ハッカ

mint
ミント 薄荷

ハッカは世界中でみられる多品種のハーブで、栽培されているものだけでも数十種類存在します。古くから食用や薬用として利用されているほか、香りを楽しむためにも使われ人々に親しまれてきました。ハッカ油にはメントールやカルボンという成分が含まれ、胃の働きを活発にする作用や、リラックス効果があります。

ハッカとは

●基本情報
ハッカは世界中で古くから利用されてきたハーブのひとつである「ミント」の和名で、シソ科ハッカ属の多年生植物[※1]です。茎は正方形で、縁がノコギリの刃の形をした葉はもむとスーッとする独特の清涼感が特徴です。収穫は春から秋の間で行われ、夏から秋にかけては白色や淡紅紫色の花を咲かせます。世界中で品種改良が行われていますが、自然雑種も多く存在します。品種として認められているものだけでも100種類以上存在し、それ以外の雑種も含めると数百種類になるといわれています。主な利用部位は葉で、葉から抽出した精油をアロマオイルやエッセンシャルオイルとして利用するほか、乾燥させた葉はハーブティーなどに使われます。

●ハッカの歴史
ハッカは数千年の歴史を持ち、生薬として利用されていた歴史上最も古い栽培植物のひとつです。古代エジプト時代から使われていたという文献も残っています。ハッカの栽培は古代ギリシャに始まり、その後、世界各国に広まったといわれています。古代ギリシャの医学者で「医学の父」といわれるヒポクラテスの医学書に記される41種類の治療薬の中には、健胃薬や気付け薬としてミントが登場しています。また、ヨーロッパでは古くからシャンプーや石鹸の原材料としてもハッカを利用していました。日本には5世紀頃に中国から伝わったといわれており、平安時代の「本草和名」[※3]には「中国で言うハッカは日本のメグサが相当している」と記載されています。メグサとは、ハッカが疲れ目などに対し目草、目ざめ草として用いられていたことに由来しています。
また、ハッカという名前は漢名の薄荷を音読みしたもので、膨大な量から少量の精油しか抽出できないため、少ない荷物にしかならないということに由来しているといわれています。

●ハッカの種類
ハッカにはメントールやカルボンなどの主成分をはじめ、100種類以上の成分が含まれます。品種によって成分の種類や量が異なるため、それぞれの香りや風味に違いが生まれます。ハーブティーなどにはペパーミントとスペアミントがよく利用されますが、精油の成分や使用用途から大きく以下の3種類に大別されます。

・クールミント(和種ハッカ)
原産地はアジア東部で、他の品種に比べメントールを多く含んでいます。主に日本やインドなどで生産されています。北米やヨーロッパに生育するものは苦み成分であるプレゴンを多く含み、アジア東部のものはメントールを多く含みます。苦味と樟脳臭(しょうのうしゅう)[※2]から料理には向かないため、医薬品やお菓子などに利用されます。

・ペパーミント(セイヨウハッカ)
地中海沿岸が原産のハッカの代表種で、主な生産地はアメリカ、インドなどです。スペアミントとウォーターミントの交配種で、主成分はメントールとメントフランです。和種ハッカに比べて甘い香りを持ち、刺激的な清涼感が特徴です。多くはガムや歯磨きに利用されています。

・スペアミント(オランダハッカ)
19世紀初めに、オランダ船から日本に伝えられたことからオランダハッカと呼ばれます。原産地であるヨーロッパで人気の高い品種で、葉はペパーミントより大きく、料理に多く利用されます。主成分はカルボンで、メントールはほとんど含まれません。甘い香りを持ち、ペパーミントやクールミントに比べて青臭みがあり清涼感が弱いのが特徴です。主な生産地はヨーロッパ、アメリカ、インドなどです。

●ハッカの生産地
日本での本格的な栽培は、江戸時代に岡山県で始まりました。明治時代には北海道の北見地方で多く栽培されるようになり、最盛期には日本のハッカ生産量が世界の70%を占めていました。しかし戦後、人工のメントールも生産されるようになり、国内の栽培は衰退していきました。現在、全国で栽培される90%以上が北海道で栽培されています。

●ハッカに含まれる成分と性質
ハッカの主成分であるメントールは医薬品の材料としても利用されており、健胃作用、抗菌作用、鎮痛作用、血管を収縮させる作用などがあります。他にも粘液分解作用や抗ウイルス作用を持つメントン、去痰作用を持つメントフラン、強壮作用を持つサビネンなどが含まれます。また、リラックス効果があるリモネンも含まれます。

[※1:多年生植物とは、茎の一部、地下茎、根などが枯れずに残り、複数年にわたって生存する植物のことです。]
[※2:樟脳とは、クスノキの木部や樹皮から得られる物質です。独特の匂いと味をもち、防虫剤に用いられます。]
[※3:本草和名とは、平安前期にできた日本最初の漢和薬名辞書です。大医博士 深根輔仁(ふかねのすけひと)が醍醐天皇の勅命をうけて延喜年間(901‐923)に著しました。]

ハッカの効果

●胃腸の機能を高める効果
​​ハッカに含まれるメントールには胃の働きを活発にする働きがあることから、消化不良の改善に効果があります。アルコールを飲み過ぎたときや、食べ過ぎたとき、油ものを食べた後にはハーブティーを飲むと、胸やけを防いで消化を促進します。さらにメントールには腸内ガスの排出を促す作用があります。また、スペアミントの主成分であるカルボンにも、消化液の分泌を促して胃を健康に保つ効果があります。【1】【2】【3】

●リラックス効果
ハッカには鎮静作用があり、不安を感じたときやイライラしているときなどにハーブティーを飲むと気持ちを穏やかにします。気分を鎮める働きから不眠の改善にも効果を発揮します。さらにハッカには、リラックス効果があり柑橘類の果皮に多いリモネンも含まれます。また、頭をすっきりさせて気分をリフレッシュさせる効果があります。

●殺菌・消毒効果
ハッカには殺菌作用があり、皮膚炎や虫さされのかゆみに効果があります。古くから石鹸やシャンプー、歯磨きにも使われてきましたが、これらはハッカの持つ抗菌作用を利用したものです。

●その他の効果
ハッカには痛みを緩和する作用があり、ハッカ油を肌にぬると打ち身や肩こりなどの改善に効果を発揮します。他にも乗り物酔いを軽減させる働きがあります。
ハッカ油は粘膜への刺激が強いため、肌にぬる際は注意が必要です。

ハッカは食事やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

○胃の健康を保ちたい方
○腸内環境を整えたい方
○心を落ち着かせたい方
○リフレッシュしたい方
○かゆみを抑えたい方

ハッカの研究情報

【1】上部消化管検査に使用する発泡剤服用時に、ハッカ水を用いたことにより蠕動運動を抑制されたことから、ハッカは胃腸の調子を整えるはたらきがあると期待されています。
https://ci.nii.ac.jp/naid/110003434171

【2】過敏性腸症候群の患者16名 (年齢不明、イギリス) を対象とした二重盲検クロスオーバープラセボ比較試験において、ハッカ油0.2 mL含有腸溶カプセルを1~2個×3回/日、3週間摂取させたところ、症状の緩和が認められたことから、ハッカは腸の調子を整えるはたらきが期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/389344

【3】成人141名 (試験群70名、平均60歳、イギリス) を対象とした二重盲検無作為化比較試験において、バリウムにハッカ油0.24 mLを添加したところ、痙攣が抑制されたことから、ハッカは胃腸の調子を整えるはたらきがあると考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7551780

参考文献

・田部井満男 ハーブ・スパイス館 小学館

・五明紀春 食材健康大事典 時事通信社

・佐々木薫 ハーブティー事典 池田書店

・田中平三、門脇孝、篠塚和正、清水俊雄、山田和彦、石川広己、東洋彰宏 健康食品・サプリメント〔成分〕のすべて-ナチュラルメディシンデータベース- 株式会社同文書院

・永野 康弘、寺澤 操、宮城 佳宏、松本 史樹、桑田 祥孝 (2003) “上部消化管検査に於けるハッカ水を用いた蠕動抑制効果についての検討2(X線検査 造影装置・消化器)” 日本放射線技術學會雜誌 59(9), 1028-1029, 2003-09-20

・Rees WD, Evans BK, Rhodes J. (1979) “Treating irritable bowel syndrome with peppermint oil.” Br Med J. 1979 Oct 6;2(6194):835-6.

・Sparks MJ, O’Sullivan P, Herrington AA, Morcos SK. (1995) “Does peppermint oil relieve spasm during barium enema?” Br J Radiol. 1995 Aug;68(812):841-3.

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