ナイアシン

niacin,nicotinic acid,nicotinamid

ナイアシンはビタミンB群のひとつです。
糖質や脂質を燃やしてエネルギーを作り出すときや、二日酔いの原因となるアルコールを分解するときに働く「酵素」を助ける「補酵素」としての役割を担っています。
皮膚や粘膜の健康維持を助けるほか、脳神経を正常に働かせる効果があります。

ナイアシンとは

●基本情報
ナイアシンはビタミンB群 [※1]の一種で、体内に最も多く存在するビタミンです。ビタミンB群は、体の代謝 [※2]に欠かせない栄養素として全身で働いています。ナイアシンは野菜などの植物性食品や肉・魚などの動物性食品に含まれています。

●ナイアシンの歴史
ナイアシンは、ポーランドの生化学者カシミール・フンクによって発見されました。フンクはビタミンの発見者であり、命名者です。脚気(かっけ) [※3]の原因について研究を進めるうちに、米ぬかに含まれる成分が欠乏すると脚気が起こることを発見し、1911年には米ぬかからビタミンB1を発見しました。その後研究を重ね、米ぬかからニコチン酸 (ナイアシン)を分離することに成功しました。
1937年にはアメリカのエルビエムが、動物の肝臓から分離したペラグラ [※4]予防因子がナイアシンであると発見しました。
ナイアシンは、ニコチン酸とニコチンアミドの総称です。タバコのニコチン [※5]に化学構造が似ていることから、ニコチン酸と名付けられました。しかし、ニコチンとニコチン酸はまったく違う物質で、タバコに含まれる有害なニコチンとは無関係であり、ニコチン酸は体に必要な物質です。
ビタミンB群は8種類あり、発見された順にB1、B2、B3…と番号で呼ばれていました。ナイアシンは3番目に発見されたため、かつてはビタミンB3とも呼ばれていましたが、ビタミンB群は種類が多いので、混乱しないよう名前が付けられるようになりました。

●人間の体内では
ナイアシンは、人間の全身の細胞で補酵素 [※6]として必要とされています。また、酵素の構成成分としても体内に最も多く存在するビタミンで、全ての酵素の2割は、働くときにナイアシンを使っています。
食品として摂取したナイアシンはニコチン酸として吸収され、体内でニコチンアミドに変わります。ニコチンアミドは白色の結晶でにおいはなく、苦味があります。
ナイアシンは食品から吸収するほか、肝臓で牛乳や卵などに多く含まれる必須アミノ酸のトリプトファンから作り出すことができます。そのときにビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6が必要となり、これらのビタミンが不足してもナイアシンを十分に体内で作り出すことができなくなります。

ナイアシンは、食品から摂取した糖質や脂質を燃やしてエネルギーに変えるときに必要な物質です。体がエネルギーを生み出す働きの60~70%にナイアシンが関わっています。ナイアシンは、ほかの物質と結びついてNAD (ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)という物質になり、脂質・糖質・たんぱく質からエネルギーを作るために必要な酵素を助ける「補酵素」として働きます。このNADを必要とする体内の酵素は400種類以上もあり、人の体で働く酵素の約2割を占めています。
こうして細胞の中にあるNADが、食品からとった糖質・脂質・たんぱく質の燃焼を促し、すべての生命活動の源、エネルギーを作ります。そのエネルギーを使うことで細胞や内臓が活動したり、体温を保ったり、体を動かすことができます。
そのほか、ビタミンEやビタミンCなどの抗酸化ビタミン [※7]が作用するときにも関わります。【6】【7】

●ナイアシンの欠乏症
ナイアシンが欠乏すると、皮膚、粘膜や消化管、神経系に影響が出ます。口角炎、食欲不振、不安感などの軽い症状や細胞のエネルギーが不足することで倦怠感を感じることもあります。
欠乏症としてはペラグラという皮膚病が知られています。ペラグラはイタリア語で「荒れた皮膚」を意味し、日光に当たりやすい顔や手足が赤くなり、カサカサになるなどの炎症が起こります。悪化すると胃腸障害や下痢、頭痛・うつ・認知症などの神経障害も生じ、子供の場合は成長障害が起こります。
中南米ではナイアシンを含む食品の摂取が少ない上に、主食のとうもろこしにもトリプトファンが少ないため、現在もペラグラがみられます。
日本では、現在の食生活から考えるとナイアシン不足の心配はありませんが、アルコール依存症の場合は欠乏症が出ることがあります。それは、十分に食事をとらず大量にお酒を飲むと、ナイアシンが不足するためです。食欲減退、口角炎、不安感などの軽い欠乏症がみられることがあります。

●ナイアシンの過剰症
日常の食生活の中で、ナイアシンの摂りすぎによって健康の害が現れることはほとんどありません。ナイアシンを大量に摂取した場合には、皮膚が炎症を起こしてかゆくなりヒリヒリすることがあります。しかしこれは一時的なもので健康上の悪影響はありません。さらに悪化すると、嘔吐や下痢、便秘などの消化器症状や、肝機能低下、劇症肝炎 [※8]などの肝臓障害が生じます。

●ナイアシンを食品から摂るときには
ナイアシンは水溶性のビタミンですが、熱や酸、アルカリ、光などに対して壊れにくい性質があり、調理や保存でも壊れにくいことが特徴です。ただし熱湯には極めて溶けやすく、煮物にすると煮汁中に70%が流れ出ます。そのため、肉や魚の煮物では、煮汁ごと食べられるあんかけやスープ仕立てにするとナイアシンをしっかりと摂ることができます。また、肉類をから揚げにすると、20~40%程度のニコチンアミドが油の中に移行します。
ナイアシンを摂取する基準は、ナイアシン当量 (NE)として設定されています。ナイアシン当量 (NE)とは、体内でトリプトファンからナイアシンが生成される量と、食品に含まれるナイアシンの合算値です。体内ではトリプトファン60 mgからナイアシン1 mgが合成されます。
実際のナイアシンの摂取すべき量や耐用上限量 [※9]は、年齢や性別によって個人差があり、表のようになっています。

[※1:ビタミンB群とは、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、葉酸、ビオチン、パントテン酸の総称です。]
[※2:代謝とは、生体内で、物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです。また、それに伴ってエネルギーが出入りすることです。]
[※3:脚気とは、ビタミンB1の欠乏症です。心不全や末梢神経障害などが起こります。]
[※4:ペラグラとは、ナイアシンの欠乏症の一種で、症状としては手足、顔、首などに皮膚炎が生じます。]
[※5:ニコチンとは、主にタバコの葉に含まれ、強い神経毒性をもつ物質です。]
[※6:補酵素とは、消化や代謝で働く酵素を助ける役割をするものです。]
[※7:抗酸化ビタミンとは、たんぱく質や脂質、DNAなどが酸素によって酸化されるのを防ぐ作用を持つビタミンです。]
[※8:劇症肝炎とは、急性肝炎のなかでも特に重症のもので、肝機能不全や意識障害、昏睡が特徴です。]
[※9:耐用上限量とは、日常的に摂取し続けた場合に健康障害のリスクがないと考えられる上限の量です。]

ナイアシンの効果

●粘膜や皮膚を健康に保つ効果
ナイアシンがNADに変化すると、体内のほかの物質と結びつき、NADP (ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチドリン酸)となります。NADPは、主に脂肪酸が合成されるときに水素を供給する役割を持っています。
そのほかNADPはDNAやホルモンをつくることにも関わっています。この働きによって細胞の生まれ変わりをサポートします。特に生まれ変わりの活発な皮膚の粘膜の健康維持に役立ちます。
ホルモンでは特に、性ホルモンを作る手助けをして正常な発育を促進します。

●二日酔いを防ぐ効果
ナイアシンは、二日酔いを防ぐ働きがあります。お酒のアルコール分は腸で吸収され、血液によって肝臓に運ばれます。肝臓でアルコールは「アルコール脱水素酵素」によってアセトアルデヒド [※10]に分解され、さらにアセトアルデヒドは「アセトアルデヒド脱水素酵素」によって酢酸に分解・解毒されます。その時に働くアルコール分解酵素も、 NADを補酵素として使用します。お酒をたくさん飲んだ時ほどナイアシンが消費されるため、ナイアシンが不足すると、体内にアセトアルデヒドが残り、結果 二日酔いや、頭痛・吐き気などの原因となります。

●血行を促進する効果
ナイアシンは毛細血管を広げる作用があるため、血行がよくなり冷え・肩こり・頭痛を改善し、脳神経の働きをよくします。
また医薬的に薬としても用いられている手法として、大量にナイアシンを投与することで、血液中のコレステロールや中性脂肪を減らし、動脈硬化などの脂質異常症 [※11]を防ぐ働きもあります。悪玉コレステロール (LDL)値を低下させ、脂質の代謝を改善します。このとき善玉コレステロール (HDL)値が低下しないことが特徴です。
ただし糖尿病 [※12]の場合には注意が必要です。ナイアシンはインスリン [※13]の合成に関与し、最近ではナイアシンの大量摂取が糖質の代謝を妨げるという報告もあり、検討が続けられています。自己判断によるナイアシンの過剰摂取は控えるべきです。【1】【2】

[※10:アセトアルデヒドとは、アルコールのもとであるエタノールが酸化されてできる物質で、肝機能にとって障害となります。]
[※11:脂質異常症とは、血液中の脂質が異常に増えている状態で、動脈硬化などの原因となります。]
[※12:糖尿病は、インスリンの不足などによって糖代謝がうまくいかなくなる病気です。もともとインスリンが不足している場合と、年齢や生活習慣によってインスリンが不足していく場合があります。]
[※13:インスリンとは、血糖値をコントロールする作用を持ったホルモンです。]

ナイアシンは食事やサプリメントから摂取できます

ナイアシンが含まれる食材

○かつお
さば
○たらこ
○まぐろ
○レバー
鶏肉
○きのこ類
○緑黄色野菜
○小麦胚芽
○豆類

こんな方におすすめ

○疲れやすい方
○肌荒れが気になる方
○口内炎が気になる方
○冷え性の方
○動脈硬化を予防したい方
○お酒をよく飲む方

ナイアシンの研究情報

【1】Ⅱ型糖尿病または非糖尿病の高脂血症患者44名を対象に、ナイアシン 1,500mg を12週間で摂取させたところ、血中トリグリセリドとLDLコレステロールが減少し、HDLコレステロールが増加したことから、ナイアシンが脂質代謝改善効果および動脈硬化予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7621303

【2】冠状動脈疾患患者160名を対象に、高脂血症治療薬とともにナイアシンを3年間摂取させたところ、LDLコレステロールが減少し、HDLコレステロールが増加しました。冠動脈の閉塞の度合いも軽減されていたことから、ナイアシンが高コレステロール血症予防効果、動脈硬化予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11757504

【3】1993年~2002年にかけて65歳以上の高齢者6158名を対象に、食事から摂取するナイアシンの量とアルツハイマー病の罹患率を調査したところ、ナイアシンの摂取量が多いほど、アルツハイマー病にかかりにくいという結果が得られました。ナイアシンがアルツハイマー病の予防に重要な役割を果たすと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15258207

【4】オーストラリア在住の2,900名(49-97歳) を対象に、水晶体の様子を診察し、白内障と栄養状態を調べたところ、ナイアシンをはじめ、たんぱく質、ビタミンA、チアミンおよびリボフラビンを摂取することで白内障(核内白内障)の予防に役立つことがわかりました。ナイアシンが核内白内障の予防に重要な役割を果たすと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10711880

【5】骨関節炎患者72名を対象に、ナイアシンを12週間摂取させたところ、関節炎の程度に約29% の改善が見られ、炎症の程度を示す赤血球沈降速度が22% 抑制され、関節可動領域が改善しました。このことから、ナイアシンには関節炎及び関連症状における抑制効果が確認されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8841834

【6】高脂血症患者を対象に、ナイアシンの摂取量とコレステロールとの相関性を調査したところ、ナイアシンを摂取することにより、総コレステロールやLDLコレステロール及びトリグリセリドが減少し、HDLコレステロールが増加することが分かりました。ナイアシンは、リポたんぱく質など脂質代謝関連物質にも影響を与えることで、高脂血症予防効果を持つことが示唆されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8853585

【7】中年及び高齢者42名を対象に、ナイアシンを含む栄養食品5g を3週間摂取させると、インスリン様作用に変化はなかったが、成長ホルモンが増加したことから、ナイアシンを含む食品が成長ホルモンの分泌を促進し、代謝を促進するはたらきを持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14609312

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参考文献

・上西一弘 栄養素の通になる 第2版 女子栄養大学出版部

・中嶋洋子 栄養の教科書 新星出版社

・則岡孝子監修 栄養成分の事典 新星出版社

・Tsalamandris C, Panagiotopoulos S, Sinha A, Cooper ME, Jerums G. 1994 “Complementary effects of pravastatin and nicotinic acid in the treatment of combined hyperlipidaemia in diabetic and non-diabetic patients.” J Cardiovasc Risk. 1994 Oct;1(3):231-9.

・Brown BG, Zhao XQ, Chait A, Fisher LD, Cheung MC, Morse JS, Dowdy AA, Marino EK, Bolson EL, Alaupovic P, Frohlich J, Albers JJ. 2001 “Simvastatin and niacin, antioxidant vitamins, or the combination for the prevention of coronary disease.” N Engl J Med. 2001 Nov 29;345(22):1583-92.

・Morris MC, Evans DA, Bienias JL, Scherr PA, Tangney CC, Hebert LE, Bennett DA, Wilson RS, Aggarwal N. 2004 “Dietary niacin and the risk of incident Alzheimer’s disease and of cognitive decline.” J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2004 Aug;75(8):1093-9.

・Cumming RG, Mitchell P, Smith W. 2000 “Diet and cataract: the Blue Mountains Eye Study.” Ophthalmology. 2000 Mar;107(3):450-6.

・Jonas WB, Rapoza CP, Blair WF. 1996 “The effect of niacinamide on osteoarthritis: a pilot study.” Inflamm Res. 1996 Jul;45(7):330-4.

・Crouse JR 3rd. 1996 “New developments in the use of niacin for treatment of hyperlipidemia: new considerations in the use of an old drug.” Coron Artery Dis. 1996 Apr;7(4):321-6.

・Arwert LI, Deijen JB, Drent ML. 2003 “Effects of an oral mixture containing glycine, glutamine and niacin on memory, GH and IGF-I secretion in middle-aged and elderly subjects.” Nutr Neurosci. 2003 Oct;6(5):269-75.

・中村丁次監修 最新版 からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社

・原山建朗 最新・最強のサプリメント大事典 昭文社

・日本サプリメント協会 (NPO) サプリメント健康バイブル 小学館

・清水俊雄 機能性食品素材便覧 特定保健用食品からサプリメント・健康食品まで 薬事日報社

・奥恒行 基礎栄養学 改訂第2版 南江堂

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