陳皮(ちんぴ)

Citrus unshiu peel

陳皮とは、みかんの皮を乾燥させた生薬の一種です。
香り成分であるリモネンやテルピネンなどを主成分とする精油を含み、リラックス効果を持ちます。また、ポリフェノールの一種であるヘスペリジンも含まれており、毛細血管を強くして血流を改善する効果も持ちます。それ以外にも健胃・整腸効果や風邪予防などの効果も期待されています。

陳皮(ちんぴ)とは?

●基本情報
陳皮とは、みかんの皮を乾燥させた生薬[※1]の一種で、中国では熟したみかん科のオレンジを干したものが利用され、漢方薬の原料として用いられてきました。
日本では、熟した温州みかんの果皮を乾燥させたものが代用されています。日本薬局方[※2]においては、陳皮とは、温州みかんまたはマンダリンオレンジの成熟した果皮と定義されています。
みかんの皮には、香り成分であるリモネンやテルピネンなどを主成分とする精油が含まれ、お湯に入れるとこの精油が溶け出し、毛細血管を広げて血行を促進し、冷え性や肩こりに効果があります。これらの効果はみかんの皮を干すことでより高まります。また、陳皮にはポリフェノールの一種であるヘスペリジンが含まれています。ポリフェノールとは、植物界に広く存在する色素や苦み、渋み成分のことで、その種類は5000以上あるといわれています。ヘスペリジンにもリモネン同様に血行を促進し、体を温める効果があります。
陳皮はみかんの皮を陰干しして乾燥させ、1年以上経ったものが生薬として利用されます。陳皮の「陳」とは、「古いもの」を意味するため、一般的に年代を重ねたものの方が優れた薬効を持つことから、陳皮と呼ばれるようになりました。
また、未成熟の青い皮を乾燥させたものを青皮(せいひ)、オレンジ色に熟れた皮を乾燥させたものを橘皮(きっぴ)と呼びます。
陳皮には吐き気を止める作用、体内の余分な水分を追い出す作用などがあります。漢方薬では六君子湯(りっくんしとう)や平胃散(へいいさん)などに利用されています。また、正月に飲む屠蘇散(とそさん)[※3]にも使用されており、厄病退散の縁起物として重宝されています。それ以外にも日本では七味とうがらしの一味としても利用されています。

<豆知識①>先人の体を温める知恵 みかん風呂
古くからみかんやゆずなどの柑橘類の皮は入浴時の入浴剤のようなものとして利用されてきました。これは、柑橘類が持つ香り成分、リモネンやテルピネンなどを主成分とした精油が湯に溶け出し、毛細血管を広げ、血行を促進することから体をより早く芯まで温める効果によるものです。血流が改善されることで、手足のひえや肩こり、腰痛の改善、疲労の回復などに良いとされ、体を温めるための古くからの知恵として知られています。

<豆知識②>陳皮のつくり方と利用法
陳皮はみかんの皮を干したものであるため、家庭でも簡単につくることができます。
通常、果実を食べ終わったみかんの皮は捨ててしまいますが、その皮を粗く刻んでザルに広げ、陰干しでカラカラになるまで乾燥させます。乾燥した皮は最初の量の2~3割程度になります。これで陳皮は完成です。
陳皮には、陳皮茶として飲んだり、粉末にして料理の香り付けにしたりするなど様々な利用方法があります。
陳皮茶は、急須に陳皮を3g(小さじ1杯)程度入れ、熱湯を約300mℓ注いでから4~5分蒸らし、お好みではちみつなどを入れて飲用します。体を芯から温め、血流を改善する効果があります。
また、陳皮をフードプロセッサーなどで粉々にして、味噌汁や煮物などの香り付けとして利用します。粉末にした陳皮は密閉できる容器に入れておくと長期間保存できます。
みかんの果実にはビタミンCなど様々な成分が含まれますが、体を冷やす作用を持つため、食べ過ぎるのは良くありません。皮は果実以上にビタミンCが多く含まれ、体を温める効果をはじめとする様々な薬効を持つため、捨てずに利用する方が良いとされています。

●陳皮の歴史
陳皮の原料であるみかんは、3000万年前のインドやタイ、ミャンマーなどが原産地であるといわれています。中国では4000年程前からみかんの栽培が行われており、日本には中国浙江省温州府から伝わったといわれています。鹿児島県長島町からは温州みかんの古木が発見されたといわれており、日本で初めてみかんの栽培を行ったのは鹿児島県であると考えられています。
日本では、当初みかんは食用ではなく薬用として使用されていました。つまり、伝来当初より陳皮として利用されていたと考えられています。
みかんが食用とされ始めたのは、江戸時代後期に入ってからといわれています。また、「みかん」の呼び名で栽培されるようになったのは、明治時代に入ってからだといわれており、薬用としての歴史は古いものの、食用としての歴史は比較的新しいものだと考えられています。

●陳皮に含まれる成分と働き
陳皮には、香り成分であるリモネンが含まれています。
リモネンとは、柑橘類の果皮に多く含まれる成分で、甘酸っぱく爽やかな香りを持ちます。リモネンにはリラックス効果があるとされています。またそれ以外にも、体内で交感神経[※4]を刺激し、脂肪を燃えやすくする効果も期待されています。
リモネンは油汚れを落とす洗剤にも利用されています。また発泡スチロールを溶かす性質を持つことから、発泡スチロールの接着剤などとしても利用されています。リモネンは柑橘類に含まれる精油に含まれる成分の大部分を占めており、リモネンを含む精油はアロマテラピーとしても利用されています。
また、陳皮にはテルピネンという香り成分も含まれています。テルピネンとは、精油に含まれる成分で副交感神経強壮作用や鎮痛作用、鎮静作用、抗炎症作用を持ちます。樹脂のような香りを持ち、テルピネンを含む精油はリモネンと同様、アロマテラピーにも利用されています。
陳皮には、ポリフェノールの一種ヘスペリジンも含まれます。ヘスペリジンとは、みかんなどの皮やスジに多く含まれる成分で、毛細血管を強くし、血流を改善する効果があります。
このように陳皮は多くの有効成分を含み、血流改善をはじめとする様々な効果を発揮します。

[※1:生薬とは、天然に存在する薬効を持つ産物から、有効成分を精製することなく体質の改善を目的として用いる薬の総称です。]
[※2:日本薬局方とは、日本国内の医療における重要な医薬品の品質・強度・純度などについて定めた基準のことです。]
[※3:屠蘇散(とそさん)とは、元旦に服用する延命長寿の漢方薬のことです。]
[※4:交感神経とは、生命を維持している自律神経の一種です。不安・恐怖・怒りなどストレスを感じている時に働きます。]

陳皮(ちんぴ)の効果

●血流を改善し体を温める効果
​陳皮には、血流を改善する効果があります。
​血流は毛細血管などが縮むことで悪くなり、末梢まで血液が運ばれなくなることで冷えが生じます。血液は酸素や栄養だけでなく、温度を運ぶ役割も担っているためです。
陳皮はリモネンやヘスペリジンが含まれているため、毛細血管を広げ、血液が流れやすいよう働きかけ、温度を末梢血管まで運ぶため、体を温める効果があるといえます。【1】

●美肌効果
陳皮は、紫外線によって皮膚コラーゲンが分解されることを抑制する働きが知られています。あわせて、陳皮に含まれるヘスペリジンにはコラーゲン合成促進効果も報告されており、肌の健康を保つ効果が期待されています。【3】

●生活習慣病の予防・改善効果
陳皮には、コレステロール合成酵素の働きを抑制することが報告されており、高コレステロール血症の予防に役立ちます。また糖尿病の予防効果も報告されており、生活習慣病予防効果があると期待されています。【4】【5】

●肝機能を高める効果
陳皮にはC型肝炎の感染を予防する働きが報告されており、肝臓保護効果を持つと考えられています。【5】

●アレルギー症状を緩和する効果
陳皮には抗炎症作用があり、花粉症をはじめとする種々のアレルギー症状に対する予防効果を持つことが報告されています。【1】【2】

●リラックス効果
陳皮に含まれるリモネンなどの香り成分はリラックス効果を持ちます。
香りは大脳に直接働きかけるため、脳をすっきりさせ、ストレスをやわらげるなどのリラックス効果をもたらします。【8】

●胃腸の機能を高める効果
陳皮には、胃腸の調子を整え、食欲不振や吐き気、消化不良などを鎮めてくれる働きがあります。
胃酸過多や下痢の症状にも良いとされ、医薬品の成分としても使われています。

●せきや痰(たん)を抑制する効果
陳皮はせきを鎮め、痰を抑える効果があります。そのため、せきや痰などを抑える漢方薬として古くより利用されてきました。
また、陳皮にはビタミンCも含まれていることから、体の免疫力を高め、風邪などの予防にも効果があると考えられています。

●むくみを予防・改善する効果
毛細血管は体の組織に栄養や酸素を運ぶ役割を持つため、適度に透過性が保たれている必要があります。毛細血管の透過性は、悪すぎても良すぎても体にとっては悪く、適度に保つことが必要です。
透過性が良くなりすぎるとむくみや高血圧症などの症状を引き起こします。陳皮など柑橘類の皮に多く含まれるヘスペリジンは、この透過性の亢進を抑え、毛細血管を強くする働きがあるため、むくみを予防・改善する効果があるといえます。

陳皮は食事やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

○血流を改善したい方
○ストレスをやわらげたい方
○胃腸の健康を保ちたい方
○風邪をひきやすい方

陳皮の研究情報

【1】ヘスペリジン(HES)およびグルコシルヘスペリジン(GHES)が高血圧自然発症ラット(SHR)に対してどのような作用を及ぼすかについて検討しました。SHRに30mg/kg/日のHESまたはGHESを25週間与えたところ、血管の直径は大きくなり、また平均血圧が改善されました。さらに血中HDLコレステロールは増加することがわかりました。これらのことからGHESおよびHESの摂取は、血圧を下げる働きがあることがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14974738

【2】ヘスペリジンのラットへの投与(50mg/kgまたは100mg/kg皮下投与)はカラギナン誘発の浮腫をそれぞれ47%、63%抑制しました。また100mg/kgのヘスペリジン投与ではデキストラン誘発浮腫を約33%まで抑制することがわかりました。これらの結果から、シトラスから抽出したヘスペリジンはゆるやかな抗炎症作用を有することがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8021799

【3】陳皮はフラボノイドの一種ヘスペリジンを含んでいることが知られており、ヒトの皮膚細胞(真皮繊維芽細胞)に陳皮抽出物を投与すると、コラーゲン分解酵素コラゲナーゼが紫外線によって活性化されることを抑制しました。合わせて、陳皮に含まれるヘスペリジンはコラーゲンの合成を促進することも知られており、陳皮は皮膚保護作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22422675

【4】Ⅱ型糖尿病マウスに陳皮抽出物を0.2% 含有する餌を6週間摂取させたところ、糖尿病による体重増加や体脂肪、血糖値の上昇が抑制されました。陳皮抽出物には、肝臓の糖新生の抑制および脂肪酸酸化を促進することによる脂肪肝の予防と血中トリグリセリドの上昇抑制効果が確認されました。また肝臓、血中の炎症関連物質IL-6, IFN-γの減少と抗炎症物質IL-10が増加したことから、陳皮抽出物は糖尿病予防効果と抗炎症作用を有することが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22694954

【5】高脂肪食摂取ラットに陳皮の有効成分ヘスペリジンとナリンギニンを0.5% 含む餌を42日間摂取させたところ、高脂肪食摂取による肝臓中のコレステロールやトリグリセリドの増加が抑制されました。コレステロール合成酵素HMG-CoA ならびにACAT のはたらきが抑制され、糞便中へのコレステロール排出も低下していたことから、陳皮は肝臓合成コレステロールの阻害作用により、高コレステロール血症予防効果と脂肪肝予防効果を有することが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10356084

【6】ヒトの細胞(ヒトリンパ芽球白血病細胞:MOLT-4)に陳皮抽出物を投与すると、C型肝炎ウィルスの感染が抑制されたことから、陳皮には肝臓保護作用があることが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15844836

【7】陳皮抽出物には、I型アレルギー、Ⅱ型アレルギー、Ⅳ型アレルギーに対する抑制作用が確認されました。またこの作用は、みかんが成熟するともに減少し、未成熟果実の方が強いこともわかりました。このことから、陳皮には抗アレルギー作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2614666

【8】陳皮の機能性成分であるヘスペリジンはオピオイド受容体を通し、抗不安作用を有することがわかりました。またこのことから、ベンゾジアピンとともにヘスペリジンを併用し、鎮静作用だけではなく痛みに対する新たな治療方針も考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18048026

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参考文献

・Emim JA, Oliveira AB, Lapa AJ. (1994) “Pharmacological evaluation of the anti-inflammatory activity of a citrus bioflavonoid, hesperidin, and the isoflavonoids, duartin and claussequinone, in rats and mice.” J Pharm Pharmacol. 1994 Feb;46(2):118-22.

・Loscalzo LM, Wasowski C, Paladini AC, Marder M. (2008) “Opioid receptors are involved in the sedative and antinociceptive effects of hesperidin as well as in its potentiation with benzodiazepines.” Eur J Pharmacol. 2008 Feb 12;580(3):306-13.

・日経ヘルス 編 サプリメント大事典 日経BP社

・Bae JT, Ko HJ, Kim GB, Pyo HB, Lee GS. 2012 “Protective Effects of Fermented Citrus Unshiu Peel Extract against Ultraviolet-A-induced Photoageing in Human Dermal Fibrobolasts.” Phytother Res. 2012 Mar 15. doi: 10.1002/ptr.4670. [Epub ahead of print].

・Park HJ, Jung UJ, Cho SJ, Jung HK, Shim S, Choi MS. 2012 “Citrus unshiu peel extract ameliorates hyperglycemia and hepatic steatosis by altering inflammation and hepatic glucose- and lipid-regulating enzymes in db/db mice.” J Nutr Biochem. 2012 Jun 11. [Epub ahead of print]

・Bok SH, Lee SH, Park YB, Bae KH, Son KH, Jeong TS, Choi MS. 1999 “Plasma and hepatic cholesterol and hepatic activities of 3-hydroxy-3-methyl-glutaryl-CoA reductase and acyl CoA: cholesterol transferase are lower in rats fed citrus peel extract or a mixture of citrus bioflavonoids.” J Nutr. 1999 Jun;129(6):1182-5.

・Suzuki M, Sasaki K, Yoshizaki F, Oguchi K, Fujisawa M, Cyong JC. 2005 “Anti-hepatitis C virus effect of citrus unshiu peel and its active ingredient nobiletin.” Am J Chin Med. 2005;33(1):87-94.

・Kubo M, Yano M, Matsuda H. 1989 “Pharmacological study on citrus fruits. I. Anti-allergic effect of fruit of Citrus unshiu Markovich (1).” Yakugaku Zasshi. 1989 Nov;109(11):835-42.

・Ohtsuki K, Abe A, Mitsuzumi H, Kondo M, Uemura K, Iwasaki Y, Kondo Y. (2003) “Glucosyl hesperidin improves serum cholesterol composition and inhibits hypertrophy in vasculature.” J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2003 Dec;49(6):447-50.

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