。
夜盲症とは、夜間などの薄暗い場所や暗所において極端に視力が低下し、ものが見えづらくなる病気のことです。
人間は、明るさや暗さを目の奥に存在する網膜という場所で認識します。
網膜にある光を受け止める受容体[※5]には、色を捉えるものと、光を捉えるものの2種類があります。このうち光を捉える視物質の働きにビタミンAが関与しています。
しかし、ビタミンAが不足すると、網膜の光に対する反応が鈍くなり、薄暗い場所や夜間では、視力の低下を引き起こしてしまうのです。
あんずには、β-カロテンが豊富に含まれており、必要量のビタミンAを補うことができるので、ビタミンA不足による夜盲症の予防や改善に効果的であるといえます。【1】
●貧血を予防する効果
あんずにはミネラルの一種である鉄が含まれています。肺で取り込んだ酸素を全身の細胞や組織に運ぶ重要な役割をしています。
また、筋肉中のミオグロビンというたんぱく質の構成成分として、血液中の酸素を筋肉に取り込む働きもあります。
鉄は血液中ではトランスフェリン[※6]と結合して、骨髄・肝臓などの臓器へ運ばれ貯蔵されます。貯蔵された鉄は、血中で働きを持つ機能鉄が不足すると、血液中に放出され、機能鉄として酸素を運ぶ働きをします。
酸素が不足すると、細胞は様々な代謝をスムーズに行うことができず、疲れやすくなったり貧血が起こります。
あんずには鉄が含まれているため、貧血を予防・改善する効果があるといえます。
●高血圧を予防する効果
あんずにはミネラルの一種であるカリウムが含まれています。カリウムは体内でナトリウムとのバランスを保つことで血圧を正常に保つ役割を持っています。
近年、味の濃い食事や加工食品などによって、体内のナトリウム濃度が高まり、高血圧の人が増えています。血圧はカリウムとのバランスを保つことによって正常に保たれているので、カリウムを摂取することで高くなった血圧を下げる働きがあります。
よって、カリウムを含むあんずは高血圧を予防・改善する効果があるといえます。【3】
●便秘を解消する効果
あんずには、食物繊維が含まれています。
食物繊維は腸内の掃除役ともいわれており、腸内に溜まった不要な老廃物を外へ排出する役割を持ちます。
そのため、あんずは便秘の予防や解消に効果的です。【4】
●疲労回復効果
あんずにはクエン酸やリンゴ酸、ブドウ糖などの疲労回復に効果的な成分が含まれています。
特に干しあんずはカロリーが高いため、夏バテによる疲労回復には効果的です。【5】【6】
[※5:受容体とは、細胞表面や内部に存在している物質です。ホルモン・神経伝達物質・ウイルスなどと結合することにより、細胞の機能に影響を与えます。]
[※6:トランスフェリンとは、血液、乳汁、唾液、涙の中にあり、鉄と結合する糖たんぱく質です。]
あんずは食事やサプリメントで摂取できます
こんな方におすすめ
○夜盲症を予防・改善したい方
○貧血を予防・改善したい方
○高血圧を予防・改善したい方
○便秘を予防・改善したい方
○疲労を回復したい方
○夏バテを予防したい方
あんずの研究情報
【1】アメリカ原産あんずを調べた結果、フェノール類は、0.3-7.4㎎/ガリウム酸当量、抗酸化能力が0.026-1.858 mg/アスコルビン酸当量含まれていることが分かりました。また、品種改良をしたあんずには、カロテンが豊富に(37.8 μg/β-カロテン当量)含まれていることが分かりました。あんずには、グルコース、フルクトースやカリウム、カルシウム、マグネシウムも豊富に含まれています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18975966
【2】あんずやモモに含まれているアミグダリンは、アレルギーによって引き起こされる侵襲および炎症を抑制されたことから、あんずは抗炎症作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18670089
【3】高血圧患者を対象とした試験33件(2609名)によると、カリウムを摂取すると、最高血圧で1.9~4.3mmHg 最低血圧で0.5~3.5mmHg 低下することが確認されました。あんずはカリウムを含むことから、高血圧予防に役立つと考えられます。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9168293
【4】成人男女20,630名において、性別や摂取栄養素、ライフスタイルと排便回数との関係を調査した結果、食物繊維が多い人ほど、排便回数が多いことが確認されました。あんずは食物繊維を含むことから、腸内環境を整えるはたらきが確認されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14972075
【5】17名男性大学生ランナーに5kmを走る2時間前にクエン酸塩(0.5kg/body mass)またはプラセボを投与しました。プラセボ群に比べ、クエン酸塩投与群は、5km走のタイムがプラセボ群と比べて有意に縮まっていました(クエン酸塩投与群:1153.2秒、プラセボ群:1183.8秒)。このことから0.5kg/body massのクエン酸塩の摂取は、短時間での運動のパフォーマンスを向上させることが確認されています。あんずはクエン酸を含むことから、疲労回復および持久力維持に役立つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14665584
【6】健康な成人男性6名に対し、45分間、自転車エルゴメーターを用いて運動負荷をかけました。運動負荷直後、クエン酸-グルコース投与、レモン果汁‐グルコース投与、またはグルコースのみ(プラセボ群)を投与しました。その後、20分、40分、60分後の血中の乳酸値を測定しました。その結果、クエン酸‐グルコース投与群、レモン果汁‐グルコース投与群はプラセボ群と比較して、運動後60分の時点で血中乳酸値を有意に低下させました。あんずはクエン酸を含むことから、筋疲労を和らげる働きがあると考えられました。
http://www.vic-japan.gr.jp/vicJ/no.104/No104.pdf
参考文献
・野間佐和子 旬の食材 四季の果物 講談社
・五明紀春 食材健康大事典 時事通信社
・蔵敏則 著 食材図典 小学館
・Hwang HJ, Kim P, Kim CJ, Lee HJ, Shim I, Yin CS, Yang Y, Hahm DH. (2008) “Antinociceptive effect of amygdalin isolated from Prunus armeniaca on formalin-induced pain in rats.” Biol Pharm Bull. 2008 Aug;31(8):1559-64.
・Whelton PK, He J, Cutler JA, Brancati FL, Appel LJ, Follmann D, Klag MJ. (1997) “Effects of oral potassium on blood pressure. Meta-analysis of randomized controlled clinical trials.” JAMA. 1997 May 28;277(20):1624-32
・Sanjoaquin MA, Appleby PN, Spencer EA, Key TJ. (2004) “Nutrition and lifestyle in relation to bowel movement frequency: a cross-sectional study of 20630 men and women in EPIC-Oxford.” Public Health Nutr. 2004 Feb;7(1):77-83.
・Oöpik V, Saaremets I, Medijainen L, Karelson K, Janson T, Timpmann S. (2003) “Effects of sodium citrate ingestion before exercise on endurance performance in well trained college runners.” Br J Sports Med. 2003 Dec;37(6):485-9.
・下村 吉治 “クエン酸もしくはレモン果汁摂取による運動後の血中乳酸消去の促進” ビタミン広報センター