セレン

selenium

セレンとは、人間にとって必要不可欠な五大栄養素・ミネラルのひとつです。
体内のサビつきの原因となる「活性酸素」から体を守り、体の内側から若々しさを保ちます。ビタミンEと一緒に摂ることで、さらに効果が高まります。

セレンとは?

●基本情報
セレンとは、必須ミネラルのひとつで人間の体内では、抗酸化反応を司る酵素たんぱく質を構成し、体内の抗酸化作用に重要な役割を担っています。成人の場合は体内にセレンが約15 mg存在しています。古くから毒性の強い元素として知られていましたが、1957年には研究により人間にとって絶対に必要な微量ミネラルであるということが明らかになりました。

●歴史
セレンは、1817年にスウェーデンの化学者イェンス・ベルセリウスによって発見されました。
セレンの名称の由来は元素の周期表に基づいています。周期表とは、様々な物質を構成する元素をその性質によって規則的に並べたものです。セレンはテルルという金属の一種と性質がよく似ていたため、周期表上でテルルのすぐ上に位置づけられました。テルルはラテン語で地球を意味しており、地球のすぐ上には月があることから、セレンはギリシャ神話の月の女神セレネ (selene)を元に名づけられました。
また、セレンが燃えるときには月のような光を出すことからこの名称がついたともいわれています。

●セレンの種類
セレンは元素記号Se、原子番号34の金属で、赤色セレン、灰色セレンなどいくつかの同素体 [※1]がありますが、灰色の金属セレンが最も状態が安定しています。自然の中では地殻や海水、土壌などに含まれていて、セレンは水銀やカドミウムの毒性を軽減する作用があることが確認されています。河川などの水銀汚染が原因となった水俣病 [※2]や、カドミウム汚染が原因であるイタイイタイ病 [※3]の発症に個人差があったのはセレン摂取量の差が一因だとする説もあります。

●セレンの吸収
セレンがどんな食品にどのくらい含まれているのかを示すデータは少なく、比較的藻類、魚介類、肉類、卵黄に多いということは明らかになっています。また食品中のセレンは、その産地の土壌のセレンや飼育資料のセレン濃度を強く反映することがわかっています。
食品に含まれるセレンの多くはたんぱく質と結びついており、たんぱく質と同時に吸収されると考えられおり、その吸収率は50%以上だといわれています。セレンの1日の推奨量は、表の通りとなっています。
魚介類や穀物など様々な食材から摂取できるため、不足する心配はほとんどありません。

●セレンの欠乏症
セレンがどのように吸収され、使われるかは明らかになっていませんが、不足した時の欠乏症として有名なのは、中国の克山地域(こくざんちたい) [※4]で発生した克山病と、カシン・ベック病 [※5]です。克山病は心筋症の一種で、うっ血性心不全、心臓突然死、不整脈などの症状がみられます。小児や妊娠期の女性に多く、セレン剤を飲むことによって発生率・死亡率を激減させることができるとわかっています。
完全静脈栄養 [※6]を行った時などには、セレンが不足し下肢の筋肉痛、皮膚の乾燥、心筋障害などが起こると報告されています。
このほかセレンが不足することによって起こる症状としては、フケの増加、髪が抜ける、白内障にかかりやすくなる、シミが増える、大気汚染に弱くなる、筋力が低下する、心臓が弱り心筋症・不整脈・動脈硬化が起こる、発ガンリスクが高まる、老化が早まる、男性では精子が減る、女性では更年期障害の症状が増す、といったものがあります。

●セレンの過剰症
セレンの耐容上限量 [※7]としては、個人差がありますが1日に300 µgです。
セレンはほかの微量ミネラルと比べて毒性が強く、必要量と中毒量の範囲が近いためサプリメントなどで過剰に摂取することは注意が必要です。セレンを慢性的に過剰摂取すると、爪の変形や脱毛、胃腸障害、嘔吐、腹痛、下痢、疲労感、焦燥感、末梢神経障害、皮膚症状などがみられます。さらに、グラム単位で大量にセレンを摂ると、重症の胃腸障害、神経障害、心筋梗塞、急性の呼吸困難、腎不全などを引き起こします。
妊娠中の場合は、催奇形性や流産のおそれがあるため過剰摂取は避けなければなりません。
日本の場合は土壌中に適度なセレンがあり、米と魚介類を中心に1日100 µg程度摂取していると推定されています。この量は、1日の必要量をカバーできる量です。

<豆知識①> 男性とセレン
セレンをはじめ、亜鉛などの微量元素は精巣の発育、精子の形成や運動性などに関わっていて、男性不妊の点からも研究が進められています。精液には亜鉛が多く含まれていることはよく知られていますが、セレンも含まれています。セレンは精子の形成に、亜鉛は精子の運動性に関わっているのではないかと考えられています。セレンは男性にとっては特に重要な栄養素といえます。

<豆知識②> 日本食はセレンの宝庫
土壌中のセレンの割合は土地ごとに異なりますが、この差が収穫される食物のセレン量に影響を与えます。アメリカ南西部は土壌中のセレンの量が少なく、脳卒中の患者数が多いといわれています。アジアの食生活はセレンを十分に摂取できており、特に海産物が多い日本食はセレンの宝庫ともいわれています。

[※1:同素体とは、同一の元素から構成されていますが、化学的・物理的性質の異なる物質です。例えば、オゾン (O3)と酸素 (O2)や、ダイヤモンドと黒鉛 (どちらも炭素Cから成る)などです。]
[※2:水俣病とは、中毒性中枢神経疾患です。熊本県水俣市において環境汚染による食物連鎖によって引き起こされた公害となりました。]
[※3:イタイイタイ病とは、鉱山の製錬に伴う未処理排水により富山県の神通川下流域で発生した公害の一つです。]
[※4:克山地域は、中国の北東部、黒滝江症の地域です。]
[※5:カシン・ベック病とは、低セレン地域である中国北部やシベリアの一部で子供に多く発症する病気で、O脚、X脚、自然骨折がみられます。この地方の穀物に含まれるミネラル不足、飲料中の鉄塩、菌類 (キノコ・カビ)などが原因とされています。]
[※6:静脈栄養とは、栄養素を静脈から直接注入して体内に補給する方法です。]
[※7:耐容上限量とは、日常的に摂取し続けた場合に健康障害のリスクがないと考えられる上限の量です。]

セレンの効果

●老化や病気から体を守る効果
セレンは活性酸素とたたかう抗酸化酵素の合成に必要で、酸化 [※8]を防ぎ老化や動脈硬化を予防する効果があります。
体を構成する細胞の膜などには、不飽和脂肪酸が含まれています。不飽和脂肪酸はマーガリンやサラダ油などにも含まれ、人間の体に欠かせないものです。しかし、酸化されやすいという欠点があります。体内で脂質が酸化されると様々な悪影響が与えられます。体の組織を老化させたり、動脈硬化を引き起こしたりします。動脈硬化は、多くの生活習慣病にもつながるため、セレンを摂り、体の内側から抗酸化力を高め、酸化を防ぐことが大切なのです。
セレンは老化の原因物質のひとつである過酸化脂質の生成を抑制する作用があります。この作用には「グルタチオンペルオキシダーゼ」と呼ばれる抗酸化酵素 [※9]が必要とされます。セレンはこの酵素の構成成分のひとつであるため、重要な役割を担っているのです。この働きは、ビタミンEと一緒に摂ることでより大きな効果が期待できます。
その他にも、ビタミンCの再生や、甲状腺ホルモン [※10]の代謝に関わる酵素の構成成分でもあります。
これらの働きによって、セレンは酸化から体を守り、老化しやすい目を守る、大気汚染から呼吸器粘膜を守る、血管の老化を防ぐ、体の組織の柔軟性を保つ、更年期障害の症状を改善するといった効果を発揮します。【1】【2】【5】【8】

●ガンを予防抑制する効果
セレンとガンの関係については多くの疫学調査が行われてきました。ガン患者の血中セレン濃度が健康な人間より低いことや、土壌にセレンが少ない地域ではガン死亡率が高いことから、セレンが不足すると様々な部位のガンの発生率や死亡率が高いとの報告があります。
中でもセレンは前立腺ガン、肺ガン、結腸直腸ガンの発生を抑え、転移を防ぐといわれています。特に前立腺がんの場合は、血中・血しょう中・足の爪のセレン濃度を測定し、食事でのセレンの摂取量を増加するとリスクを減少させると報告されました。
しかし、ガンのできる部位によって予防効果は異なることが知られています。
セレンを多く摂取することでガンの予防につながる可能性はあり、このガン抑制作用は、ガン細胞の増殖を抑える働きによるものだろうと考えられています。しかし、ガンの予防に効果的な量は、普段の摂取状況やセレンが体内でどれくらい働いているかによって個人差があるため、現時点では予防のための目標量は定められていません。【1】【2】【3】【6】【7】

[※8:酸化とは、物質が酸素と化合し、電子を失うことをいいます。サビつきともいわれています。]
[※9:抗酸化酵素とは、たんぱく質や脂質、DNAなどが酸素によって酸化されるのを防ぐ作用(抗酸化作用)を示す酵素です。]
[※10:甲状腺ホルモンは、全身の細胞に作用して、代謝を上昇させるホルモンです。]

セレンは食事やサプリメントで摂取できます

セレンを含む食品

○わかさぎ
○かつお
○ほたて
○うに
○いわし
○ネギ

こんな方におすすめ

○いつまでも若々しくいたい方
○コレステロール値が気になる方
○動脈硬化を予防したい方
○老化を防ぎたい方
○ガンを予防したい方

セレンの研究情報

【1】セレンは、タンパク質の中に取り入れられ、抗酸化や抗炎症作用を示します。体内のセレン濃度が低い状態では、免疫機能や認知機能が低下し、疾病リスクが高まります。セレンは、抗菌作用や抗ウィルス作用、生殖機能を正常に保つのに重要で、甲状腺自己免疫疾患を抑制します。またセレン摂取が前向き試験において肺ガン、大腸ガン、前立腺ガンおよび膀胱ガンのリスクを低下させることがわかりました。しかし、近年の研究では、セレンの過剰摂取はⅡ型糖尿病のリスクを増加する可能性が考えられており、適量摂取が望ましいと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10963212

【2】ヒト肝ガン細胞にセレンを投与したところ、血管内皮増殖因子(VEGF)や炎症性たんぱく質の一種(インターロイキン)の活性が阻害されることがわかりました。このはたらきには抗酸化酵素グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)が関連することがわかりました。セレン濃度が低い患者にセレンを補給することは、肝細胞がんの初期予防に役立つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22105228

【3】セレン摂取によるがん予防効果について研究しました。152538名を対象にした研究によると、血中セレンの低濃度とガンの発症に相関性があることがわかりました。セレンががん発症予防に重要な役割を果たすと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22004275

【4】セレン、銅および亜鉛は哺乳類の正常な精子形成に必須である微量ミネラルであり、抗酸化酵素として、重要な役割を果たします。精索静脈瘤をもつ患者の精液中のセレン、銅および亜鉛の濃度を測定したところ、精索静脈瘤患者は健常人に比べセレンが有意に低いことがわかりました。さらにSeが、精子濃度、運動性および形態と関係することからも、セレンが生殖機能に重要な役割を果たすと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21240565

【5】10名の健常体重(BMI22.8±0.41)被験者と10名の肥満(BMI28.00±0.81)被験者を対象に、セレン200μg/ml を3週間摂取させたところ、肥満患者の脂質ヒドロペルオキシドが減少したことから、セレンが肥満患者の脂質酸化を抑制するはたらきを持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21593809

【6】肺がん患者49名を対象に、血中ミネラルや抗酸化物質について測定したところ、進行がん患者は初期ガン患者に比べて、血中セレン濃度が低下していたことがわかりました。セレンの血中濃度が、ガン発症・重症度・進行度の指標となることが考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21530173

【7】セレンを1日200μg、6週間摂取することで、前立腺がんのリスクを低下させる可能性が報告されています。セレンは血中前立腺特異抗原を減少させ、血中抗酸化酵素グルタチオンペルオキシダーゼおよびエリスロポエチン濃度を上昇させるはたらきにより、前立腺がんを予防するはたらきを持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21419321

【8】敗血症患者(SIRSに侵された患者)150例を対象に、セレンを1日目1000μg、2~14日目1500μg を14日間摂取させたところ、死亡率の差はありませんでしたが、血中抗酸化酵素グルタチオンペルオキシダーゼの活性が上昇したことから、セレンが血中内の抗酸化活性を高めることが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21347869

【9】HIV患者を対象にセレンを摂取させたところ、妊娠中および妊娠後のHIV進行が抑制され、子供の生存率を高まったことから、セレンが免疫機能に重要な役割を果たすと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22419344

【10】130名の妊娠女性および30名の非妊娠期女性の血清中の銅およびセレンについて計測しました。妊娠女性における血中の銅濃度は上昇しましたが、セレン濃度は低下しました。セレンを妊娠中に摂取する必要性が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22248939

【11】セレンの補給はセレン欠乏症の地域で公衆衛生政策として考えられています。セレンの欠乏症は、男性および女性の不妊症、流産、子癇前症、胎仔発育制限、早産、妊娠糖尿病および胆汁のうっ滞を含む、いくつもの生殖の問題および産科的合併症を引き起こします。今後、セレン摂取の大規模な介入試験(健康および生殖に関して)が必要だと考えられます。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21963101

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参考文献

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