copper cuprum

銅とは、タコやカキ、レバーなどに多く含まれるミネラルで、赤血球の形成を助け、多くの体内酵素の正常な働きと骨の形成を助ける栄養素です。
銅は、鉄を体内で利用できるように変える代謝に関わり、貧血を予防する効果があります。
金属としても優れた性質を持っており、身の回りの様々な場面で利用されています。

銅とは

●基本情報
銅とは、様々な酵素の構成成分として生命活動に不可欠なミネラルです。体内では、たんぱく質と結びついて鉄の働きを助けています。
銅は体内に約80mg存在し、その約半分が骨や筋肉に、1割が肝臓中に存在します。

銅は、光沢のある橙赤色の金属で、乾燥した空気中では安定し、湿った空気中では、酸素や水分、二酸化炭素と結びついて緑青 (ろくしょう)を生じます。鎌倉の大仏やアメリカの自由の女神の色も、緑青によるものです。
銅は電気や熱の伝導性が非常に高く、加工しやすいことから電子部品や建造物、キッチン用品、硬貨など身近な所で幅広く利用されています。

<豆知識①>銅が使われている硬貨
日本で使われている6種類の硬貨の中で、銅は1円玉を除いた5種類に使用されています。
日本では江戸時代、金属そのものの価値が高い金や銀の小判が貨幣として使用されていました。しかし、硬貨の流通量が増加するにあたって、安定した大量生産が可能でさびにくく、加工しやすい銅を硬貨に使用するようになりました。
5円玉は亜鉛が混ざった黄銅で、銅が60~70%含まれています。10円玉は亜鉛とすずが混ざっていますが、95%が銅でできています。50円玉と100円玉は、ニッケルが混ざった白銅で、銅は75%、500円玉は亜鉛とニッケルが混ざったニッケル黄銅で、銅は72%です。
ちなみに、アメリカの1セント硬貨は、ほぼ亜鉛でできていますが、表面に銅がメッキされています。

●銅の吸収
摂取した銅のほとんどは小腸で吸収され、肝臓に運ばれて蓄えられます。血漿中では、セルロプラスミンという銅が結合したたんぱく質と結びつき、全身へと運ばれます。そして、ほとんどが胆汁とともに小腸に分泌され、糞便に混じって排泄されます。
銅の吸収率は、摂取量によって大きく変わりますが約44~67%といわれています。
銅はカニやエビなどの甲殻類や、タコやイカ、レバーなどに多く含まれるミネラルです。また、アーモンドなどの種実類や茶葉などにも含まれます。ただし、茶葉の場合は浸出させると、お茶からはあまり摂取することができません。茶葉がそのまま摂取できる抹茶の場合は効率良く銅を摂取することができます。そのほか、お湯で溶いて飲むことができるココアは、カカオ豆に含まれる銅だけでなく、亜鉛、鉄、カルシウム、カリウム、マグネシウムなど豊富なミネラルを失わずに摂取することができます。

<豆知識②>タコやイカの青い血液
タコやイカなどの軟体動物や、シャコやエビなどの甲殻類は、銅を多く含む代表的な食材です。
人間の血液には、鉄が結合したたんぱく質であるヘモグロビンが酸素を全身の細胞や組織に運ぶ役割を担っています。一方で、銅を豊富に含むこれらの動物の血液には、ヘモシアニンという銅が結合したたんぱく質が含まれており、ヘモグロビンと同様の役割を持っています。ヘモグロビン、ヘモシアニンは両方とも色素で、ヘモグロビンは赤色、ヘモシアニンは酸素が結びつくことによって青色を示します。

●銅の歴史
銅は最も古くから人間に知られ、古代エジプト時代から武器や様々な用具として利用されてきた身近な金属です。
銅は、紀元前3000年頃、地中海のキプロス島で多く産出されました。
銅はラテン語で「キプロス島の真鍮」という意味のcyprium (シプリゥム)が語源です。この言葉が、cyprum (シプラム)、cuprum (キュープラム)と変化して、英語ではcupper (カッパー)となっています。
また、紀元前2800年には、エジプトのアプシル神殿で給水管として銅管が使用されました。
その後、どの時代においても銅の光沢の美しさや加工のしやすさから、合金などとして産業の発展に大きく貢献しました。
栄養素としての銅は、以前より鉄を補給しても予防できない貧血があったことから研究されました。
1928年、アメリカの研究者ハートが、ラットを使用した動物実験を行い、銅と鉄を一緒に補給した時にだけ鉄が体内で利用できることや、銅が人間に必要不可欠な栄養素であることを明らかにしました。

●銅の欠乏症
銅は様々な食品に含まれているため、通常の食事によって銅不足になることはほとんどありません。
しかし、銅の量が少ない人工のミルクなど、人工栄養で育てられている未熟児、消化管手術後の患者、下痢を起こしている場合、銅を添加していない高カロリー輸液を長期間投与している場合などに体内の銅が不足することがあります。
銅が不足すると、鉄が十分に足りていても赤血球で酸素を運ぶ役割をするヘモグロビンをうまく合成できず、ヘモグロビンの量が減ったり、赤血球が小さくなり貧血が起こります。
また、骨がもろくなる、毛髪の色素が抜ける、コレステロールや糖質の代謝 [※1]に異常が起こる、白血球が減少する、子どもの発達障害が起こるといった症状がみられます。
銅欠乏の乳児では、鉄剤を与えても貧血、体重増加不良、骨異常、神経変性が起こることがありますが、これらは銅を投与することによって改善します。
また、遺伝的に銅の吸収を行う働きに異常があり、銅が吸収できないために不足するメンケス症候群という銅の欠乏症があります。この病気では、髪の毛が縮れる、発育が遅れる、血管がもろくなって蛇行湾曲するなどの症状がみられます。

●銅の過剰症
銅はミネラルの中でも毒性が低く、過剰に摂っても排泄されるため、通常の食生活で銅の過剰摂取によって健康に害が出る心配はありません。
遺伝的に銅の排泄ができず、体内に銅が蓄積するウィルソン病という過剰症があります。ウィルソン病は重度の肝障害、腎不全、脳神経障害などが起こり、眼には角膜輪と呼ばれる黄褐色・緑色の特徴的な色素沈着を生じます。また、大脳基底核 [※2]のレンズ核の性質が変わり、歩行障害、言語障害、意識障害や痙攣が起こります。ウィルソン病は肝レンズ核変性症とも呼ばれます。

また、銅鍋など銅の調理器具や容器で、酢の物などの酸性食品を調理したり保存をすると、銅が食品中に溶け出して銅の過剰摂取による中毒症状が起きることがあります。中毒症状では、肝硬変、発育不良、黄疸などが起こります。

銅の摂取基準は表の通りです。

<豆知識③>銅の抗菌作用
銅は抗菌作用や消臭効果があることでも知られています。
中でも、衛生管理が難しい銭湯や温泉などで増殖し肺炎の原因となるレジオネラ菌や、食中毒の原因となる病原性大腸菌O-157、腹痛や下痢を引き起こすクリプトスポリジウムという微生物に対して研究が行われ、銅の抗菌作用が実証されました。
これらの作用についてはまだ詳細が明らかになっていないことも多く、今後研究が進められ、さらにその抗菌効果が期待されています。

[※1:代謝とは、生体内で物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです。また、それに伴ってエネルギーが出入りすることを指します。]
[※2:大脳基底核とは、大脳と視床、脳幹を結びつけている神経の集まりのことです。運動調節、認知機能、感情、学習などの様々な機能を担っています。]

銅の効果

●貧血を予防する効果
銅は、体内での鉄の利用を助け、貧血を予防する効果があります。
銅はセルロプラスミンというたんぱく質の構成成分となって、血液中に存在しています。セルロプラスミンは、鉄をヘモグロビンの合成に利用できる形にするために必要な物質です。
赤血球にあるヘモグロビンは、血液の赤い色のもととなる色素で、全身の細胞や組織に酸素を送り届ける役割を担っています。鉄はヘモグロビンの重要な構成成分ですが、食事によって摂取された鉄をそのままヘモグロビンの合成に利用することはできず、セルロプラスミンによって酸化されることが必要です。
つまり、銅がないと体内で鉄を利用することができず、ヘモグロビンをうまく合成することができないため、銅は貧血の予防に効果があるといえます。【4】

●免疫力を高める効果
銅は、T細胞やマクロファージなどの免疫を司る細胞のエネルギー産生に関わる酵素、チトクロムCオキシダーゼの構成ミネラルであることが知られています。また、銅不足により免疫細胞がうまく機能しなくなることが報告されており、銅が免疫力維持に不可欠な栄養素です。【2】

●動脈硬化を予防する効果
血液中の銅は、赤血球にも存在しています。赤血球にある銅は、その多くがSOD酵素の中にあります。SOD酵素は、老化や生活習慣病を引き起こす原因のひとつである活性酸素を分解し、過酸化脂質 [※3]の増加を防ぐ働きがあります。特に過酸化脂質が増加すると、動脈硬化の原因となるため、銅はこれらの予防のためにも大切な栄養素です。【1】

●成長を促進する効果
​銅は、多くの酵素の成分となって働きます。
​骨や血管壁をつくるコラーゲン、エラスチンの生成に働く酵素、神経伝達に働く酵素の成分としても役立ち、乳児の成長や、赤血球、白血球の細胞の成熟にも銅が必要です。
​これらの働きにより、銅は骨や血管を強くすることで、成長を促進する効果があるといえます。【3】

​​●髪や肌の健康を保つ効果
​銅は、毛髪の色素であり肌を紫外線から守る働きをするメラニン色素をつくるために必要な、チロシナーゼという酵素の合成にも欠かせません。このため銅が不足すると、毛髪や皮膚の色が抜け落ちたり、毛髪が縮れたりします。銅はつややかで健康的な肌を守るためにも必要なのです。【4】

[※3:過酸化脂質とは、コレステロールや中性脂肪などの脂質が活性酸素によって酸化されたものの総称です。]

銅は食事やサプリメントで摂取できます

銅を多く含む食材

○魚介類:イカ、タコ、干しエビ、カキ、あんこうの肝など
○肉類:レバー
○その他:ココア、カシューナッツ、アーモンド、大豆、そらまめなど

こんな方におすすめ

○貧血の方
○動脈硬化を予防したい方
○骨粗しょう症を予防したい方
○成長期のお子様

銅の研究情報

【1】銅は体内の抗酸化酵素SODを構成するミネラルです。SOD酵素は活性酸素によりDNA、タンパク質、脂質などの細胞を作る成分が酸化ダメージを受けるのを防御しています。また銅はSOD以外にも多くの抗酸化酵素の構成成分であることから、銅は体の防御機能や抗酸化力に大きな役割を果たしています。

【2】銅はチトクロムCオキシダーゼという酵素の構成成分です。チトクロムCオキシダーゼは免疫細胞など細胞のエネルギー産生に関わります。銅が不足すると、T-細胞とマクロファージの活性が低下することも報告されており、重篤な銅欠乏症では血液や骨髄、リンパ球など免疫組織に大きな障害を及ぼすと危険性が指摘されていることから、銅が免疫機能に大きな役割を果たすと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22694954

【3】銅はリジルオキシダーゼの構成成分として知られています。リジルオキシダーゼはコラーゲンやエラスチンの架橋構造に不可欠な酵素であり、銅が不足するとこの酵素はうまく機能しなくなることから、銅がコラーゲンやエラスチン産生に重要な役割を果たすと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16112186

【4】銅は多くの酵素を構成するミネラルで、抗酸化酵素SOD、ヘモグロビン合成酵素セルロプラスミン、コラーゲン関連酵素リジルオキシダーゼ、メラニン合成酵素チロシナーゼなどの構成ミネラルで、はたらきに重要な役割を果たします。特にチロシナーゼはメラニン産生に関わるため、機能不全に陥ると、毛髪や光彩の色素障害につながると考えられます。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16112186

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参考文献

・中村丁次監修 最新版からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社

・上西一弘 栄養素の通になる第2版 女子栄養大学出版部

・則岡孝子監修 栄養成分の事典 新星出版社

・井上正子監修 新しい栄養学と食のきほん事典 西東社

・中嶋洋子 栄養の教科書 新星出版社

・吉田企世子 安全においしく食べるためのあたらしい栄養学 高橋書店

・中屋豊 よくわかる栄養学の基本としくみ 秀和システム

・清水俊雄 機能性食品素材便覧 特定保健用食品からサプリメント・健康食品まで 薬事日報社

・EFSA. 2011 “Scientific Opinion on the substantiation of health claims related to copper and protection of DNA, proteins and lipids from oxidative damage” EFSA Journal. 2009; 7(9): 1211.

・EFSA. 2011 “Scientific Opinion on the substantiation of health claims related to copper and function of the immune system.” EFSA Journal. 2009; 7(9): 1211.

・Harris ED, Rayton JK, Balthrop JE, DiSilvestro RA, Garcia-de-Quevedo M. 1980 “Copper and the synthesis of elastin and collagen.” Ciba Found Symp. 1980;79:163-82.

・Arredondo M, Núñez MT. 2005 “Iron and copper metabolism.” Mol Aspects Med. 2005 Aug-Oct;26(4-5):313-27.

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